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「知の探索」と「知の深化」がイノベーションを生み出すことを忘れずにいこう [両利きの経営]


イノベーションという言葉を聞かない日はないくらいぼくらの世界はイノベーションという言葉が乱用されていて、食傷気味な気分になって「またかよ」という感じで少々疲れてくることもある。イノベーションや改革、変革といった言葉は使われすぎている気もするが、それだけ世の中が変化を必要としているということでもある。

会社で言えば新事業の創出、今までのやり方の変革など色々なものがイノベーションという言葉に集約されている。

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イノベーションは何となくゼロから作り出すイメージが定着していて、「自分は開発ではないから」というような理由で一部の職種や部門の人のためにあるような形で理解されやすいが、今までのやり方を変えるという変革の意味ではそういった解釈は当てはまらず、全ての社員がイノベーティブであるということを言っている場合が多いが、なかなか組織ではそういったことを偉そうに説明しても浸透しないものである。

今までのやり方が楽なので、よっぽど上層部から陣頭指揮をとって変革を促さないとイノベーションを起こしていくことはできない。問題なのは経営の上の方は「現状維持した方が得」であるため合理的に考えると「リスクをとってイノベーションしない方が良い」ということになり、そんな上層部に対して部下たちがイノベーションを起こそうとするようならば粛清されたり、とても小さな改革しかできなくなってしまうことも多いのが残念なところだ。

思い返してみるとぼくの会社の悩みの多くはこういったところからきている。そうした「イノベーション」について理解をするときに、イノベーションの祖として語られるシュンペーターという人の言う理論と、「両利きの経営」という2つの考え方を理解しておくと、結構すんなりイノベーションについて理解できるので簡単に振り返りたいと思った。

■イノベーションの祖であるシュンペーターの教え

オーストリア出身の経済学者であるヨーゼフ・シュンペーターはイノベーションの考えを生み出したとされている人で、1912年に著書を発表している。その中でシュンペーターはイノベーションの5つの類型があることを提示している。

①消費者の間でまだ知られていない財貨、あるいは新しい品質の財貨の生産
②新しい生産方法の導入
③新しい販路・市場の開拓
④原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得
⑤独占的地位の形成あるいは独占の打破(新しい産業組織の実現)

これらを実現することがイノベーションであり、少し難しい言葉だが、イノベーションとは“差異の意識的創造”であるということを彼は説明をしている。ようするに「他の製品やサービスと異なる差別化されたものを意識的に生み出すこと」と言い換えることができる。そういったものを生み出すための新技術の開発、新製品の導入、新市場の開拓などの活動がイノベーティブな企業でい続けられるかにかかっているということでもある。

そんな彼はこういったイノベーションも何もゼロからすべて作り出すものではないと言っている点も忘れてはならない。
「既に知っている知」と「既に知っている知」の新しい組合せがイノベーションであるとしていて、これを彼は「新結合(New Combination)」とよんでいる。

何もゼロから生み出す必要はなくて、例えば違う産業で起きているイノベーションを自分の産業でパクって実行するのでも良いのだ。その組み合わせを思いつくかどうかが実は重要であり、「センス」で語られることが多いのもこういったことが理由となっている。
スティーブジョブズが作ったiphoneも機能自体は全く新しいものではなかった。携帯電話もあったし、タッチパネルもあったし、音楽プレイヤーも既にあった。彼はそれらを組み合わせて新しい形を示したのがイノベーションだった。

この「既にあるものを組みあわせる」ということがイノベーションというシュンペーターの考えは今での有効であり、その組み合わせを新たに作り出せたものがイノベーションだったと語られるだけのことだ。
余談だが、「アントレプレナー」という今ではよくつかわれる言葉も彼が著書で書いた言葉であり、「イノベーションはアントレプレナーが起こすもの」というような表現が最初と言われている。

■ 一方で重視しがちな知の深化

一方で、知っていることの組み合わせとともに重要なのが「知の深化」であると言われている。これは割と日本企業が得意な分野だが「技術を磨く、今までやってきたことを極める」ということを指していて、あるものを深めていくということだ。

日本人の「愚直なまじめさ」は世界に誇る気質で磨き続けることには僕は自信をもって強みであると考えている。必要とされていないところまでこだわり、徹底してものづくりをしていくことが安心や安全につながり、それは世界でも認められているし、中国や韓国メーカーとは違った評価を受けることが多い。

そういった誇りであるのと同時に、それは世界の主流としてビジネス上はニッチすぎて成功していなかったりする。ビジネスのマスをとりにいくことは得意としておらず、マーケティング思考を源流とした考えに基づいた製品がボリュームゾーンを抑えていて、日本企業はそれに必要不可欠なパーツだったり、一部の超ハイエンド製品の供給プレイヤーになっている。

これを残念にみるか、強みとみるかは産業や製品によって異なるので何とも言えないが、「知の深化は重要ではあるが、それだけではだめ」ということは少なくとも教えてくれている気がする。

冒頭に書いたように、ゼロをイチにする発想、ようは「既にあるものを組み合わせて新しいものを発想すること」というものと、「知の深化」の二つがあってはじめて大きなイノベーションを起こせるということがいえる。
今までにない組み合わせを作りながら、それに必要な要素を徹底して真似されないレベルまで磨いていくことが差別化につながり、強みになっていく。

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この2つの要素というのは早稲田大学の教授である 入山 章栄さんが書かれた『世界の経営学者はいま何を考えているのか』という本に書かれている内容だ。この本の中で『両利きの経営』という部分があって、そこに「知の探索」と「知の深化」という2つの要素が重要であるという説明があって、両方を扱えることを「両利き」と称して提唱していて、ぼくをはじめ多くのビジネスマンに影響を与えたといっていい。

この「両利きの経営」というのはずばりそのまま本のタイトルになったチャールズ・A・オライリー著の「両利きの経営~二兎を追う戦略が未来を切り開く~」という本があり、上記の入山教授が翻訳を担当されているのでお勧めだ。
これについては日経ビジネスのご本人が書かれたホームページの参考になる記事があったので末尾にリンクを貼らせていただく。

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あらたな組み合わせをどう思いつくか、それを構成する要素をどう磨いて他社から真似されないものに仕上げるか。

技術やスペックを磨くことや、価格競争をするだけでは駄目であるということをどれだけ意識して戦わずして勝てる領域を見つけて一気ににポジションをとりにいくか。

そういった視点を常にもって考えることがイノベーションの創出にはとても大切だと感じる。

世の中にある成功例や失敗例を考える材料としてピックアップして考えてみるだけでもこの「両利きの経営」という考え方は多くのことを説明してくれる。

Keiky.

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