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書評:小倉義明著『地域金融の経済学』 (経セミ2022年2・3月号より)

小倉義明[著]
地域金融の経済学――人口減少下の地方活性化と銀行業の役割
慶應義塾大学出版会、2021年、四六判、272ページ、税込2970円

https://www.keio-up.co.jp/np/isbn/9784766427578/

評者:原田喜美枝(はらだ・きみえ)
中央大学商学部教授

地域金融の現実を受け止め
理論、実証から今後を考える

本書は、著者のこれまでの地域金融に関する研究をベースに執筆されている書籍であり、研究者としての長年の考察が随所に生かされている。理論的考察や、数多くの実証分析の紹介、それらの断片を組み合わせ、地域金融という経済活動が経済学的にまとめられている。

日本の生産年齢人口は1995年にピークを迎え、この四半世紀の間に15%程度減少している。少子高齢化も進んでおり、地方の資金需要を下押しする要因となっている。長期にわたり市場金利は低迷していて、貸出利ざやは縮小し、地域金融機関の収益力がそがれてきた。地域金融機関を取り巻く環境が厳しいことは今やよく知られている。

こうした暗い事実を冷静に受け止め、どうすればよいかが議論され、異業種提携やイノベーションの重要性等が説かれている。地域金融を研究することの魅力についても語られ、現場にいてはわからないマクロ経済的な視座も提供されている。主な読者層としては、地域金融に携わる人、金融に興味をもつ学生、専門家等であろう。

本書では地域金融に関わる幅広い分野がカバーされており、この分野を専門とする研究者にも大いに参考になり、刺激になる。各章ごとに専門用語が解説されており、初学者にも理解しやすい構成になっている。したがって、最初から順番に読む必要はなく、関心のある章だけを選んで読めるようになっている。

ここで、全7章から構成される各章について簡潔に紹介したい。第1章では、地域金融を取り巻く環境が、図表やデータを多く用いて説明されている。マクロ的な観点から整理すると、地域金融機関を取り巻く環境が非常に厳しいことがよくわかる。緩和的な金融政策の影響で預貸利ざやは縮小しているものの、地域金融機関の経営に大きく影響するのは、実体経済のファンダメンタルズによって決まる自然利子率の低下であるとの見方が示されている。

第2章では、地域金融に限定した話ではないが、金融仲介機能のアンバンドリングが紹介される。フィンテック企業と呼ばれる多くの新興企業が参入したことで生じている変革について、事例も交えた説明があり、地域金融への影響が考察されている。銀行業の歴史を振り返り、金融仲介を理論的に概観しているのが第3章である。

続く第4章以降では、数多くの実証論文がパズルを解くように組み合わされ、解説されている。地域金融を取り巻く環境には地域差があることを、データで示しているのが第4章である。

金融緩和の結果、日本だけでなく主要国で金融機関の利ざやが縮小した。長期にわたる低金利が、金融機関に無理なリスクテイクを促したことが国内外の実証研究をもとに説明されているのが第5章だ。第6章では、地域金融機関の経営統合の功罪を異業種提携の効果等から検証している。

最終章の第7章では、リーマン・ショック、震災、新型コロナ等、危機が続く近年、地域金融機関が地域経済を守るにはどう行動するべきか、どんな企業を支援するべきかといった内容が検討される。地域経済活性化に寄与すること、顧客の利便性向上に資することは地域金融機関自体の収益にも寄与するに違いない。しかし、過剰債務を回避することも地域金融機関の重要な責務だ。本書を通読すると、地域のニーズに応える異業種連携や、イノベーションに対する働きかけをすることは地域経済活性化へのひとつの道であることがよくわかる。地域金融の今後を考える良書である。

■主な目次

第1章 人口動態と地域金融市場
第2章 変容する金融ビジネス――収益源の多様化と他業との緊張関係
第3章 銀行業の金融経済学的理解
第4章 データで見る各地の融資競争――地域により異なる生産年齢人口減少のインパクト
第5章 利鞘縮小が迫るリスクテイク――「利回り追求」と「リスクシフティング」
第6章 地域金融機関の経営統合
第7章 地域に寄り添う地域金融――自然災害と疫病からいかにして地域経済を守るか

https://www.keio-up.co.jp/np/isbn/9784766427578/

『経済セミナー』2022年2・3月号からの転載。

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