ネオンが消えた夜・新元号へ
平成が終わり令和となった。
街はお祭り騒ぎだったが、結局平成では何も成し遂げることはなかった。
やせ我慢ばかりの30年間。
新元号へとタイトルに書いたが、話は令和のことではなく平成になった時、つまり昭和が終わった日の出来事。
時は1989年まで遡る。
以前も書いたように、その当時狂ったように競馬にドハマリし、その資金を捻出するために、アルバイトをしながら休みの日にパチンコであぶく銭を稼ぐことを繰り返していた。
一日一台のみ打ち止めにして帰る。
釘は不本意ながら前々日との比較。
アルバイトがあるので仕方ない。
パチンコ屋には無条件で店が儲かる期間があるのをご存知だろうか?
いわゆる盆と正月だ。
特に年末年始ともなると釘を開けなくても客で店内は溢れかえる。
店内はゴチャゴチャで釘も開かないとくれば、パチプロにとっては地獄の期間だ。当時はまだパチプロではないけれども。
よって年末年始はパチプロは無条件に休みとする。
クリスマス頃までに稼ぎをためて、年明けからしばらく経って落ち着いた頃に再始動。
仕方がない、混んでるし出ないんだから・・・と、何かと言い訳をつけて酒を浴びて過ごす。
再始動するに当たって、まず一番始めにしなくてはならないのが釘を覚えること。
酒が詰まった脳みそを横からコンコンと叩きながら、クリスマス頃の釘の記憶を引きずり出し、比較し記憶していく。
こいつこんなだったかな?
いやいや待て待て・・と。
年末年始にメチャクチャにされた釘がある程度元に戻されたとは言え、メチャクチャになる前よりも戻し足りない台もちらほらあったりする状況。
要するに釘を開けたと言ってもクリスマス以前よりは締まっている状態なのだ。
頭の中の引き出しを開けて、それがきちんとそこまで戻っているかを確認する。
これがなかなか面倒で大変な作業となる。
だからやりたくない(笑)
でもいつかやらなきゃ稼げない。
後回しにすればするほど釘の記憶も薄くなる。
そろそろ行かなきゃ。今日は寒いヤメた。
今日こそホントに行かなきゃ。明日でいいや酒呑もう。
当時はプロではなかったが、これに関してはプロとなってからもやはり同じだった。
人間的にだらしないからパチプロなんかになったんだから当たり前。
プロじゃなくても当時から俺はだらしのない人間なのは間違いない。
その年、ようやく重い腰を上げたのが1月7日だった。
三が日が終わったら行かないとと思いながらもズルズルとその日まで伸びたのだ。
するとどうだろう。
昭和が終わっていたんだ。
令和の時のようなお祭り騒ぎなんて当然ながらない。
にわかには把握し難い。
それを受け止めるには昭和時代はあまりにも色々ありすぎたし、あまりにも長過ぎた。
戦争もあり、その後の復興もあり、奇跡的な経済成長もあり。
パチンコを含む様々なものも生まれ、それが生活となっていった。俺も生まれた。
そんな時代が突如終わった。
よくわからない感情のまま、いつものパチンコ店へと地下鉄に乗って向かった。釘を見るために。
でも覚えていないんだ。
そもそも店が開いていたかどうかも覚えていないくらい。
夜だったのは覚えてる。
釘を見るだけなので打つ気もなかったから。
雪が深々と降っていたのも覚えてる。
その中をとぼとぼと、そして寒さに震えながら歩いていたことも覚えてる。
店に着いて釘を見たのか見ていないのか?
気がつけば生まれ育った街であるすすきのの方へと足を向けていた。
このよくわからない感情を正常に戻すため、一度原点へ帰ろう。
活気あふれるすすきのの、あの雑踏で揉まれてから一杯引っ掛けて今日は帰ろう。
頭に積もる雪を払いつつ咥えタバコで歩きながら、次第と足は早歩きになる。
そうして辿り着いたすすきの交差点。
テレビやなんかでよく見ているであろうあの交差点だ。
そこで俺は愕然とした。
ネオンが全て消えていたのだ。
天皇崩御に伴い喪に服しネオンは消灯。
いつもはネオンの明るさに負けて全く目立つこともない街灯だけが光を放っていた。
市電のすすきの駅のホームのそばでタバコに火をつけて、名物のニッカウイスキーの看板の方を見上げる。
真っ暗だ。
見上げた空から雪がゆっくりと舞い落ちる。
とても幻想的な風景だった。
ふぅとタバコの煙を雪の舞う空に吐き出しながらようやく納得した。
昭和が終わったんだ、と。
正直天皇陛下に何かをしてもらったわけでもないし、何かを貰ったわけでもない。
だからそこまで特別な感情もなかった。
当たり前にそこにいて、当たり前に昭和が続いていたというだけ。
その当たり前が終わった。
当たり前のことが当たり前じゃなくなる、何とも言えない喪失感。
新時代への期待感より遥かに大きな喪失感。
それを抱えたまま時代は、俺が何も成し遂げることがない平成へと移り変わっていった。
今回元号は平成から令和へと移り変わった。
お祭り騒ぎに乗じて「今度こそ何かを成し遂げるぞ!」なんて野心はこれっぽっちもない。
そんなのあるなら平成のうちにやってるよ(笑)
ただひとつ、無理やり何か成し遂げたことを言うならば、平成を七転八倒しながら生き抜いてやったってことぐらいだろうか?
それで十分であり、それがいちばん大切なことだと思う。
どうやら今度ばかりはそれすらも成し遂げられそうにない気もするが。
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