お前は絶対にコピーライターになれない。

昔、新卒で入った後輩が、入社2年ほどで退社した。
将来が期待されていた子だったのだけど、異業種に転職するとのことだった。
退社最後の日に、その子にメールを送った。
君がのびのび働けることがいちばんだよと。でも、一度逃げたことは向き合わない限り追ってくるもんだよ。とも書いた。

今思うと、恐ろしいメールだ。

言葉はときどき呪いになる。
小さい頃から言われ続けた言葉や、人に言われてグサッときた言葉で、その後の立ち振る舞いや考えが、囚われてしまうことがある。

あのときの私は、いつかクリエイティブの世界に戻ってきてほしいって思ってたのか、中途半端でやめていくことを後悔させたかったのか、いずれにしても、自分がされる側だと思うとゾッとする。

私もコピーライターを目指していたとき、専門学校の先生に「お前は絶対にコピーライターになれない」と言われた。普通は言わないですよね、そんなこと。なんでだろう、単純に嫌われてたとしても、あんまりだ。

子どもの自己肯定感を育むために「愛してる」とか「大好き」とか声かけるといいって話をきく、世の中的にも叱るよりも褒めて伸ばそう的な感じだと思う。
自分は大丈夫だと、立ち返れるものがないと人は生きられない。でも、心にグサッとくる言葉もそれはそれで、必要なのかもしれない。とも、ちょっと思う。



「お前は絶対にコピーライターになれない」



私を呪いから救った言葉は「クソ」だった。
とにかく心の中で「クソ」と言っていた。
その先生はもちろんクソだし。
コピーライターになったあと「うちの会社でそんなに頑張ってどうするの」と言ってた先輩もクソ。
上司の言ってることしかやらない同僚もクソ。
取引先の社内政治にばかり気にしてるヤツもクソ。

呪いをふりほどきたくて、
キャッチコピーを書くことのノイズになるもの全部に、心のなかで「クソ」と吐き捨て、ひたすら黙って机に向かっていた。

だいたいの人が不真面目に見えたし、だいたいの人のことが嫌いだった。
たぶん周りからも嫌われていたと思うけれど、嫌われて構わないと思っていた。実力を営業力でカバーし始めたら、終わりだと思っていた。

私は一流のコピーライターじゃないし、すごい実績を残しているわけじゃないけど、あの先生に言い返せるくらいは、コピーライターとして働いている。

今、思い返しても、なんであのときだけ、何クソ根性で頑張れたのか謎だ。
それだけ、コピーライターになりたかったってことなんでしょうけど、どうしてヘコたれなかったんだろう?

うちの両親に自己肯定感をつけられるようなことを言われたっけ、と考えたけど、思い出せない。
父の口癖は「どんな知り合いでも、保証人にはなるな」だった。

いちおうコピーライターになった私は、
NISAやiDeCoに興味があるのに、お父さんに怒られそうで手が出せない。

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