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次の総選挙で一発政権交代を決める秘策

 9月3日、菅首相が自民党総裁選に立候補しないことを表明し、事実上退陣に追い込まれた。次期自民党総裁が誰になるかにかかわらず、11月上旬頃に予定される総選挙の行方がいっそう不透明になってきた。

 いずれにしろ、ただでさえ野党の臨時国会開催要求に応じず、コロナの感染爆発になすすべもなかった菅による政権投げ出しは、さらにこれから2ヵ月以上の政治的空白を生むことになる。このままでは、医療崩壊によって救えぬ命がもっと増えることにつながるわけで、政府・与党の無責任は厳しく指弾されなければならない。

立憲民主党・枝野代表、共産党との連立を改めて否定

 ところで、立憲民主党の枝野幸男代表は、9月1日、共同通信のインタビューに応じ、総選挙に臨む態度を明らかにした。

 立憲民主党の枝野幸男代表は1日、共同通信のインタビューに応じ、次期衆院選について「単独過半数の獲得を目指す」と述べ、政権交代の実現に意欲を示した。目指す政権の在り方として「共産党とは日米安全保障条約や天皇制といった長期的に目指す社会像に違いがあり、連立政権は考えられない」と明言。

 この記事は9月1日付で、菅政権下の総選挙を想定しており、単独過半数を目指す戦略には今後、変更もありうるだろう。しかし、ここで問題にしたいのは、共産党との連立政権を改めて否定した点だ。

何をもって連立を組むのか?

 枝野は「共産党とは日米安全保障条約や天皇制といった長期的に目指す社会像に違いがあり、連立政権は考えられない」と言い、こうした論理は旧民主党時代から民主党系の政治家が数多く口にしてきたものだ。だが、この理屈は明確に誤りである。
 これに対しては、よく言われるように、「長期的に目指す社会像」、つまり党の綱領的部分に関する一致が見られるなら、目指すべきは共闘でも連立でもなく、党の合同であるべきだろう。しかし、残念ながら「長期的に目指す社会像」どころか、当面の政策の一致点さえ曖昧にしながら離合集散を繰り返してきたのが、当の民主党系列の政治の現実である点はさておいても、では、政権をめぐる政党間の連立は、何を共通項になされるべきなのか?

 それはいうまでもなく、当面する喫緊の政策課題だ。現在の日本の政治・社会状況において、それは何をおいても、感染爆発を終息させ医療崩壊を食い止めるためのコロナ対策であり、安倍菅政治の徹底検証と総括であり、コロナで疲弊した社会を再建する経済政策等々であろう。

 それらの政策合意については、共産党を含む野党4党の間で、この間の国会や国政・地方選挙等を通して、実践的に積み重ねられてきており、具体的な連立政権の政権構想にまとめあげることはさして難しくなく、総選挙までに十分可能なことだろう。

世界では共産党との連立は珍しくない

 私は、森友事件、加計事件等、安倍政権下で、想像を絶するような政権の私物化、腐敗が進む以前から、民主政治を逸脱した安倍政治に強い危機感を抱いてきた。そこで、日中戦争下の中国で、それまで激しい対立抗争を続けていた国民党と共産党が一転して国共合作によって日本の侵略戦争に立ち向かったように、野党が一致団結して連合政権を目指すべきだと主張してきた。その危機的状況は、コロナ禍で多くの犠牲者を出し、政治が有効に機能しなくなっている今、さらに深刻化している。

 (それに対しては、私はこのnoteで、5月に「コロナ禍無政府状態に終止符を打ち、国民の生命・生活を守る政権交代へ向けた緊急提言」、8月に「尾身茂氏を臨時首相職務代行に」という提言をした。)

 なにも国共合作を持ち出すまでもなく、今日では世界中の資本主義国において、共産党が連立政権に参加する例は別に珍しいことではない。

 スペインで昨年1月に誕生した社会労働党とウニダス・ポデモスの連立政権では、ウニダス・ポデモスに参加するスペイン共産党から2人が入閣している。

 ブラジルでは、ルーラ大統領とルセフ大統領の時、ブラジル共産党は労働者党と連立を組み、閣僚を送り出している。

 少し古くなるが、フランス共産党はミッテラン大統領やジョスパン大統領のもと、社会党と連立を組み閣僚を送り出した。

 以上は社会主義や社会民主主義を掲げる社会党系政権での連立の例だが、それ以外にも共産党が連立政権に参加した例はある。

 バングラディシュでは2008年、共産主義政党であるバングラディシュ労働者党が、中道左派のアワミ連盟と連立政権を組んだ。

 また、フィンランドでは共産党の流れをくむ左派連合が、社会民主党や中道右派の国民連合党と連立を組み閣僚を出しており、現在も、社会民主党のサンナ・マリン首相のもと、連立5党の一角を占めている。

 以上の国々の共産党は、フィンランドの左派連合の例を除いて、かつてのイタリア共産党のように共産主義・社会主義の理念を捨て、資本主義体制下の変革を目指すリベラル政党へと変わったわけではなく、議会制民主主義のもとではあれ、マルクス主義の理念を掲げて社会主義革命をめざしている。

日本共産党が目指す社会

 翻って、来年創立百周年を迎え、現存する日本の政党の中でいちばん古い歴史を持つ日本共産党はどうだろうか?

 戦後の一時期、暴力革命路線をとった共産党は、1955年の第6回全国協議会(六全協)で平和革命・議会主義路線に転じ、その後も1973年にはマルクス主義の「プロレタリアート独裁」の用語を「プロレタリアート執権」と言い換え、76年には「マルクス・レーニン主義」の名称を放棄して「科学的社会主義」と称するに至った。

 また、日本共産党はかねてから、日本社会においては社会主義革命に至る前に徹底した民主主義革命が必要であるとする「二段階革命論」を主張し、民主主義革命の段階では、日米安全保障条約の廃棄は掲げているが、一方で象徴天皇制を含む現行憲法の遵守を謳っている。

 そして、他の政党との連立政権は、共産党のいう民主主義革命にも当たらないその前段階であり、他党との政策協議において、天皇制廃止はおろか、日米安保の廃棄を主張するはずもない。

 日本共産党は「社会主義社会の実現」を理念として掲げ、天皇制の廃止を唱えてはいるが、日本で共産党が単独で政権をとることなどほとんど考えられないので、社会主義社会の実現はおろか、天皇制の廃止も、夢のような話、私にいわせれば、単なるおとぎ話に過ぎない。(私自身は、天皇制は他国の王政と同様、民主主義の理念に反する制度なので、廃止されることを願っているが、それはずっと先の社会でなければ実現しないとも思っている。)

 私はかねてから、共産党が社民党に代わる左派リベラル政党としてより多くの国民の支持を集め、国会で発言権を増すためにも、いっそのこと社会主義の理念も降ろして党名変更すればいいとの見解を持っているのだが、それはさておいても、中道、リベラル政党にとって、現在の共産党を連立の相手として毛嫌いする理由はほとんどないものと思われる。

非現実的な共産党アレルギー

 もしかすると、立憲民主党や国民民主党のような中道・リベラル政党が共産党と距離をおきたがる理由は、昔ながらの「共産党アレルギー」にあるのかもしれない。そして彼らは、多くの国民にも同じアレルギーがあると依然として思い込んでいるため、共産党と共闘したり、ましてや連立を組むことはマイナスになると考えているのかもしれない。

 しかし、ソ連・東欧圏が崩壊し、社会主義が20世紀の歴史遺産と化してから30年の歳月が経つ。少なくとも、今の40代以下の世代には、共産党アレルギーなどほとんど存在しないだろう。それどころか、共産党の「共産主義」がなんたるかさえ知らない人も少なくないのではないだろうか?

立憲単独政権は夢のまた夢

 ところで、冒頭掲げたインタビューで、枝野は「単独過半数の獲得を目指す」と述べていた。確かに、菅政権相手にたたかえば、「2009年の民主党への政権交代選挙の夢よもう一度」とばかりに、風に乗って地滑り的大勝を収め単独政権を樹立する可能性もゼロではなかったと思う。しかし、菅が辞めて新しい自民党総裁(=新首相)のもとでたたかうことになる総選挙では、全く予断を許さない。

 今のところ、自民党総裁選に立候補が取り沙汰されているのは、岸田文雄、高市早苗、河野太郎、石破茂、野田聖子らだ。

 しかし、たとえ誰が総裁になろうと、安倍政権のゲッベルスとしてマスコミ・言論弾圧を指揮してきた菅義偉でさえ、「パンケーキおじさん」「叩き上げの苦労人」といったマスコミを通した印象操作に多くの国民が騙され、政権発足当初は60%を超す支持率を誇ったくらいなのだ。

 したがって、コロナ感染爆発のニュースを押しのけてマスコミが総裁選報道に明け暮れた末に誕生する新総裁・総理のもとでたたかわれる総選挙で、野党が苦戦を強いられるのは目に見えている。岸田や河野でもそうだろうが、党より国民の間でむしろ人気のある石破や、女性の高市や野田がもし総裁になろうものなら、自民単独で3分の2の議席獲得すら許しかねない。

政治劣化の根源は小選挙区制にある

 野党共闘・連立問題に入る前に触れておかなければならないのは、小選挙区制の問題だ。詳しくは、以前ブログで述べているのでそれを参照していただきたいが(「理想の民主的な選挙制度は」「完全比例代表制なら自民155議席の衝撃!ー多数決の横暴・小選挙区制の廃止を!」)、私は小選挙区制は少数意見を尊重する民主主義の原理に反する制度であるので、理想としては完全比例代表制にすべきであり、少なくとも昔の中選挙区制に戻した方がずっとマシだと考えている。

 日本では、55年体制という疑似民主主義=「戦後民主主義」のもと、中選挙区制がまともに機能せずに、自民党という大きなコップの中で、派閥という疑似政党間の疑似政権交代しかなされなかったが、本来であれば、中選挙区制はマイノリティの意見も政治に反映しうる制度だ。少なくとも、現在の小選挙区制のように、政党の得票率と議席数に大きな乖離を生むことはない。

 小選挙区制だと比較第1党が議席を独占してしまうため、第2党以下は共闘して第1党とたたかうしかなくなる。しかし、中選挙区制であれば、少数野党もそれぞれ自由に自らの政策を掲げて選挙をたたかえるのだ。

 その代わり、中選挙区制では、選挙の結果、どの政党も単独過半数に達しない場合、そこで初めて連立協議が始まる。90年代の細川連立政権や自民党・社会党・新党さきがけによる村山政権のような予期せぬ連立政権も誕生しうる。

 他国で見られるように、連立協議が難航したり、連立の組み替えがしょっちゅう生じる等、政情が安定しないという欠点はあるが、民意を歪めた議席配分による1強支配を招きやすい小選挙区制よりはずっとマシだ。

立共中心の政権か、「大連立」か?

 しかし、小選挙区制については、選挙制度改革の話が持ち上がった当初から、共産党が一貫して反対してきたが、現在はどの政党も表立って反対していない。そして、確実なのは、次の総選挙は小選挙区制のもとでたたかわれるということだ。

 そこで、もし仮に、野党が選挙協力のみで連立政権の構想を掲げずにたたかっても善戦し、立憲民主党単独での過半数には遠く及ばないものの、与党を過半数割れに追い込んだとしよう。その場合は、すべての政党間で連立協議がなされることになるだろうが、もし自公に維新を足しても過半数に届かない場合、立憲民主党は共産党やれいわ新選組を含めた中道左派リベラル政権を目指すのか、それとも、あくまで「共産党との連立政権はあり得ない」との主張を貫くのか?

 後者の場合、それでも立憲が政権与党を目指すなら、「自立大連立」というそれこそ悪夢のような政権が誕生する可能性がある。連立の条件を、当面する政策課題ではなく、目指すべき社会像とする誤った認識に立つ限り、その可能性は大いにあり得る。

 立憲民主党と自民党の間にも、「目指すべき社会像」に大きな違いがあると私は思うが、「資本主義体制の維持」という大きな括りでは一致し、「社会主義」を目指す共産党よりは近いという理屈も成り立つ。あるいは、判断基準を「象徴天皇制の維持と日米安保の堅持」とすれば、さらに答えは明白になろう。

野党5党の連立政権構想・閣僚名簿を国民に示してたたかえ!

 立憲民主党と枝野代表は、そうした連立政権に対する誤った認識と、支持組織である連合に配慮したとも受け取れる「共産党外し」を改めなければならない。そして、逆風が予想される総選挙で風向きを強い順風に変えるためには、単なる野党の選挙協力だけでは決定的に不十分だ。

 上述した5月のnoteでも述べたことだが、立憲民主党はれいわ新選組を含む野党5党による連立政権構想を示し、共通公約を掲げるとともに、枝野首相をはじめとした主要閣僚名簿を明らかにして選挙戦に臨む以外に勝ち目はない。

 閣僚名簿に蓮舫、辻元清美、森裕子、小池晃、田村智子、宮本岳志、福島瑞穂、山本太郎らの顔があれば、自公政権の新しい首相の顔に十分対抗できると、私は思う。閣僚名簿には当然、女性がかつてなく多く登用されることになるだろうが、それは単なる人気取りの看板政策ではなく、野党が現与党より圧倒的に女性議員の数も、実績のある女性議員も多いことの結果だ。このことも、国民には大きなアピール力となるだろう。

 立憲民主党と枝野代表は、現実をしっかり見据え、野党連立政権樹立のために、その先頭に立ってたたかわなければならない。もし、現実を見誤り、中途半端な野党共闘で単独政権を目指し、引き続き自公政権を許すような結果となれば、野党第一党の立憲民主党と枝野党首にその全責任があると、今から断言しておく。

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