見出し画像

2023年の経セミ:ビジネスとの接点、論文の書き方、バブル、実験

この note では、2023年にお届けした『経済セミナー』各号の特集のおもしろ&お役立ちポイントをご紹介していきます!

前半は、「経済学がビジネスの現場でどう使えるか?」「ビジネス課題に経済学がどのようにアプローチできるか?」に着目。スタートアップ、ビジネス活用、ESGの3つをテーマに特集を組んで、すべての号の巻頭座談会で、ビジネスの現場で活躍する実務家の皆さまお招きして、白熱したディスカッションをお届けしました。

夏は毎年恒例、「経済論文の書き方」特集をお届けしました。今回は、これまでよりもさらに実践的に、論文の顔とも言える「イントロダクション」の書き方を懇切丁寧に解説した内容を盛り込んだのも特徴的です。

秋~冬は、「バブル」と「経済実験」を特集。「バブル」の号では、最前線でどのような研究が行われていて、どんな課題があるのか、政策との接点はどうなっているのかを、第一線で活躍する研究者に解説いただきました。「経済実験」の号では、経済実験が興隆した経緯から、現在の動向、研究・教育現場での可能性、実験の進め方や活用すべきツールなどを解説いただいています。

『経セミ』は、すべての号は電子版(Kindle版)も発売しているので、いつでも、今すぐ、ご覧いただくことができます。ぜひ気になる号をチェックしてみてください!


■ 成長のカギはスタートアップにあり?

2023年2・3月号は、「スタートアップ」を取り上げしました。政府も経済成長を促すためのカギとして、スタートアップ企業に着目し、さまざまな支援策・振興策を提示していました。民間でもスタートアップを盛り上げるさまざまな動きが見られています。

この特集では、そんな過熱ぶりに対してちょっと立ち止まってじっくり考えます。実務家の視点・経済学の視点から、「本当にスタートアップ支援が成長、経済活性化に貢献するのか?」「するとすれば、どんな政策が有効と考えられるのか?」などの問いを、多角的に掘り下げていきます。

巻頭では、自身もスタートアップを創業され、ミクシィCEOなどを経てスタートアップ支援事業の最前線で活躍する朝倉祐介様と、産業組織論からスタートアップを研究する加藤雅俊先生による白熱した対談を収録しています。

ラインナップ:

  • 【対談】起業を誘う環境を創る/朝倉祐介×加藤雅俊

  • スタートアップにおける人的資本の役割/本庄裕司

  • どのような創業支援が望ましいのか?――国の視点・自治体の視点/岡室博之

  • 起業成功のカギは何か?――事業創造と成長プロセスの視点/江島由裕

  • 経済活性化と企業の新陳代謝/池内健太

このテーマをさらに学びたい場合の参考書としては、加藤雅俊先生による『スタートアップの経済学』(有斐閣、2022年)があります!


■ 経済学でビジネスを動かせ!

経済学を武器に、ビジネスの世界で活躍する。そんな動きが、2010年代以降アメリカのIT企業を中心に盛んになり、最近は日本にも広がりつつあります。また日本でも、自ら起業する経済学者も登場しています。

4・5月号では、経済学を身に付けてビジネスの現場で活躍される実務家の皆さま、実際に起業した経済学者や、企業とさまざまな共同研究を行っている経済学者をお招きし、皆さまに「結局、経済学を使うと儲けられるの?」「経済学を学んでいてよかったこと、これは役に立ったと思うことは何?」といった素朴な疑問をぶつけ、それぞれの視点でトークをいただきました。

座談会に続いて、実際に経済学をビジネスに活用した事例を詳しく解説した記事も収録。「経済学は、ビジネスの世界にどんな価値をもたらしうるのか?」という問いを正面から扱い、徹底解説します。

ラインナップ:

  • 【座談会】経済学実践のフロントランナーに聞く キャリアとビジネスの創り方/泉敦子×上武康亮×西田貴紀×森脇大輔×安田洋祐

  • 経済学はビジネスでどう使えるのか?/上武康亮

  • レーティングの仕組みは経済理論で創る――エコノミクスデザインの実践/安田洋祐

  • 企業の人事にマッチング理論を実装する――東京大学マーケットデザインセンターの実践/小田原悠朗

ビジネスの現場で、経済学はどう使えるのか? を実務家の視点から解説する本としては、本号で安田洋祐先生が紹介した株式会社エコノミクス・デザインの代表=今井誠様による著書『あの会社はなぜ、経済学を使うのか?――先進企業5社の事例でわかる 「ビジネスの確実性と再現性を上げる」方法』(日経BP、2024年)があります。
経済学者ではなく、実務家の視点でまとめられているのが同書のポイント。本特集に登場するサイバーエージェント様やSansan様での活用事例も詳細に紹介されます(今井様は、次の6・7月号に登場!)。


■ 見えない価値を可視化する ESGの経済学

6・7月号は、地球環境や人権など様々な価値への配慮が求められる「ESG環境社会ガバナンス)」を取り上げました。SDGs(持続可能な開発目標)、CSI(企業の社会的責任)などを背景に、多様な社会問題への対応が企業、投資家、そして消費者に求められるようになっているなかで、「目に見えない社会的価値をどう測り、評価し、問題解決につなげていくべきか? 」を、実務、ファイナンス、会計学、経営学、そしてもちろん経済学の視点で掘り下げていきます。

巻頭鼎談では、ファイナンス・計量経済学が専門の沖本竜義先生、会計学・財務会計が専門の上野雄史先生、そして経済学のビジネス活用を推進する会社=株式会社エコノミクスデザインをリードする今井誠様にご登場いただきました。この三名は、エコノミクスデザインのプロジェクトでESGに関する活動にアカデミックな知見(学知)を活用して、クライアント企業に価値をもたらすべく取り組んでいます。この特集では、ビジネスに学知を活用する最前線の姿も垣間見ることができます。

ラインナップ:

  • 【鼎談】ESGにどう向き合うか? 学知とビジネスの交差点/今井誠×上野雄史×沖本竜義

  • 最新のESG投資・サステナブル投資動向と、今後の発展可能性/土岐大介・藤原延介

  • ESGと価値評価の関係、およびそのメカニズム/白須洋子

  • 社会的価値をどう可視化するか?――ESG開示基準の統一と強制化がもたらすもの/上野雄史

  • 企業は社会的責任にどう応えるか?――株主価値への経路/佐々木隆文

  • ESGの学知はビジネスをどう変える?/松岡秀貢

ESGは、企業経営、投資などさまざまな面で注目されています。たとえば2023年には、本田桂子先生と伊藤隆敏先生による『ESG投資の成り立ち、実践と未来』(日本経済新聞出版、2023年)など、関連書籍も多数出版されています。


■ 経済論文の書き方[アドバンスト編]

夏(8・9月号)の特集は、近年恒例となっている「論文の書き方」特集です。今回は、今までよりもさらに実践的に、研究の進め方や学術論文の書き方のコツを解説頂きました。ここでは、環境・資源・エネルギー経済学分野の研究者が中心となってネットワーキングや情報交換、議論の場として運営されているセミナーシリーズ「J-TREE(Japan-Tokyo Resource and Environmental Economics)」とコラボさせていただき、特集を組みました。

巻頭の鼎談は、京都大学の竹内憲司先生、一橋大学の手島健介先生、東洋大学の松本健一先生、一橋大学の横尾英史先生にご登壇いただき、「論文や研究の出発点は?」「ライティングでは何を意識すべき?」「書いた論文を投稿に向けてブラッシュアップするにはどうすればよい?」など、実際に研究論文を書き進める中で直面する壁をどう乗り越えるか、それぞれの視点でアドバイスをいただきます。

また、政策研究大学院大学(GRIPS)の 山崎晃生先生には、論文の第一印象が決まる場所である、「イントロダクション」をどのように書けばよいかを、ステップ・バイ・ステップで徹底解説いただきます。細かなテクニックや、心構え、論文執筆に効く習慣なども知ることができる、他ではなかなか読めない内容となっています。

ラインナップ:

  • 【座談会】アクセプトに向けた論文の書き方/竹内憲司×手島健介×松本健一×横尾英史

    • 研究・論文の出発点は? 投稿するジャーナルはどう選ぶ? ライティングでは何を意識すべき? どうやって共同研究をするか? 論文完成に向けてコメントを集めるには? 査読者からのコメントにどう対応する?

  • 魅せる「イントロ」の書き方/山崎晃生

    • なぜイントロが大事なのか? イントロを構成する6つの要素とそれぞれの書き方 論文執筆に効く3つの習慣>

本特集に関連する参考書籍・ウェブサイト・資料や、論文執筆に役立つツールの紹介などは、以下の2つの note にまとめています(上が「座談会」下が「イントロの書き方」に対応しています)。


■ バブルとは何か?

10・11月号では、主にマクロ経済学で「バブル」がどのように扱われてきたのか、現在どこまでわかっていて、何がわかっていないのか、政策課題に経済学はどうアプローチできるのかを、最前線で活躍する研究者の皆さまに詳しく解説いただきました。

巻頭鼎談では、東京大学の青木浩介先生、慶應義塾大学の櫻川昌哉先生、そして一橋大学の陣内了先生にご登場いただき、バブルの経済学の基礎からフロンティアまでを解説いただくとともに、政策現場との接点についてもディスカッションいただきました。特に経済学と政策現場でバブルの捉え方にはかなりのギャップがあることに着目し、その原因や今後の研究課題などを掘り下げていきます。

ラインナップ:

  • 【鼎談】バブルの経済学がめざすもの/青木浩介×櫻川昌哉×陣内了

  • バブルはなぜ起こるのか?――貨幣と仲介の視点/渡辺誠

  • 日本はバブルにどう対応したか?/白塚重典

  • 金融政策はバブルにどう対峙すべきか?/池田大輔

  • バブルはどう実証されてきたか?/山本庸平

バブルの経済学に関する近年の決定版的書籍として、櫻川昌哉先生による『バブルの経済理論――低金利、長期停滞、金融劣化』があります。また、陣内了先生の「繰り返しバブル」の理論をわかりやすく解説した記事が一橋大学『経済研究』のサイトで紹介されているので、ぜひご覧ください!

2023年刊・第74巻から電子ジャーナル化され、公開中!
一般向けにまとめられた研究紹介コラムも収録されています


■ 経済実験のフロンティア

2023年最後(12・1月号)の特集は、経済学における「実験」特集です!
実験は、経済学を力強く進化させる原動力の1つになっています。実験手法が確立され、デジタル技術やオンライン環境が進歩し、研究・教育をサポートする便利なサービスがどんどん登場する中で、経済実験は「実験室」を飛び出し、現実社会の中で実際に生活する人々を対象とした「フィールド実験」、アンケート調査を活用した「サーベイ実験」など、さまざまな方法で活発に行われています。

この特集では、現在の経済学で実験がどのような役割を果たしているか、実験は、研究・教育においてどんな可能性を秘めているかを、実験研究のエキスパートの皆さまに解説いただいています。活用されているツール、参考情報、研究プロジェクトの進め方、教育現場での実験の実践など、多岐にわたる盛りだくさんな内容です。

巻頭の鼎談では、大阪大学の花木伸行先生、京都大学の三谷羊平先生、依田高典先生にご登場いただき、経済学で実験アプローチが興隆した経緯から、柱となる実験方法論の解説、さらには実験室実験・サーベイ実験・フィールド実験の最前線での成果と課題をじっくりとディスカッションいただきました。

ラインナップ:

  • 【鼎談】経済学における「実験」の可能性/花木伸行×三谷羊平×依田高典

  • オンライン実験の進め方 ―― oTreeによる実践/竹内あい

  • オンライン・サーベイの進め方 ―― 実践方法とツール/下平勇太

  • ラボからフィールドへ ―― 実験による行動開発経済学の進展/會田剛史

  • 経済学における実験・調査のベストプラクティス/北村周平

  • 経済実験を通じた教育の実践/舛田武仁・島田夏美

参考書はたくさんありますが、花木伸行島田夏美先生による『実験から始める経済学の第一歩』(有斐閣、2023年)が発売になっています。実験を通じて経済学に入門する最新教科書です。また、依田高典先生による『データサイエンスの経済学──調査・実験、因果推論・機械学習が拓く行動経済学』(岩波書店、2023年)は、実験やアンケート調査の基礎的な方向から、因果推論と機械学習を活用した最新の分析事例までを紹介した以下の本も、本特集に関連する内容をさらに深掘りするうえでとても参考になります。

その他、この特殊で紹介された参考情報は、以下の note でまとめて紹介しているので、本誌とあわせてぜひご利用ください。


■ おわりに

2023年は、こんなテーマを扱ってきました。今年も弊誌をご覧いただき、本当にありがとうございました。

経セミは隔月刊なので、年に6つしか特集を組めません。毎年年末になると、「本当はこんなテーマも扱いたかった!」という想いが残ってしまいます。2024年度も、さまざまなテーマの特集を計画・構想中です。

編集部一同、経済学のおもしろさをお伝えし、学ぶモチベーションを高める、あるいは学びにお役立ていただけるような情報をたくさんお届けしていきたいと思っていますので、2024年度もどうぞよろしくお願いいたします。


*経セミ・バックナンバーは【こちら】から!

https://www.nippyo.co.jp/shop/magazines/backnumber/3.html

サポートに限らず、どんなリアクションでも大変ありがたく思います。リクエスト等々もぜひお送りいただけたら幸いです。本誌とあわあせて、今後もコンテンツ充実に努めて参りますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。