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若年層の心を掴むエンタメ術とは?ー『「若者の読書離れ」というウソ』

本書は、編集者はもちろん、エンタメ、マーケティング、企画、ものづくりに関わる方々に読んでいただきたい新書です。

今回紹介する本は、飯田一史さん『「若者の読書離れ」というウソ (平凡社新書)』です。


この本は、主に以下の2点から成り立っています。

  • (How much?)「近年の若者(小中高大学生)」における読書の定量的な現状とは?
    →実は、小中学生では読書率・平均読書冊数は2000年以降、V字回復を遂げている

  • (What?Why?)中高生が実際に読んでいる本の内容はどのようなものか?

中高生がエンタメに求める“インサイト”と“ソリューション”を分析


この本の最も注目すべき点は、中高生がどんな内容の本を読んでいるか?を、著者の豊富な読書量と緻密な分析に基づき考察している部分だと思います。

本書では、中高生の読書傾向を「学校読書調査」などのデータに基づき分析し、

■中高生が持つニーズ(読書体験に求める“インサイト”と言ってもいいかも)

と、

■これらニーズを満たすための本の物語上の設定・パターン(型)=効果的なソリューション

を明確に定義しています。

確かにこれらは中高生をターゲットにした分析に基づくものですが、筆者の深い考察により、最近のエンタメ全般における“インサイト”と“ソリューション”を浮き彫りにしていると感じています。

そのため本書は編集者の方はもちろん、プロデューサー、マーケター、クリエーターの皆さんに、是非読んでいただきたい内容です。

なので、書籍のタイトルだけを見て、

「若者の読書離れのウソを数字と取材で展開する本か~、自分には関係ないや」

と早とちりしてしまうと、少しもったいない。

良い意味で、定量的なファクトフルネスを追求する内容は、全体のほんの一部でしかありません(笑)

中高生が持つ3つのニーズ(エンタメに求めるインサイト)とは?

■1.正負両方に感情を揺さぶる(って欲しい)
泣ける、こわい、ときめく、笑える、切ない、スカッとする……といった感情に激しく訴えかける。それも「哀しい」「楽しい」一辺倒ではなく、アップダウンがあったほうがより好まれる。

■2.思春期の自意識、反抗心、本音に訴える(て欲しい)
思春期ならではの普段、友人や家族にいえないようなモヤモヤ、イライラ、不安や不満、反抗心、切実な思いなどをキャラクターが代弁し、昇華してくれるものを求めている。

■3.読む前から得られる感情がわかり、読みやすい(くして欲しい)
語彙が平易で、描写が少なく、設定やストーリーラインがシンプル。パッと見て読む前から「エモそう」「ヤバそう」といった予感を与えてくれ、実際すらすら読める内容。

ーー以上が、著者が実際に中高生が読んだ本をもとに考察した、彼らが持つ3大ニーズです。

これらの3大ニーズを満たすための、物語上の4つの型とは?

①自意識+どんでん返し+真情爆発
・主人公が他者からの視線や評価を気にする「自意識」と、作劇上の「どんでん返し」、「真情(秘めたる想い)が終盤で爆発」することがセットになるパターン

・例:
住野よる作品、西尾維新<物語>シリーズ、『人間失格』(太宰治)、『かがみの孤城』(辻村深月)

②子どもが大人に勝つ
・例:
『名探偵コナン』の小説版、『探偵チームKZ事件ノート』(藤本ひとみ、住滝良)、『ぼくらの七日間戦争』(宗田理)、『ぼくら』シリーズ(宗田理)

③デスゲーム、サバイバルゲーム、脱出ゲーム
・登場人物が命をかけて、閉鎖空間のなかでなんらかのゲームを行うか、殺し合いを繰り広げる「デスゲーム」。あるいは極限状態での生き残りをかけた「サバイバル」もの。閉鎖空間に閉じ込められた登場人物たちが怪物やシリアルキラーなどの魔の手から逃れて外へと脱出するもの。

・例:
『バトル・ロワイアル』(高見広春)、『王様ゲーム』(金沢伸明)、『青鬼』の小説版

④「余命もの(死亡確定ロマンス)」と「死者との再会・交流」
・主人公または主人公の想い人(となる存在)の死期が宣告されている。また、なんらかの超自然的な力を用いて、死者と残された人間とが一時的に再会・交流し、また別れる。

・例:『余命10年』(小坂流加)、『桜のような僕の恋人』(宇山佳佑)、『君は月夜に光り輝く』(佐野徹夜)、『西由比ヶ浜駅の神様』(村瀬健)、『ツナグ』(辻村深月 )

以上が、3大ニーズを満たす型と具体的な作品例です。

さらに、中高生向けの特徴的なジャンルとして

  • ライトノベル

  • ボカロ小説

  • 「空想科学読本」などのノンフィクション

  • 「五分後~」などの短編小説

  • 韓国エッセイ/twitter・インスタポエム

  • YouTuber本

  • その他本屋大賞作品

などが紹介されています。

『良書』偏重の読書観が現実を見えないものにしてしまう

ここで取り上げられる本にはいわゆる「良書」として、よく推薦リストに挙がる作品はほとんど出てきません。

つまり、「大人が中高生に読ませたい本」と「実際に中高生が読んでいる本」には大きな乖離があるのです。

しかしながら、こうした現状を認識せず、

「子どもの本離れ」とか
「ケータイ小説はもう読まれていない」とか
「中高生はラノベばかり読んでいる」

といった誤ったイメージを持っている人が多い、と筆者は訴えます(恥ずかしながらボクも実はそうでした)。

また筆者は「『良書』偏重の読書観が現実を見えないものにしてしまう」と、警笛を鳴らしています。

「3大ニーズ」と「4つの型」を企画の引き出しに

これら4つの型は、中高生書籍だけでなく、テレビ番組、ゲーム、YouTube企画、CM・広告、イベント企画などでも頻繁に見受けられます。

プロデューサーやマーケター、クリエーターとって、これらの「3大ニーズ」と「4つの型」を踏まえた企画やコンテンツづくりは、大きなヒントになるのではないでしょうか。

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