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競争の激しさをデータで読み解く:連載「実証ビジエコ」第5回より

『経セミ』2021年4・5月号から始まった連載、上武康亮・遠山祐太・若森直樹・渡辺安虎「実証ビジネス・エコノミクス」。今回で、もう第5回となりました。

第2回から第4回では、「需要推定の基礎と応用を学ぶ」というテーマで、経済コンサルティング会社である実証ビジネス・エコノミクス株式会社が、新モデルのプライシングに悩む日評自動車の一連の案件に対して、経済分析を提供しました。

今回はからは新章突入!ということで、テーマを新たに、「新規参入に関する意思決定」を扱います。

このnoteでは、連載第5回の内容とウェブ付録についてご案内します。本誌では前回までと同様、今回も紹介する分析手法はなぜ必要なのか、といったモチベーションの部分や、実際の分析の進め方を丁寧に解説しています。サポートサイトでは、Rを用いた分析コード等々も提供していますので、ぜひ本誌の解説を読みながらトライしてみてください!(なお、第5回が掲載されている『経済セミナー』2021年12月・22年1月号の特集は「気候変動にどう向き合うか?」。こちらもぜひご注目ください!)

本連載のサポートサイトは【こちら】です:

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なお、過去の連載各回の紹介は、以下のnoteマガジンにまとめています。第1回は試し読みもできます。

それでは、第5回冒頭の内容を覗いてみましょう!

■連載第5回・第1節より

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入社後の研修直後から抱えていた日評自動車の大型案件を終えたあなた。気が付くと、すでに季節は秋。夏休みも忘れて仕事に明け暮れていたあなたは、少し遅めの夏季休暇をとることにした。幸いホワイト企業である実証ビジネス・エコノミクス株式会社では、比較的長い休暇をとれるのだが、新型コロナウイルス感染症の拡大で旅行に行くこともできないあなたは、これを機に「経済学では企業の戦略をどのように分析するのか」について勉強することにした。特に学びたいポイントは、前回の案件のときから気になっていた「合併後に製品ラインナップがどう変わるのか?」という点だ。

前回の案件では、すでに製品ラインナップが決定している場合に、消費者はどのように製品を選択し、企業は各製品にどのような価格を設定するかを考えた。しかしそこでは、どのような製品を市場に投入するか、もしくは、そもそも市場に製品を投入すべきか(=参入すべきか)否かという企業の意思決定は所与のものとされていた。

この疑問を上司にぶつけたところ、「参入・退出」モデルを勉強してみるとよいのではないか、というアドバイスをもらい、参考にすべき資料も薦めてもらった。そこで、まずはその資料を読み、企業の参入の意思決定、および、参入する場合はどのような製品を生産するべきかについて考えてみることにした。

そんな折、高校時代の友人たちと一緒に宅飲みを開催することになったあなたの家に、実家が病院を経営していて現在医学部に通っている親友がやってきた。なんでも、両親が経営する病院で高額医療機器の導入を考えているようなのだが、コンサルタントとして働き始めたあなたに意見を聞きたいというのだ。幸いにも、彼が病院で収集したデータを持ってきてくれたので、今回の勉強も兼ねて使わせてもらうことにし、分析結果は夏季休暇明けに親友に報告すると約束した。

------------- 第2節以降は、ぜひ本誌をご覧ください -------------

■連載第5回のウェブ付録

第5回は、上記のお話で登場した「企業の参入意思決定」をどのように考えればよいか、基礎的なゲーム理論のモデルから出発して解説していきます。そして、シンプルな参入ゲームで表現される戦略的な相互依存関係にある状況(ゲーム的状況)を、どのようにデータを用いて定量化し、分析すべきか、基礎を学びます。

扱う題材は、病院の意思決定。各病院が「MRIスキャナーを用いた治療マーケットに参入するか否か」という問題に直面している状況を分析します。やや特殊な状況にも見えますが、典型的な企業の参入意思決定の問題である、「自動車メーカーの新車種投入」「コンビニエンス・ストアの新しい地域への出店」「航空会社の新規ルートへの参入」などの問題と、経済学的に見た意思決定の構造としては同じだと捉えることができます。この点も、具体例を用いて詳しく解説されます。

前半では、ゲーム理論の基本的な考え方を解説しつつ、今回の状況を捉えたモデルをセットアップします。それをふまえて、後半ではBresnahan and Reiss (1991) に基づいた具体的な参入ゲームの推定方法を学びます。実際の推定方法の詳細と結果については、解説付きでアップしているRのコードをご覧いただくこともできるように設計しています。

Bresnahan, T. F. and Reiss, P. C. (1991) "Entry and Competition in Concentrated Markets," Journal of Political Economy, 99(5): 977-1009.

第5回のウェブ付録は、【こちら】からご覧いただけます:

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Rによる分析コード:

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なお、本連載では、Rの初心者向けのオンラインリソースとして、宋財泫・矢内勇生先生たちによる「私たちのR:ベストプラクティスの探究」を推奨しています。Rのインストールについては、同リソース内の「3. Rのインストール」に、OSに応じたインストール方法が詳細に解説されているのでご参照下さい。

■おわりに

以上、経セミ連載=上武康亮・遠山祐太・若森直樹・渡辺安虎「実証ビジネス・エコノミクス」の第5回の内容とウェブサポートのご案内をいたしました。本連載では、今後も実践的な側面を重視しつつ、一歩ずつビジネスで活用できる経済学の理論と実証分析についての学びの場を提供していきたいと思います!

なお、第5回を掲載しているのは『経セミ』2021年12月・22年1月号です!

特集は「気候変動にどう向き合うか?」。地球温暖化、気候変動への対応は、2021年10月31日~年11月12日まで開催されていたCOP26でも、各国の思惑も入り混じりながら議論されているように、喫緊の課題です。私たちの生活にも大きな影響を及ぼしうる環境問題は、同時に経済活動にも大きな影響を与える可能性があります。環境被害、環境対策が社会・経済にもたらすコストとベネフィットを考慮しつつ、どのような環境政策を設計すべきか。最前線の経済学では理論、そして実証的にさまざまな分析が行われ、たくさんの成果が上がっています。本号では、これらの研究成果や動向をわかりやすく解説していきます。こちらもぜひご注目ください!

【特集= 気候変動にどう向き合うか?】
[対談]望ましい環境政策デザインに向けて……小西祥文×横尾英史
実証ミクロ×脱炭素政策――「環境実証」で政策を考える……小西祥文
ガソリン消費をどう減らす?――モバイルアプリデータによる実証……田中伸介
気候変動の影響をどう考えるべきか?……内田真輔
空間モデルで経済活動と環境の相互作用に迫る……津田俊祐

また本号では、自然実験への貢献でカード、アングリスト、インベンスに授与された2021年ノーベル経済学賞の詳細な解説記事、「社会問題の因果関係を解明する『自然実験』の確立」も掲載。川口大司先生にご執筆いただきました!

加えて、2021年日本経済学会春季大会の企画セッションでのご報告と活発な議論を、「学際系学部における経済学教育・研究」という形で記事に再構成いただいたものも掲載しています。報告者であった河野敏鑑先生、大森正博先生、伊藤由希子先生にご執筆いただきました。

その他、詳細目次は以下のサイトでご案内中。実証分析における「Docker」活用方法など、目玉記事がいろいろあります。ぜひともご覧ください!


サポートに限らず、どんなリアクションでも大変ありがたく思います。リクエスト等々もぜひお送りいただけたら幸いです。本誌とあわあせて、今後もコンテンツ充実に努めて参りますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。