作法を知れば、論文はこわくない!:経済論文の書き方[はじめの一歩編]付録
このnoteでは、書籍『経済論文の書き方』の第Ⅰ部「はじめの一歩編」の内容を中心に、ここで紹介されている参考図書・資料などに触れながら内容をざっくり紹介したいと思います!
本書は、第Ⅰ部「はじめの一歩編」、第Ⅱ部「実証編」、第Ⅲ部「理論編」、第Ⅳ部「技法編」の4つのパート、19の章で構成されています(全体の内容紹介は以下のnoteに!)。
このnoteでは、その4つのパートの最初「はじめの一歩編」にフォーカスします。本書の巻頭は、第1章「論文の書き方はどう教えている?」という座談会を収録しています。登壇者は、バラエティに富んだ以下の4名の先生方にお集まりいただき、
それぞれの指導経験をふまえて、4つのトピックに分けてディスカッションをいただきました。
そして、以下の4つの章が続きます。
以下では、第Ⅰ部の各所で取り上げられたされた参考情報、学習に活用できる資料や文献などをリンク付きで整理してご案内します!
■論文の「問い」はどうやって立てる?
はじめて論文を書くときに、まず直面するのが、「どうやってテーマをみつければよいのか?」という問題です。
座談会では、「そもそも(学術)論文とは何か?」という点をスタートラインに、どうやって自分の日常の疑問や関心のある社会問題を論文の「問い」に変えていくかを、多角的に学んでいきます。まず鍵になるのは、「論文とお気持ち表明は違う」ということです。
小原先生の第2章では、夕食をつくりながら耳に入ってきたラジオでパーソナリティーが話していた「味噌って体によさそう」という話が本当なのか? という疑問から、データを使って検証できる形に問いをブラッシュアップして、リサーチクエスチョンに仕上げていく手順を伝授します。「こんなに身近な疑問でいいのか!」と少しホッとする内容ですが、とても参考になる手順が書かれています。ここで参照したデータは総務省統計局「家計調査」と、厚生労働省「都道府県別生命表」です。
萩原先生の第3章は、まず研究テーマの選び方から話が始まります。そして、身近な事例を紹介しつつ、「テレワーク」といった新しいテーマを選ぶときの注意点や従来から重視されている「男女格差」などのテーマに着目する場合に大変なことなどを整理します。
加えて、テーマ選びの参考にサンキュータツオ『ヘンな論文』『もっとヘンな論文』を読むことをお薦めしています。
■先行研究はどうやって探せばよいのか?
リサーチクエスチョンが具体的になってきたら、次は関連する先行研究を調べて検討を深めていきます。しかし、学術論文は無数に存在します。その中から、読むべき論文をどうやって選べばいいのかというのも、初めて論文作成に取り組む場合にはとても難しいポイントです。
座談会では、論文を選ぶ際のポイントとして、「査読付きの学術雑誌」から選ぶことの重要性を説明しています。でもその前に、「査読ってそもそも何?」という部分から詳しく解説しています。
論文選びの情報源はたくさんありますが、ここでは本書の第Ⅰ部で紹介されているものをいくつかご紹介します。
先行研究を探すときは、関心のある分野の「サーベイ論文(あるトピックに関する解説論文)」を読んでから、そこで解説されている学術論文に進んでいくこともお薦めしています。
定評あるサーベイ論文を掲載する雑誌として、以下の3つが紹介されています。
なお、1つ目の『Journal of Economic Perspectives』はアメリカ経済学会が発行する雑誌で、学部生も読むことを想定して教育現場での活用を念頭に置いた発信「JEP in the Classroom」も参考になるかもしれません。
また、同じくアメリカ経済学会の研究紹介コーナー「Research Highlights」や、「Microeconomic Insights」「NBER Digest」なども、読むべき参考文献を選ぶ参考になる情報が得られるのではないかと思います。
『週刊東洋経済』様のコラム「経済学者が読み解く現代社会のリアル」では最先端の研究がとてもコンパクトに紹介されていて、ウェブ版では参考文献へのリンクも加えられているので、とてもオススメです。
「東洋経済オンライン」で連載されていたときのウェブサイトはこちら(ちょっとだけタイトルが違います)。
また、『経セミ』にも「海外論文サーベイ」というコーナーがあります。こちらで先端的な学術論文の概要をつかめば、読むべき論文を選ぶ手助けになるかもしれません(ウェブサイトで、最近の記事をフリーで閲覧できます)。
ツイッターの以下のスレッドで、上記に加えてもう少し、参考サイトを紹介しているので、よろしければ覗いてみてください><
加えて、第4章(本田先生)では参考文献を活用して自分の研究のオリジナリティをどう出すかを考えるためのコツなども解説されていますので、ぜひ本章をご覧になってみてください!
また、萩原先生や本田先生の章ではデータの探し方についても詳しく紹介しています。さまざまなデータの情報源がピックアップされているので、そこで挙げられたものをざっとご紹介します。
なお、東京大学社会科学研究所附属社会調査・データアーカイブ研究センターが提供する「Social Science Japan Data Archive」は、国内最大級のデータ・アーカイブであり、多様なデータにアクセスすることができます。
先行研究やデータの探し方については、特に実証分析にフォーカスしたものが、以下の本書第2部「実証編」に即したウェブ付録でまとめられているので、ぜひご参照ください。
■ライティングの第一歩は「型」の習得
先行研究を精査してリサーチクエスチョンを固めたら、次はいよいよ実際に自分で分析を進め、論文を書いていく段階に入ります。
分析の進め方や科学論文の書き方としては、ある種の「型」のようなものがあります。フリーハンドでは何から何を始めればよいのかわかりませんが、型を身に付けておけば、迷ってしまうことは少なくなります。論文を書き始める前に、しっかり作法を学んでいこう、ということで、さまざまな情報をご紹介します。
最近は「アカデミック・ライティング」の授業が学部の1年生や2年生の段階から導入されているケースも多く、多くの大学で重視されていると思います。また、大学でライティングのテキストを準備しているところもあります。たとえば、座談会の中でも紹介されている大阪大学のテキスト「阪大生のためのアカデミック・ライティング入門」があります。
また、小原先生の第1章では小笠原喜康『最新版 大学生のためのレポート・論文術』を紹介しています。これを読み、真似をするだけで論文の内容だけでなく見栄えを整えることができます。
実証分析に基づく論文の書き方を丁寧に解説した、以下の書籍を紹介しています。
執筆の前の分析、特に実証分析に関連して、資料と参考文献もいくつか紹介しています。
まず、森知晴先生がゼミ生に向けて作成された「卒業論文のためのR入門
」です。卒業論文を書く際に必要となるRの基本的な使い方を丁寧に解説した資料です。
次に、小原先生が2冊の計量分析のテキストを紹介しています。ここでは、計量経済学の手法の解説だけでなく、実証分析の進め方、まとめ方や論文を書く際の注意点もまとめられています。
ライティングや論文構成の考え方などの参考書は、こちらのnoteにもまとめていますので、よろしければぜひご覧ください! ここで触れられているよりもさらに細かいテクニックとしてお薦めの「パラグラフ・ライティング」に関する参考書なども紹介しています。
■論文の内容を発表するには
最後に解説されるのは、論文の内容をプレゼンテーションや文章を通じてどう伝えるか、です。論文発表の方法は、報告相手が誰か、持ち時間はどのくらいか、個人で行うか、グループで行うかで大きく異なります。もちろん、それに備えた練習の方法も全然違います。
座談会では、卒業論文を個人で発表するケース、論文コンクールでグループでの研究を発表するケース、またインゼミ等を通じて学外の人々との交流や発表などに向けたプレゼンテーションや、それに向けた練習の方法を解説しています。
また、中室牧子先生のゼミでは専門家以外の人々に向けた「アウトリーチ」も重視していて、実際に学生の方々が研究を一般に発信する機会についても紹介されています。
たとえば、U22 日経スタイルの連載「人生を経済学で考えよう」では中室ゼミの研究紹介記事がたくさん紹介されていますし、プレジデントオンラインでも、土屋優介「勉強嫌いな『のび太』ほど、勉強はスマホでやったほうがいい」など、中室ゼミの方々が書かれた記事が掲載されています。
■おわりに
以上、書籍『経済論文の書き方』の第Ⅰ部「はじめの一歩編」を中心に、そこで紹介されている資料や参考文献などをご紹介しました。
本書は、以下のような4つの部、19の章で、「論文」に関する基礎の基礎からライティングや発表のコツ、データ分析、実証研究や実験研究、さらには理論研究でどうやって論文執筆の準備をしてまとめていくかなど、教育・研究で論文執筆に工夫されている先生方に、日ごろのご指導経験もふまえて解説いただいた一冊です。