![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/75719222/rectangle_large_type_2_8265d83120bf695350c035a62151160b.jpeg?width=800)
【編集者の本棚】80年代の韓国料理の本を読んでみよう 第2回『食は韓国にあり』
出版会で働く人々の関心事や探求心を、本を通じて解き明かします。本棚と頭の中をすこーし覗くようなつもりでご覧ください。前回から、編集担当のむ~さんが韓国料理特集をお送りしています。
こんにちは。編集者む~です。
「80年代に出版された韓国料理についての本を読んでみる」という謎の連載第2回にお付き合いいただきありがとうございます🙇♀️
前回↓
今回とりあげるのは、森枝卓士・朝倉敏夫著『食は韓国にあり』(弘文堂、1986年)です。
![](https://assets.st-note.com/img/1648714351176-AhoMUeZ6rh.png)
著者の森枝氏は以前弊社の『中国料理の世界史』の刊行記念トークイベントにご登壇いただいた食のジャーナリスト・写真家、朝倉氏は韓国文化研究の第一人者です。お二人が韓国料理に「出会う」一冊です。この本は韓国の食文化の基本情報がぎっしりと書かれていて、『食卓の上の韓国史』とあわせて読めば、理解がさらに深まることうけあいです。
普段の韓国料理
「韓国人はどんな食生活を送っているのか」というテーマで、キムチや焼肉を中心に比較文化的な観点から論じています。森枝氏の写真がふんだんに使われていて、これがまた当時の韓国の人々の生き生きとした姿を伝えています。
下の写真は共働きの若夫婦の夕飯風景。前回の『あんにょん・ソウル』の食事写真より普段っぽい雰囲気です。ビール、チゲ、キムチ、ナムルらしき料理が見えます。なんと他の家族と共同でマンションを借りているらしく、リビングではなく個室で食事をしているそうです。当時はよくあったことなのでしょうか?!
![](https://assets.st-note.com/img/1648714389487-8SIWDI5UVq.png)
また、「大人数集っての食事は男たちが終えた後女性が食べていた」という説明付きの写真もあります。今だと女性差別的な文化と言われそうですが、当時の韓国文化の本にはこういった記述が少なくありません。
「ある留学生の1週間の食事、全記録」がなかなか興味深いです(画像)。著者は、「意外に肉を食べない、毎日あまり変化のないメニュー」「トウガラシとニンニクを抜いたら日本の日常食とそんなに変わらない」と指摘しています。
![](https://assets.st-note.com/img/1648714447619-F75aN6Mjda.png)
さらにこの本のすごいところは、レシピが掲載されていること! 各種ナムル、ピンデトク、プルコギ、カルビクイ、もちろんキムチの作り方も写真入りで載っています。
韓国のキムチ文化といえば、ユネスコ世界無形文化遺産に登録された「キムジャン」です。キムジャンとは、冬に備えて11月末~12月初めに大量のキムチを漬け込む一大行事。『食卓の上の韓国史』でも、第二部外伝でキムチの白菜の変遷に注目してキムジャンについて書かれています。
このキムジャンの写真をご覧ください(画像)。冬の前に大量の白菜でキムチを漬けるたいへんな作業は酒なしではやってられないぜ、ということです!
![](https://assets.st-note.com/img/1648714478264-SLo8VLHVV2.png)
パク・セロイは韓国的な成功者?
また、外食文化についての第2章に興味深いことが書かれています。「韓国の人にうまい料理屋をたずねるとたくさんおしえてくれるのだけど、何代も続く名店が少ない」とあります。日本では、何代も続く名店が文化的に評価される一方で、韓国では料理屋の社会的地位が比較的低く、儒教に代表される文人(ソンビ)の国だから、文人的(政治的)なことに取り組む人々が尊敬を集めるそうです。
ちなみに、料理屋の地位については、実は伊藤亜人氏の『日本社会の周縁性』(青灯社、2019年)にも同様のことが書かれています。この本は、職人の地位や食べ物へのこだわりの違いなどについて論じていて日中韓の比較文化論としてもおもしろいです。
この指摘に私が納得させられたのは、日本でも人気を博した韓国ドラマ『梨泰院クラス』を観たときです。主人公のパク・セロイが居酒屋を開き、仲間とともに飲食業界の頂点を目指すというストーリーなのですが、パク・セロイ自身はぜんぜん料理をしません。あくまで経営者の立場で成功者となるのです。日本ではなかなか見ない設定でおもしろいなぁと思いました。もちろん料理人を主人公とした『宮廷女官チャングムの誓い』『食客』などのドラマもありますが。
話を戻すと、『食は韓国にあり』ではここで、日韓の料理に対する感覚の違いに触れつつ、しかしうまいものがないということでは断じてない、と強調しています。ほんとにそうです!
タクアンの存在感
さて、次に外国の食べ物をみていきましょう。
![](https://assets.st-note.com/img/1648714537730-xX2qqc25qO.png)
また出ました大人気のチャヂャン麺(中段右)! となりの中国料理(タンスユク=韓国風酢豚でしょうか?)になぜかケチャップのかかったキャベツの千切りが添えられています。
上段の写真の洋食には黄色いタクアンが付いていますね。現在でもチャヂャン麺にはタクアンが添えられています。なんでもかんでもタクアンがついていることに驚く著者ですが、このタクアンの存在によって「韓国の洋食は日本経由で入ってきたのではないかと思う」と鋭く指摘しています。これについては、あとでまた取りあげたいと思います。
以上のように、『食は韓国にあり』は、多数の図版、レシピ、用語表などの資料を用いて、かなり深く韓国の食文化を掘り下げています。『食卓の上の韓国史』につらなる問題意識も垣間見えます。
次回(最終回)は、文藝春秋編『B級グルメが見た韓国』をひもといていきます。
『あんにょん・ソウル』『食は韓国にあり』から3年後の1989年に刊行されたこの本では、韓国料理はどのように描かれているでしょうか?
* * *
『食卓の上の韓国史』を試し読み↓
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?