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出店戦略モデルの性質を見極める:連載「実証ビジエコ」第10回より

『経セミ』2021年4・5月号から始まった連載、上武康亮・遠山祐太・若森直樹・渡辺安虎「実証ビジネス・エコノミクス」。2023年2・3月号で、第10回となりました。

前回(第9回)から始まった「動学ゲームの推定」編。このシリーズでは、消費者の反応だけはなく、競合、ライバル会社がどう動いてくるかもふまえて経営戦略を考えるという問題にチャレンジしていきます。この問題は、「参入ゲームの推定」編(第5回第6回)で扱った問題をさらに拡張し、自社とライバルの行動の読み合いで常に変化する競争環境を分析するために、競争環境をゲーム理論的な構造のもとで "ダイナミック" に捉えて、競争優位につながる戦略を構築するという目的を達成するためにどんな分析をすすめていけばよいかを考えていきます。

前回は分析の準備として、このような競争状況をどのように描写し、モデリングするかという点と、そのモデルをどのようにデータを用いて推定するか、という点にフォーカスして解説しました。

今回からは、実際に手を動かして分析プログラムを書きながら、分析を進めていくことにします。とはいえ、今回はまだ推定までは進みません。モデルの性質をより深く理解するために、もう少しモデルを単純化したうえでシミュレーションを行い、企業行動と市場構造を記録した疑似的なデータを発生させます。これにより、動学的な参入意思決定のモデルの性質と挙動を理解していきたいと思います。

このnoteでは、連載第10回の内容紹介と、ウェブ付録のご案内を行います。今回は、本文でどのような疑似データを生成するかを、コードに忠実にかなり具体的に解説していきます(行列を用いています)。コードと見比べながら本文をご覧いただくことでより理解が深まると思いますので、ぜひ両者をあわせてご利用いただけたら幸いです。
今回のサポートサイトでは、MATLABRよる分析コードを公開しています(分析コードは、連載第11回のページにまとめて掲載されています)。コードの中にかなり詳細な解説が付いているので、本誌とわせてご覧いただくことで理解が深まるはず!)

第10回のサポートサイトは【こちら】です:
(★2023年3月21日追記:なお、第10回の本文および分析コードに修正の必要な箇所がありました。御詫びして訂正いたします。詳しくは、第10回のサポートサイトをご覧ください。)

連載「実証ビジネス・エコノミクス」サポートサイト

また、過去の連載各回の紹介は、以下のnoteマガジンにまとめています。本連載のガイダンス+著者たちが意気込みを語った第1回は、本文の試し読みもできます。ぜひ覗いてみてください!

なお、今回の連載(第10回)が掲載されている『経済セミナー』2023年2・3月号の特集は「成長のカギはスタートアップにあり?」です。こちらもぜひご注目ください!

それでは、前置きはこれくのくらいにして、以下では第10回冒頭の内容を紹介します。引き続き、「最近若年層に話題のハンバーガーチェーンであるエールバーガー」からの、首都圏某地域に出店すべきか否かを調査・分析してほしいというご依頼にお答えすべく奮闘していきます!!

■ 第10回:1節、2節より

ケース:続・あるハンバーガーチェーンの悩み

最近若年層に話題のハンバーガーチェーンであるエールバーガーの依頼を受けて、都内の一等地に新規出店すべきか否かを検討すべく、現地調査を行いつつどのような経済モデルで分析するかを考えてきたあなた。動学ゲームのモデルを用いて分析するという方針で、上司であるチーフエコノミストからのゴーサインも取り付けた。しかし、その様子を見ていた先輩から「動学モデルの推定は非常に難しいから、いきなり実際のデータで推定するのではなく、まず構築したモデルを使って数値計算を行うことで疑似データ(fake data)を生成し、そのデータを用いて推定手法が機能するかを確かめるべきだ」との助言をもらった。今までの経験から経済分析の大変さが身に染みているあなたは「先輩の言うことも一理ある」と考え、実際のデータを用いて分析する前に、まずは疑似データを生成し、推定手法がどのように機能するかを確かめてみることにした。

なぜ疑似データの生成と、それによる推定が必要か?

前回(2022年10・11月号)に引き続き、ハンバーガーチェーンの参入・退出問題について考えていこう。今回は、前回導入したハンバーガーチェーンの動学ゲームのモデルをやや簡略化した形で復習しつつ、疑似データの生成方法について、実例を挙げながら詳しく解説する。

まずは、詳細な説明に入る前に、なぜ疑似データを生成し、推定を試してみるべきなのかを、今一度整理してみよう。前節の先輩からの助言にあるように、「用いようとしている推定手法がうまく機能するかを確かめる」というのは重要な点である。加えて、それと同じくらい重要なポイントとして、次の2点が挙げられる。第1に、モデルの挙動を学ぶという点である。特に動学ゲームのような複雑なモデルでは、パラメターと均衡における選択確率や利潤の関係は必ずしも単純ではなく、解析的に解いて確認することもできない。そのため、パラメターを変化させたときに、実際にデータで観察されるパターンを疑似データを使って再現できるのか、つまり、モデルがどのように挙動するのかを見極めるためには、数値計算が必要になってくる。第2に、実際に構築したモデルを数値計算で解くことができるのかを確かめるのも重要である。この点は、特に最終的な目標である反実仮想シミュレーションを行う際に重要になってくる。

今回はモデルを一段とイメージしやすくするためによりシンプルな設定とし、2つのハンバーガーチェーンが各地域の市場で開店・閉店の動学的な競争をしている複占の状況を考えてみることにする。

------------- 第2節の続き以降は、ぜひ本誌をご覧ください -------------

■ 第10、11回のウェブ付録

このような目的で、今回はモデルの構築→疑似データの生成の手順に着目して、じっくり解説していきます。

分析コードの詳細は、ぜひ【サポートサイト】にアップロードされたコードと、その中に付されている解説を、本誌記事とあわせてご覧いただければと思います。なお、連載第10回で発生させた疑似データを用いて、連載第11回では推定を行います。この手順は不可分なので、コードの提供は連載第11回の方でまとめて行っており、コードの中にどちらの回に対応するかが明記されています。

連載第10、11回のコード提供


なお、今回はMATLABというソフトも用いて分析コードを作成し、実行しています。MATLABをお持ちでないけれども、MATLABコードも回してみたい!という方は、「Octave」(GNU Octave)というフリーの数値計算用ソフトウェアを用いることで、今回提供しているコードをそのまま実行することが可能です。

GNU Octaveは以下のウェブページからダウンロードが可能です(なお、編集部ではWindows版のバージョン「octave-7.3.0」で実行確認を行いました)。

ダウンロードページの以下の部分から、ご自身の環境に合うものをダウンロード・インストールすれば、すぐにご利用いただけます。

https://octave.org/download

なお、マニュアルは以下のサイトからもご覧いただくことができます。

■ おわりに

以上、経セミ連載=上武康亮・遠山祐太・若森直樹・渡辺安虎「実証ビジネス・エコノミクス」の第10回の内容とウェブサポートのご案内をいたしました。

連載も終盤が近づき、扱う問題がかなり現実的になってきている一方、分析はかなり難しくなってきているかもしれませんが、引き続き実証分析の実践的な側面を重視しつつ、マーケティングや経営戦略の意思決定などなど、ビジネスで活用できる経済学の理論と実証分析に関する学びの場を提供していきたいと思いますので、引き続きよろしくお願いいたします。

なお、第10回を掲載している『経セミ』2023年2・3月号の特集は、「成長のカギはスタートアップにあり?」。

イノベーションや成長の担い手として、現在熱い視線が注がれるスタートアップ企業。政府は2022年を「スタートアップ創出元年」とし、重要な政策課題として強調してきました。岸田首相は、23年・年頭記者会見でもたびたびスタートアップに言及しました。

しかし、そもそもなぜ社会を挙げた支援が必要なのでしょうか? スタートアップの育成は、本当に経済活性化につながるのでしょうか? 巻頭対談では、実務の視点とアカデミックな視点の両面から、幅広くスタートアップの現状と問題の本質に迫ります。続く記事では、幅広く、かつ冷静にスタートアップについて議論するための手掛かり、理論的視座や実証的な知見を提供します。ぜひご注目ください!!

https://www.nippyo.co.jp/shop/magazine/8966.html


サポートに限らず、どんなリアクションでも大変ありがたく思います。リクエスト等々もぜひお送りいただけたら幸いです。本誌とあわあせて、今後もコンテンツ充実に努めて参りますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。