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3 SF短編集「竹取物語」(昔話アレンジ集より)

3 竹取物語(かぐや姫のゆくえ) 


 かぐや姫の物語も有名で、最後は月に召されていく話ですが、そもそもかぐや姫が竹から生まれて、月に帰るというのが不思議で、その不思議ゆえに何かそこに隠された謎があるのではないかと思ってしまうのは僕だけじゃない気がします。

 この間は、無理を言って「与兵とお通さん」のお話をして頂いたので、しばらくは無理は言えないと思っていたところ、どこでどういう風に伝わったのか、ひょっとして竹取物語の話もして下さるのではないかと厚かましい人がいて、勝手に斎藤さんに話を持っていったらしくて僕は非常に恐縮してしまい、謝りに斉藤さんの家にお邪魔をすると、斉藤さんは返って喜んでいます、思ったより地区のみなさんが昔の話に興味を持って下さって逆に感謝しているくらいですと仰って下さり、胸を撫で下ろしたのでした。

 それで今回は竹取物語をすることになったのですが、聴衆がまたまた増えて、近隣の住人までどこでどう言う風に伝わったのか、また誰かが誘ったのか五十人を超える盛況となったのでした。

大体翌日が休みの日を選んで、金曜か土曜日に「開催」することになっていたのですが、その日は金曜の夜で、午後七時に集まるようになりました。
 斎藤さんは話す。

 みなさんはだいたい竹取物語のお話は子供からお年寄りの方までご存知の話であり、ここで話の内容を再度語らなくても大よその内容は記憶の中にあると思います。おじいさんとおばあさんがいるのは、どのお話にもよく出てくるシチュエーションですが、この話にも登場します。

《まずおじいさんが仕事にしている竹細工の竹を取りに竹の山に入り、そこでひと際光輝く竹を見つけたのでした。それは確かに不思議なことでした。そんな竹をこれまで見たことはなかったのですし、そんな竹であればこそ、おばあさんにも持ち帰って見せたかった衝動を抑えることは出来なかったのです。 

 そこで持っていたヨキ(斧)という道具を使ってその光る部分の少し上を慎重に、また丁寧にき切ったのです。するとこれまた不思議、中から赤ん坊のような可愛い女の子が出てきたではありませんか。おじいさんは竹の中の女の子を無事取り出し、道具を入れた籠は背負い、赤ん坊は丁寧に抱きかかえておばあさんの待つ家に帰ったのでした。帰る道中、おじいさんは独り言のようにつぶやきながら一人ニヤニヤせずにはおれませんでした。それはおばあさんに見せたら驚きと喜びでどういう反応をするかということで頭が一杯になったからです。

 家にかえると案の定おばあさんは、ひと目その赤ん坊を見るや非常に驚き腰を抜かす程でした。そして目をそば立たせて赤ん坊の顔に自らの顔を近付けて、頬擦りするおばあさんなのでした。

 それからすくすくとその子は成長していきました。「光り輝く」子ということで、かぐや姫と名付けられました。人の子として一通りの家事もやれる子供になって、着物を着る姿は美しい少女でしたが、やがて宮中にもその存在は伝わりました。》


「ところでみなさんは石上いそのかみ神宮はもちろんご存知ですよね」と齊藤さんは聴衆のみなさんを見回して話しかけます。「何度かお正月にはお参りしたと思います。物部氏もののべしまつり、国宝の七枝刀しちしとうで有名です。その石上とこのかぐや姫のお話は関係が深いんですよ、実は」 斉藤さんがそうお話すると聴衆であるみなの顔が驚きと感嘆の表情に変わったのでした。「私はいつも山辺の道を歩いているのですが、ここはきっとたかぐや姫が誕生した竹があった竹藪だと思っている場所があるんですが、そこでいつも一人で空を見上げると竹と竹が重なり合って、風で擦れる音やそれこそさやけき雰囲気の中で癒されるんですよ。もちろんそこは私の秘密の場所だから内緒ですがね」。みなはどっと笑いに包まれた。

《その「石上麻呂いそのかみのまろ」という中納言ちゅうなごんの耳に真っ先にかぐや姫の事が伝えられたのでした。麻呂は姫に求愛するのですが、燕の巣を取ろうとして大怪我をしてしまうのです。そのことを姫もたいそう心配して祈願されたのでしたが、麻呂はその怪我が元で死んでしまうのです。それは姫にとっても悲しみに耐えない出来事だったのです。それから何人も恋心を寄せられているのですが、育ての親であるおじいさんやおばあさんの処を離れることは本意ほんいではなく、かぐやは縁談のお話は断り続けました。

 元々かぐやは人間で生まれた分けではなく、竹の子ですので、いずれ自分が地上を離れて行かなければいけないということをずっと心の中にしまい込んでいました。

 そしてその時が遂にやって来たのでした。ある夜月よりの使者がかぐや姫を迎えに来たのです。もしも人間の子であるなら、おじいさんやおばあさんの元を離れることは嫌で、駄々をこねたに違いありません。しかしかぐやは、今まで立派に育てられた恩を言葉に表して二人に抱き抱えられました。

 そしてゆっくりと使者が用意した乗り物に乗り込むと、空高く舞い上がり、月に向かって行ったのでした。

 残されたおじいさんやおばあさんにしても悲しむよりも、かぐやが立派な姫になり、ちゃんと言葉を尽くして表すことができるまでに成長したことと今までの労苦を共にしてきたということが思い出されて、育てた甲斐があったとたいそう喜んだのだそうです。

 こうして夢のように過ごした日々でしたが、今では手の届かないところに行ってしまったとしても、二人には思い残すことは少しもないのでした。かぐやが残した思い出はなにものにも変え難くいつまでもその余韻を味わうことが出来たからです。それからは二人して、まるで三人でいるような華やいだ暮らしをしたそうです。

 そしてゆっくりと使者が用意した乗り物に乗り込むと、空高く舞い上がり、月に向かって行ったのでした。》

「実はこのお話には後日談があるのです。」



《おじいさん、おばあさんがそろそろかぐや姫の事を忘れる程年が経ったある日のことです。その日は満月で、「中秋の名月」と呼ぶ秋の晴れ渡った夜のことでした。既にどの家も寝静まり、おじいさんもおばあさんも床について天井を見ながら話をしていた時分でした。
 家の周りが明るくなったように感じて二人は目を覚ましたと同時に二人目を合わせました。すると戸締りをしたはずなのに表の戸をそっと開ける音がしたのです。そして誰かが家の中で歩く音が聞こえたのでした。
 おじいさんが「ひょっとして、かぐやかい?」と問うたのです。二人は何だかそわそわして次に自分たちの前に展開する事にわくわくしていたのでした。二人の想いはもちろんかぐやが立派な姿となって目の前に現れるというものでした。 まさにその時障子が開け放たれたのです。目の前に現れた人こそかぐやその人に他なりませんでした。二人よりもかぐやが待ち遠してくてたまらないかのように二人の居るところへ駆け込んだようになって急いで歩み寄ったのでした。そしてさめざめと泣きじゃくるかぐやを抱き抱える二人だったのです。

 「まあ立派になられてのぅ」とかぐやの身体を離してまじまじと見るおばあさんと、うんうんと頷くおじいさんに笑顔をいっぱい振り撒いて「私がこうして月より参りましたのは、お二人のことがずっと心配でならなかったので、許されて地上に降りて参りました。しばらく三人で暮らしていきたいと思います。」

 かぐやは、以前と違い少し腰の曲がったおじいさんやおばあさんに付きっきりで世話をして暮らしたということです。そして不思議だったのは、かぐやが二人の住む家に戻った日から、一羽の白いうさぎがかぐやに離れずにいたことでした。きっと姫を守る守護神のような存在で、周りに幸せをもたらす生き物ではないかと思われたのでした。》


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