【本要約】サードドア 精神的資産のふやし方
彼らはどうやってキャリアを踏み出したのか?
物語は、普通の学生だった著者が現状への不安や不満を打破するためのヒントを探そうとビルゲイツの自伝を読むことから始まります。
ビルゲイツは世界で一番有名で成功した億万長者です。その成功はとても大きく、著者にとってはエベレストのふもとで山頂を見上げるようなものです。しかし、著者はふと考えます。
そして、他の成功者と呼ばれる人々の自伝を次々に読んでいきます。しかし、成功者の華々しいエピソードは書かれているのですが、意外にもキャリアの第一歩について書かれた本は1冊もないことに気づきます。
映画学校では認められなかったスピルバーグがどのようにしてハリウッド史上最年少で監督になったのか、ニューヨークでウェイトレスをしていたレディー・ガガがどのようにしてレコード契約を結ぶことができたのか、、、
途方も無い成功を手にした成功者でも必ずキャリアの1歩目があるはずです。
そこで著者は、ないなら自分でインタビューをして書いてみてはどうかと思い立ちます。初めはバカに思えたそのアイデアはいつしか頭から離れなくなり、これをミッションとして取り組んでみたいと思うようになります。
こうして、著者は自身のミッションとして、「成功者たちにインタビューを行い、そのキャリアの始まりを探る旅」を始めるのです。そして、この旅は著者にとって単なる情報収集を超えた意味を持つ、自らが「何者かになる」旅になるのです。
成功者はみなサードドアをこじ開けている
本書ではさまざまな成功者にインタビューを行います。ビルゲイツ、レディー・ガガ、スピルバーグ、スティーヴ・ウォズニアック、クインシー・ジョーンズ、、、年代もジャンルもさまざまな成功者です。
一見すると、彼らの成功法則は一貫性がないように見えますが、紐解くと実はある共通点があります。それはキャリアの初期に”サードドア”を使って、チャンスをものにしているということです。
このサードドアこそが本書の最も重要な主張であり、エキサイティングなアイデアです。本書ではこのサードドアについて以下のようなメタファーで語られます。
例えば、スピルバーグは映画学校に合格ができずファーストドアすら突破できませんでしたし、もちろん映画業界に大きなコネを持つようなセカンドドアがあったわけではありません。
しかし、彼はツアーバスでユニバーサルに行った際に、ツアーバスから飛び降り、自分の足であちこちとスタジオをさまよい、ユニバーサル内で働いていた人間を見つけ、監督になりたいという熱意を伝えます。そして、この人間がいろいろと手伝ってくれたおかげで、ショートフィルムを権限ある人間に見せることができ、ついに最年少監督の座を掴むのです。
このスピルバーグの話で重要なのは、ツアーバスを飛び降りる勇気や、監督になりたいという熱意を持っていたことだけではありません。
最も重要だったのはユニバーサル内で働いている人(インサイドマン)を見つけ、味方につけたことでした。ここがサードドアの重要なポイントで、サードドアはインサイドマンが中から開けてくれるのです。
スピルバーグが才能に恵まれていたことは間違いありませんが、同世代の野心的な他の監督も劣っていたわけではありません。その他多くの監督とスピルバーグを隔てたのは、このインサイドマンの存在です。
実際、本書でも著者は重要な成功者に会うため、このインサイドマンを見つけていきます。インサイドマンの心を掴み、彼らに報いる。すると、インサイドマンが成功者に導いてくれ、この成功者がまた新しいコネクションへのインサイドマンになる。そうして、インサイドマンを手繰り寄せ、ついにはビルゲイツへのインタビューを成功させていくのです。
メンターたちの金言
この本のおもしろいところはサードドアというアイデアだけではありません。著者はミッションを達成するために悪戦苦闘するのですが、その度にインタビューした成功者の言葉が彼を助ける金言になります。
まるでRPGでダンジョンをクリアするために必要なアイテムを手にするように、著者はいつもしかるべきタイミングで素晴らしい金言を得るのです。
例えば、活動の初期、まだ実績のない中でどのように信用を勝ち取るのか。著名なビジネス書作家であるティモシー・フェリスからは「信用を借りる」というアドバイスをもらいます。
フェリスは学生時代に「シリコンバレーのスタートアップ起業家の会(SVASE)」にボランティアで入り、組織の信用を借りたそうです。成功者にアプローチする際に「○○大学のフェリスです」ではなく、「SVASEでイベントプロデューサーをやっているフェリスです」と言えるようになったことが結果に大きな違いを生むと言います。
そのほかにもフェリスからはコールドメールの書き方についても学びます。「自分が誰なのか、信用になるような1-2行を添えて名乗る」など、本書では雛形も含めて紹介されています。
例えば、有名人を目の前にどのように立ち振る舞えば仲間と認められるのか。若くして世界的なイベントを立ち上げたエリオットビズノーからは「メンバーとして振る舞う」ことを教わります。「ファンは写真をねだる。仲間は握手をする」といい、仲間とみなされたいなら仲間らしく振る舞うことの重要性を説きます。
また、自身の経験を面白おかしく語れるかどうかで違いが生まれるともアドバイスをします。以降、著者はこのミッションを達成するために経験してきたことを挨拶がわりに語ることで、人々の関心を得ていきます。
エリオットビズノーは著者のメンターとなり、他にも「実力以上の仕事を引き受け、やり方は後から考える」や「緊張に対する特効薬はすぐ行動に移すこと」など、著者を助ける金言を授けます。
他にも生涯5万人をインタビューしたという世界最高のインタビュアーCNNのラリー・キングからは「自分らしくあること」をインタビューの極意として学んだり、ビルゲイツからは「会議で売り込むための第一歩は、相手の不信感を吹き飛ばすこと、その方法は専門知識で圧倒すること」などの交渉術を学ぶことができたりと、さまざまな成功者の金言を得ることができます。
成功者の言葉をまとめたメディアはたくさんありますが、著者の物語・感情を追体験しながら得られる言葉たちは非常に突き刺さるものがあります。
インサイドマンから得られる一次情報の重要性
今回は、「何者でもないものが何者かになる」方法を物語で追体験することができる名著「サードドア 精神的資産のふやし方」について要約、解説して参りました。
改めて本書において重要な主張は、成功するためには「サードドア」を見つけること。そのためには、インサイドマンを見つけることです。
これはビジネスのあらゆる部分に通用しますし、ここで得られる一次情報の価値は、インターネットやAIが発展した現代において重要度が増しています。特に生成AIはプロンプトが同じなら誰でも同品質のアウトプットが出力可能になり、均一化されたコンテンツが多産される時代になりました(巷にはどこもかしこも同じ顔をした美女の写真が使われています)
そんな時代にあって真にオリジナルなものを作るにはインターネットに公開されていないクローズな一次情報が必要になります。そのため、誰でもアクセス可能な情報ではなく、クローズドな情報にいかにアクセスするかが大切です。
また、昨今、生成AIの登場により、あらためて「人間とは何か」「生きるとは何か」が問われているような気がしますが、この物語から得られるエネルギーはまさしくAIにはできない、人間にしか持ち得ない魅力が詰まっていると私は感じました。
本書は456ページと結構なボリュームのあるビジネス書ですが、著者の冒険、ドラマは非常におもしろく、かつ10Pに1回はアンダーラインを引きたくなるような教訓に溢れているため、飽きることなく一気に読み切れます。何も持たない18歳だった著者があらゆる人との出会いを通じて、さまざまな武器を手にし、成長していく様は感動的で、描かれる成功者たちの人間味もまた人間の魅力が詰まっています。
今回の記事は以上になります。
ご一読いただき、ありがとうございました。
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