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1996年9月。ナイトリサイタル in Kagawa
1996年、9月のある夜。
ボクは中2で、香川の真ん中、田んぼだらけの小さな街に住んでいた。(ちなみに、今でも実家はそこにあるし、父と母が元気に住んでいる)
夜になると、その静けさはまるで別世界だ。
ときどき外の虫が悲しそうにカサカサと鳴く。部屋の扇風機は、その生ぬるい風をもたらしてくれるだけだった。
時計の針が9時を指す頃、遠くから「琴電(コトデン)」が踏切を通過するガタンガタンという音が時折、ボクの耳に届く。そしてボクのラジカセからは、Mr.Childrenの「CROSS ROAD」が流れていた。
ボクはギターを手に取り、カセットと同じリズムでコードを追う。
ギターを始めた頃は、詰まってばかりだったコードチェンジやストローク。しかし、最近では次第に手際がよくなり、テープのリズムに合わせて曲を追えるようになってきた。ただ、歌のキーが高くて出せないから、「ふんふん~」と裏声でハミングしていた。
10時になると、町内放送からビートルズの「Yesterday」が「ペポポ~」と情けない雰囲気で流れてくる。
「CROSS ROAD」の歌詞の中には「ticket to ride」というフレーズがあり、ビートルズと繋がっていることに気付く。
ボクのナイトギターリサイタル in Kagawa。
「ふんふん~」のハミングは、9月の香川の夜空に溶け込み、遠くへと消えていった。
外は静かだけど、ボクの部屋は音楽で満たされていた。
遠く想い焦がれて
はりさけそうな夜も Uh
この手に受け止める
つかの間の悲しみは
やがて輝く未来へと yes oh yes uh
あの時は、もちろん恋人もいないし、女子との会話も苦手だった。なので、はりさけそうになる感覚も分からない。
だけど、ボクはなにかに想いを焦がれ、なにか未来っぽいものを思い浮かべて、へへへと静かに微笑む。
魔法にかかったような、1996年の9月の夜。
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