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SF短編小説「オール・マイティなカード所有者」4️⃣

4 二人の緊急nextステージ(そして見知らぬ街へ)

 僕は期待感でいっぱいになっていた。そして2022年の末に僕のもとにLINEでかけい社長(僕に最強カードを作ってくれた人。彼は既に系列子会社だけど社長だったんだ!)から連絡が届き、まず原石については社長も「すこぶる関心があるので一緒に行きましょう」それからコインについては「僕も貴方の言うとおり、手で触ってみなくては気が済みません。なので一緒に値打ちがあって、触れる物を見つけましょう」というどちらかと言うと積極的なものだった。多くの人は、そんな現実離れした物を探すことはしないと思う。大抵世の中の人は、まずみんなが自分と似たようなことをやっているということに安心感を覚えて、自分もそんな人間の一人だと仲間意識でもって安心するのだ。そしてそれ以上の冒険はしない。冒険すれば世間から爪弾きされるし、会社であればいじめにうのがいやだから。だから僕には若い「オールマイティな」社長がいてくれたから助かっている。少なくとも疎外感を感じずに済んでいる。


 これからする話は、単に親しい間柄の人々が目的を同じくして旅をするというだけの話ではなくて、人類のいかがわしい歴史的な経緯がそこにはあって、そんな裏歴史の上に僕らは立っているということを、これは彼には内緒だけど貴方には予めそれを伝えておかないと片手落ちと思うから断っておきたい。 

社長の筧さんと筧さんの彼女と僕と宇沙子と四人が一同に会して(初めてのこと)原石を巡る旅をすることになった分けだけど、鉱石のうち何にするかというのが最初の難問だった。ダイヤモンドか金かプラチナか。そこで最初に僕が想像した内容を伝えたことを思い出してい欲しい。彼の祖父か誰かがアフリカにプラチナの鉱石を産出する山を管理していて、地元の多くの鉱夫が崩れそうな穴蔵の中で鉱石を産出していくのだけど、過去にはそこではおよそ10年前には労使の対立という図式があって、死亡者まで出たという騒ぎに発展したことも僕は知っている。つまり元々大英帝国の植民地であったところで、そこに資源が埋まっていたから大国が植民地にしたのか、はたまた資源のある場所を切り拓くと、知らない部族がいて、一応断って貴方達と我が国で資源を分け合いましょうなんて言ったのかどうかまでは知らないが、いつの間にか労使の関係が出来るまでに植民地支配が出来上がっていて、資源(鉱物)メジャーが土地を事実上支配するようになっていったのだ。どの国の、或いはどの島の民族も他の国から意識が高い人間がやって来ると、そこにいつの間にか居座り、我が物顔でまるで最初から自分の国(島)であるかのように振る舞うということが平気で行われてしまう。日本の歴史で言うなら中国の海南島がそうだった。

 北海道や沖縄の一部に自分達の領域を築き上げて問題視したら「あなた達日本人も同じことをしたじゃないの」と言われかねない。昔だったら今ほどウィルスに感染する心配もなく自由に渡航が出来たはずだ。いや、でも過去にはやはり天然痘とかスペイン風とか流行はやったけど、現代は伝播でんぱする規模や速度も違うかも知れなからちょっと厄介だと思う。

 さてわれわれは、どこの国、若しくは島に行けばいいのか。第一の候補はやはりオーストラリアだ。そこにはまだブラックダイヤモンドが眠っている。この世で一番輝きがあり、一番硬い。

 金よりもどうしても僕はダイヤモンドに目が向いてしまう。ただし加工は嫌いだ。加工した途端に価値がなくなってしまうと思ってしまう。原石のきらめきにこそその真価があるのだと思っている。指輪にしたり、掘削機の先に付けたり、レコード針にしなくてもいいのだ。原石のままがいい。

 そして僕たちはいろいろ迷った挙句世界最大のピンクダイヤモンドの鉱山を目指すことになったのだ。オーストラリアの先住民でアボリジニが住む「ノーザンテリトリ」の付近にその鉱山はある。アーガイル・ダイヤモンド鉱山という名前の鉱山が僕たちの目的になったのだった。

 日本のセントレア(中部国際空港)で筧さん所有のビジネス・ジェット(ホンダジェット)に乗り込んだのは、昨日の昼頃だったが、出発前に緊急着陸する旅客機があるからという理由でフライト時間が延びていた。何でもマスクを付けていない客が機内でわめいたとかで降ろされることになったのだそうだ。よりによってという気持ちもあったけど、その頃はまだ「covid(corona virus) 19」という風は止んではいなかった。筧さんが仕方なくポーカーでもしようと言い出して、待機時間をトランプ遊びに興じることになってしまった。テキサス・ホールデムという種類のゲームだった。機長がトランプを配る役目をしていたが、カードさばきも見事なものだった。一時間半くらいしてやっと離陸許可が下りたからトランプは止めにして、離陸できるとしばらく上空からの日本列島の景色を僕と宇沙子と二人でワイワイやりながら堪能することにした。 

 乗り継ぎ地としてジェットは一度シンガポールのチャンギ国際空港に着陸した。シンガポールと言えばマーライオンとか、セントーサ島のナイトサファリなんかが有名だけど、寄港地でゆっくりという訳には今回はいかなかった。給油だけの着陸だった。やっとオーストラリアのカナナラ空港というちょっと舌を噛みそうな空港に降り立った四人は、その日はまず空港近くのホテルに投宿した。現場へは翌朝出かけることにして、取り敢えず旅行の疲れをホテルでゆっくり過ごすことにしたのだった。何せ西方640キロもあるし、何もないような大地だから目指す前から余計に気が遠くなる感じがした。UFOが出たとしても驚かないような場所で、夜は星が綺麗にまたたくほかは、車で5時間以上もかかる場所にこれから移動するなんて次第に心が重くなってくるようだった。

 その心の重さを少しでも和らげてくれるのは、他でもない宇沙子だった。僕は時々トイレの中で反芻する。宇沙子がいるから自分がいるんだって。そうやって独り言みたいに呟いたりすると心も何故か落ち着いてくるし、少しはやる気も出てくるから不思議だと思う。

 これも誰も信じないかも知れないけど、実はこのオーストラリアの地でほんとにUFOを見たのだった。それも二度も。僕だけじゃなくて、宇沙子も一緒に。他の人はちょうどホテルのバーにいた時間だったと思う。夜の九時前くらいだった。

 僕と宇沙子は星を見ながら外の空気を吸おう、って言って僕は宇沙子を外に連れ出した。宇沙子は内心は外の真っ暗な闇と人っこ一人いない原始的な風景が怖かったから尻込みしているのが分かった。だから外ではずっと僕にくっついていた。それでも満点の星が宇宙に散りばめられているような迫力は感動的だった。でも無理やり連れ出したのだからきちんと守ってやらねばならない。それが僕のこの世での使命だった。

 その宇宙母船のようなUFOがいつの間にか頭上に来ていたのはしばらく気付かなかった。最初に気付いたのは宇沙子で、きっと一瞬でそこに現れたのだと思う。思わず僕は宇沙子の手を握った。ヘビやゴキブリでも叫んでしまう僕を知ってか知らずか、宇沙子はその時も「大丈夫だよ、心配ないよ」と心で告げているように僕を落ち着かせようと手を強く握り返してくれていた。この人を連れて行っちゃあ駄目と抵抗するように僕に覆い被さろうとしていた。

 これは映画「未知との遭遇」のような撮影のために馬鹿でかい宇宙船をセットで作ってそれを偶々僕たちが目にしてるんだと思い込もうとしたけどダメだった。非常に精巧に出来ていたし、それはまさしく本物のUFOだったのだから。

 ソーサーの周りが赤や青の点滅する光を放っている窓が無数にあって、その真ん中にある所からは真っ直ぐに地上にスポットライトのように真っ白な光を照射していた。その光が地上に当たった所から僕らがいる場所までは数百メートルは離れているようだった。つまり頭上にいたUFOが数分後には少し移動しているようだった。二人は手を繋いだままホテルの入り口を目掛けて走っていた。何か物を落としていたとしても気にすることなく、入り口からロビーを通り、自分の部屋に向かって駆けていた。バタンとドアを閉める音がした。僕は直ぐに鍵を閉めた。窓の方に駆け寄ると、さっき見た方角にはもう何も光る物体はなかった。日本人なら狐に摘まれたというに違いない。宇沙子はベッドの中にもぐっていた。とにかく彼女を守ることが出来て良かったと僕は思った。

 翌朝僕たちは何もなかったかのように目覚めて、他のクルーの人たちと共に普通に朝食をとっていた。コーヒーとフランスパンとサラダという定番で、デザートはバニラアイスだった。不思議なもので二人とも夕べの恐怖感はどこかに消えていた。同時にどう言う訳か筧さんとパイロットの二人の姿も見えなくなっていた。どこに行ってしまったんだろう、これから長い道のりを旅しなけりゃ行けないのに。仕方なく宇沙子と筧さんの彼女がたわいも無い話をして一緒に過ごす事になり、そうすると二時間ばかりしてやっと二人が帰ってきた。筧さんは僕がちゃんとホテルのwifiの設定をしていなかったことをなじる。

 彼らは一度空港に戻って、ヘリを一機調達する交渉を行なっていたとのことだった。車で行けば半日いや一日かかる距離をヘリなら一時間余りで行ける。時間のロスが筧社長には一番堪えたのだろう。と言う訳で数百キロの道のりを車ではなくてヘリを運行して現場に行くことになったのだった。


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