見出し画像

原発事故から人々の「こころの健康」をどう守るか?:実証経済学で迫る(2021/05/24追記)

2020年3月11日で、東日本大震災、そして福島の原発事故の発生から10年もの歳月が経過しました。しかし、復興に向けた課題はさまざまな面で残されています。

■原発事故・避難はこころの健康にどんな影響?

この10年という節目のタイミングで、下記の書籍が刊行になりました。

岩﨑敬子/著
福島原発事故とこころの健康:実証経済学で探る減災・復興の鍵

画像1

この本は、著者である岩﨑敬子先生(現・ニッセイ基礎研究所研究員)らが震災後から現在に至るまで継続的に、福島県双葉町の全世帯を対象に実施してきた「東日本大震災による被害・生活環境・復興に関するアンケート」調査に基づく、原発事故と長期にわたる避難生活が人々のこころの健康(メンタルヘルス)に及ぼす影響のメカニズムの解明に、実証分析で取り組んだ成果をまとめた一冊です。

著者らが自ら調査・収集してきた非常に稀有なデータを、実証ミクロ経済学の枠組みをベースとしながら、ソーシャルキャピタル研究や行動経済学の概念、さらには公衆衛生学の手法といった、複数の学問分野を統合した学際的アプローチで分析し、原発事故や避難生活とこころの健康の間に潜む因果関係を明らかにしていきます。そして、将来起こりうる災害からのより望ましい復興政策を考えるための新たなエビデンスをつくる試みです。

■書評掲載!(2021/05/24追記)

慶應義塾大学の坂井豊貴先生に、本書の書評をいただきました。2021年5月15日付の『朝日新聞』に掲載(ありがとうございました!)。

(書評の最後の段落より引用)
ごくたまに、若くて優れた研究者の書いた本を読むとき、「ああこれはこの人の命がけの跳躍なのだ」と思うことがある。煌(きら)めきは眩(まぶ)しく、その本がその人の人生を変えるのだということが分かる。本書はそのような作品である。

続いて、2021年5月22日付の『毎日新聞』でも、書評を掲載いただきました。評者は大阪大学の大竹文雄先生です!(ありがとうございました)

本書の内容とエッセンスをご紹介いただくとともに、著者の双葉町調査への思いや、その問題と向き合う姿勢にまで言及いただきつつ、「こころの健康の災害復興を進めるための貴重なエビデンスである」とご紹介くださっています。

■伊澤史朗・双葉町長、澤田康幸・アジア開発銀行チーフエコノミスト推薦!

調査に全面的に協力されてきた福島県双葉町の伊澤史朗町長と、災害研究でも数々の貢献をしている澤田康幸先生からは、以下のような本書に対する推薦のメッセージをいただきました。

伊澤史朗(福島県双葉町長)
「双葉町への帰還と魅力あるまちづくりの指標に」
東日本大震災と原発事故から10年。復興や暮らしの再生は道半ばの双葉町。今もなおふるさとに戻れない町民の思いや生活の実態が、2013年から継続的に実施されている東京大学「災害からの生活基盤復興に関する国際比較」プロジェクトによるアンケート調査により的確に捉えられ、著者の研究成果により詳細に分析されている。本書は、令和4(2022)年春頃の町への帰還と魅力あるまちづくりを目指す指標となり、今後起こりうる災害からの復興に役立つものと確信している。
澤田康幸(東京大学教授、アジア開発銀行チーフエコノミスト)
「エビデンスの力で災害復興を支援する」
若き研究者の冷静な頭脳と情熱が長期にわたる地道な継続調査を支え、日々の暮らしの目線から双葉の人々の震災後10年の軌跡を精到にたどる。「被災した人々のメンタルヘルス回復にどんな支援が必要なのか?」
最新のミクロ実証分析、行動経済学、公衆衛生学の手法を駆使した緻密な学際分析に基づき、復興のカギとなるソーシャル・キャピタルや行動変容の役割を解き明かす。今、コロナ禍からの再生においても深い示唆に富む、多様なエビデンス(科学的根拠)が散りばめられた力作だ。

■本書の概要

本書は、以下のように構成されています。プロローグでは、まず著者が原発事故の問題に関心を寄せるようになったきっかけや、問題に対して理解を深めていく過程から振り返り、なぜ経済学のアプローチでこの問題に挑むに至ったのかについても語られます。

そのうえで、改めて問題を整理し、災害によるこころの健康悪化を防ぐ、つまり「こころの減災」のための3つの鍵として、「ソーシャル・キャピタル」「損失回避」「現在バイアス」に着目することの意義から丁寧に説き起こします。

そして、アンケート調査の概要や調査を開始した2013年から執筆当時の最新調査である2019年まで、双葉町の方々にどのような変化が起きているかを、さまざまな側面からデータで描き出します。そして、3つの鍵を検証するためのミクロ実証分析の結果を、その基礎となる概念から丁寧に解説していきます。

プロローグ 原発事故とこころの健康の関係を探る:実証ミクロ経済学の視点
第1章 原発事故の影響とその後の変化:福島県双葉町調査から
第2章 原発事故と人々のつながり:ソーシャル・キャピタルの役割
第3章 多面的な喪失がこころに及ぼす影響:損失回避行動の自然実験
第4章 被災が今を重視させる:現在バイアスの影響
エピローグ 「こころの減災」に向けて

■岩﨑敬子先生による本書の内容紹介記事

本書の内容紹介は、岩﨑先生ご自身による紹介やアンケート調査の詳細な記述分析が、以下のニッセイ基礎研究所が発行する「基礎研レポート」で公開されています。ぜひこちらもご覧ください!

【第1~5回調査についての、岩﨑敬子先生による解説】
「東日本大震災による被害・情報取得経路・復興に関するアンケート」2013年調査結果概要-福島県双葉町民を対象とした第1回調査
「東日本大震災による被害・生活環境・復興に関するアンケート」2014年調査結果概要-福島県双葉町民を対象とした第2回調査
「東日本大震災による被害・生活環境・復興に関するアンケート」2016年調査結果概要-福島県双葉町民を対象とした第3回調査
「東日本大震災による被害・生活環境・復興に関するアンケート」2017年調査結果概要-福島県双葉町民を対象とした第4回調査
「東日本大震災による被害・生活環境・復興に関するアンケート」2019年調査結果概要-福島県双葉町民を対象とした第5回調査

■おわりに

震災から10年という節目の年。もしかしたら、当事者でなければ風化してしまうほど長い歳月が経過したかもしれません。双葉町の方々の生活者の目線からその変化の記録をたどってきた本書を通じて、改めてその歳月を振り返るきっかけの一つになれば幸いです。




この記事が参加している募集

推薦図書

サポートに限らず、どんなリアクションでも大変ありがたく思います。リクエスト等々もぜひお送りいただけたら幸いです。本誌とあわあせて、今後もコンテンツ充実に努めて参りますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。