見出し画像

書評;パワーリフティング入門

 パワーリフティングとは、「スクワット」、「ベンチプレス」、「デッドリフト」の挙上重量の合計を競うスポーツである。

 オリンピックで目にする重量挙げは、ウェイトリフティングと呼ばれ、「スナッチ」と「クリーン&ジャーク」の挙上重量の合計を競うものであり、パワーリフティングとは全く異なるスポーツである。

 さて、少子高齢化が急速に進む現下の日本において、健康寿命の延伸と医療・介護費の抑制は喫緊の課題であるが、私はパワーリフティングの普及がその一助になると考えている。その理由は、筋肉量の維持・増大という点で、パワーリフティングが最も時間対効果が高いことである。

 もちろん、競技のためではないので、三種目の全てを行う必要はない。各人の運動器の状態に合わせて、代替種目に変更したり、間引いたりすることが適当な場合も当然あるだろう。それでも、バーベルを用いてなるべく多くの筋群を動員できる種目と、それによる生活上の利点を理解しておくことは今後に備える点で有用である。

 とはいえ、パワーリフティングに関する入門書や解説書はそれほど一般的ではなく、導入に躊躇している方も多いと思う。そのため、今回は吉田進氏による一連の書籍を紹介したい。


①「パワーリフティング入門」(吉田進(著)、体育とスポーツ出版社、1991年7月)

画像2

 おそらく本邦初のパワーリフティングに関する体系的な書籍であろう。著者のトレーニングに対する基本姿勢は、「少ない労力で最大の効果を得る科学的トレーニング」と「常に前向きのポジティブ・マインド」である。

 著者は「力は筋肉の横断面積に比例する。すなわち太い筋肉は力がある。そこで、パワーリフターたちのように1年中重い物を持ち上げるためのトレーニングをしていると、記録が伸びるにしたがって筋肉の横断面積は大きくなる。つまり筋肉は太く大きくなる。」と述べ、「筋量の基本である白筋をふやすベーシックなトレーニング」の「一番手っとり早い方法がパワーリフティングだと」結論付ける。

 私も著者の主張に同意する。全身の筋量の増加を目的とする場合、同じ時間をかけるのであれば、小筋群よりも大筋群を鍛えたいし、特別なマシーンや場所が必要な種目よりは、どこのジムでもできるような普遍的な種目を選びたい。それには、フリーウェイトと呼ばれるバーベル種目が適切であろうし、部分的な種目よりは全身的な種目の方が望ましい。また、動作の習得も速度や動作中の脱力が要求されるウェイトリフティングよりも、パワーリフティングの方が容易であろう(もちろん、パワーリフティングにおいても、最上級者に求められる動作水準は別の次元であることは承知している。)。

 さて、パワーリフティングにおける最も基礎的なトレーニングメニューとして、著者は8 RM(最大で8回挙上できる重量)で3-5セットを提唱している。また、「力をつけるには一つの筋肉群につき週2回トレーニングすれば必要十分である」ことと、「100%力を出しきるのは一つの筋肉群につき週1度で十分」であることとを二大原則とし、結論として8 RMでの3-5セットのトレーニングを、スクワット週2回(重い日と軽い日)、ベンチプレスを週2回(重い日と軽い日)、デッドリフトを週1回行うことが有効であるとしている。なお、デッドリフトが週に1回なのは、固有背筋がスクワットでもかなりの強度で使われているためだとされる。

 もちろん、各種目の具体的なテクニックや補助種目も後に紹介されているが、この本の意義は前述の基本原則を明示したことにあるといえる。

 実際に著者が良く好んでいたと思われるメニューは、8回2セットというものであり、この場合の重量設定は9-10 RMであろう。

 因みに私の場合は、集中力がなかったこともあり、8 RMで3セットとすることが多かった。つまり、挙上回数は8回、6回、4回というように漸減していく。2セット目以降の回数はあまり気にしないので、実質的に1セット目しか集中しない。これが、10回、8回、7回などのように、1セット目で10回できるようになれば、次回から5 kg程度重量を増していた。各自、自分に合うように微調整するといいだろう。


②「パワーリフティング入門 改訂版」(吉田進(著)、体育とスポーツ出版社、2004年4月)

画像1

 基本的には前著と同一の構成である。第1章で紹介される「パワーリフティング出身のボディビルダー」の写真が、マイク・アシュリー→ケビン・レブローニ、マイク・オハーン→ルイス・フレイタス、岩間勧→山岸秀匡、長谷川尚子→佐々木景子に変更されているが、これは重要ではない。

 前著との大きな違いは第10章「トップリフターのトレーニング法」で紹介されるリフターだ。前著では、因幡英昭選手、前田都喜春選手、近藤好和選手のトレーニング方法が紹介されていた。それに対して、本著では前田都喜春選手が三土手大介選手に変更されている。また、第11章「ジュニアリフターのトレーニング法」、第12章「マスターズリフターのトレーニング法」も追加されている。

 因幡英昭選手はその特殊なトレーニング法、近藤好和選手は著者の推奨する短時間で低頻度のトレーニング法のために継続的に紹介されているのであろう。ピーキングの概念も積極的に取り入れた前田都喜春選手のトレーニング法も詳細に記され、現在の目でみても古さを感じさせないが、ベンチプレスの手幅を使い分けたり、高重量になってくると9日間のサイクルに移行したりするなどの、入門用という本著の性格に必ずしも合致しないところが、改訂版で割愛された理由であろうか。それにしても、著者自身が(著者の経営するジムである)「パワーハウスの10数年のトレーニング方法の研究をベースにした」「一つの完成形」と記す三土手大介選手のトレーニング法は、メニューやプログラムこそ著者好みのシンプルなものであるが、その重量は圧巻である。


③「続 パワーリフティング入門」(吉田進(著)、体育とスポーツ出版社、2010年2月)

画像3

 改訂版かどうかはともかく、「パワーリフティング入門」を読んでいることを前提に、基礎となる8 RMで3-5セットではないトレーニング法と、ギアの紹介に焦点が当てられている。その他、各種目の細かい注意点や工夫なども写真付きで解説されている。発売当初はロシアン・ルーティーンというトレーニングメニューが最も注目されていたように思う。

 また、固有名詞を出してはいないものの、「人間の体には、様々なタイプがあるのは事実ですが、その分布は偏差値のように中央に多く集まり、癖の強い人は少ないはずです。まして2つや4つのグループに分かれているとはどうしても思えません。」と「4スタンス理論」への批判が記されている。個人的には、「4スタンス理論」も各人に最適な動作様式があることに焦点を当てており、4つに分類することを目的にしているわけではないと思う。著者としても、特定の理論を攻撃したいというよりは、あることを絶対視し、教条化することに対する注意を促しているだけであろう。

 以上、パワーリフティングに関する吉田進氏の一連の書籍を紹介した。

 因みに、私が特に推奨したいのは、内容がより包括的で、入手が比較的容易なことから、「パワーリフティング入門 改訂版」である。本記事が、「これからパワーリフティングを始めたい。」、あるいは、「スクワット、ベンチプレス、デッドリフトの基礎を学びたい。」という方に参考になれば幸いである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?