最強漫画の作り方-『Dr.マシリト 最強漫画術』
今回は『Dr.マシリト 最強漫画術』(鳥嶋和彦/霜月たかなか・著)について、ご紹介します。
筆者である鳥嶋和彦氏はご存知の通り、『週刊少年ジャンプ』や集英社のレジェンドであり、もはや紹介は必要ないでしょう。
本書では、鳥嶋氏が開発した「鳥嶋メソッド」をもとに、『Dr.スランプ』『DRAGON BALL』『電影少女』『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』などの作品の誕生秘話や事例を、豊富な図版と共に解説しています。
本書がほかの漫画指南本と異なる点は、大きく2つあります。
数多くのメガヒット作品やカリスマ作家を生み出してきた鳥嶋氏自身が、知見を語っていること
漫画家の視点ではなく、編集者(プロデューサー)としての視座からも漫画やコンテンツビジネスを語っていること
本書では、最強の漫画術というのは『読者の視点』で書くための方法論というスタンスをとっています。
本書は、
漫画家を目指すひと
コンテンツ制作のディレクターやプロデューサー
漫画やアニメが好きで、より深く作品を理解したい読者
にとって、めちゃくちゃ価値ある一冊になっています。
メソッド自体はシンプルで分かりやすいうえ、筆者の膨大な実践と実績に裏付けされているため、説得力が半端ない(笑)。随所に、金言が散りばめられています。
さらに、コマ割りなどの漫画制作テクニックから、漫画家や編集者に必要とされるメンタリティ、週刊漫画雑誌のビジネスモデル、メディアミックス、そして漫画の未来などについても詳述しており、読みごたえ十分な一冊となっています。
今回は本書より、ボクが特に重要だと感じたポイントについて抜粋します。
「最高のキャラクターが活躍する明快な冒険アクシション」
本書によると、その漫画がヒットするかどうかの最大のポイントは、
「読みやすさ」
であるといいます。
読みにくければ、絵や物語がどれだけ魅力的であっても、面白さが伝わってこないからです。
そのうえで、最強漫画(特に連載形式の少年漫画)のポイントは、以下のキャッチコピーに集約されるといいます。
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「最高のキャラクターが活躍する明快な冒険アクシション」
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【条件①】最高の主人公
漫画づくりで大切なのは、「強烈な魅力を放つ主人公」をつくることです。
どれだけ物語が魅力的であっても、主人公に魅力がなければ、読者はその漫画を続けて読むことはできないのです。
極端な言い方をすれば、主人公が魅力的であれば物語自体は必要ない、とも説きます。
【条件②】誰にもわかる展開
漫画にとって、「分かりやすさ」は重要です。
筆者は、プロの漫画家として成功できない最大の理由として、「読みにくさ」をあげています。面白さは、分かりやすさ・読みやすさの上に成り立っているわけです。
【条件③】果てなき冒険に挑め
「少年漫画の主人公とは、例外なく挑戦者でなければならない」
「困難な課題に立ち向かい、それを乗り越える主人公にこそ、読者は自分の姿を重ねてワクワクするからだ」
考えてみれば、ボクたちが推したくなる・応援したくなるのは、何かに挑戦している人たちです。困難に立ち向かう姿勢は、多くの人の共感を集めるのです。
【条件④】決め手はアクション
アクションをドラマチックに魅せることも少年漫画にとっては重要です。また、戦闘だけがバトルではありません。
「ゲームであったり、知恵比べであったり、恋の駆け引きであったり、暴力を伴わない戦いをボラマチックに描くことができるのもまた少年漫画なのである」
「読者が何を見たいか・読みたいか」
本書で筆者が強調していること。
それは、漫画家は「自分がどう作りたいか・見せたいか」ではなく、「読者が何を見たいか・読みたいか」という観点を重視すべきであるということです。
ボクも『DRAGON BALL』はド世代で何度も繰り返し読んだファンの一人です。
ときどきファンの間では、本作に関して物語の一貫性について、ちょっとしたツッコミ(難癖?)が入ることがあります。
例えば、「あれ?物語が進むにつれて、ドラゴンゴールが目的から手段に変わっている……」といったものです。
しかしながら、こうした点についても、
物語にこだわって展開を遅くしない
読者の反応次第で物語の変更をためらわない
という試行錯誤の結果であり、実際に読者ドリブンで物語を進化させたDRAGON BALLはV字回復を遂げました。
このような、読者にまっすぐに向き合う割り切りこそが「最強の漫画」を生み出すメンタリティであり、プロとして持つべき心構えなのでしょう。
さらには編集者(ひいては、ディレクターやプロデューサー)にとって最も大切なのは、読者の視点から作品が見やすく、面白いかどうかを正確に判断できるかどうかである、と説きます。
「読者が読みたい漫画を書く」
「読者の視点に立てるのは編集者である」
—シンプルなメッセージではありますが、すべての表現者・クリエイター、そしてそれらを支える人たちにとっての金言ではないでしょうか。
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