アメリカでのトレーニング第13回 「アメリカの小学校で講演会をすることになってしまった話」

今回は、アメリカの小学校で講演会をすることになってしまった話を書こうと思う。
 その前に、このnoteでもたびたび登場するMcKenzie Coan選手。
あまりにも頻出するので、覚えてくださった方もいるかもしれないが、今回の記事の主役はもはや彼女といっても過言ではないので、改めて紹介したい。



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骨の成長がうまくいかない障害で、身長も低い。彼女のカテゴリーではぶっちぎって強いので、4年前のリオパラリンピックでは、三つの金メダルを獲得している。
俺が練習している大学の卒業生で、今もそこでトレーニングを続けている。練習に行くときは彼女が車で迎えにきてくれて、終わったら送ってくれる。最強のトレーニングパートナー。

 ボルチモアを紹介してくれたのが、俺と同じ障害のSnyder選手なので、テレビとかでは彼が取り上げられているが、実生活では圧倒的にMcKenzieにお世話になっている。

 さて、2月のある日。練習後コーチから、「うちのお姉さんが校長を勤めている学校で来週イベントがあるから、敬一とMcKenzieとで行って来てくれないか?」と頼まれた。
 パラアスリートが学校を訪問して、こどもたちに話をするのは、日本でもよくある。社会貢献はアスリートの義務だ。喜んでお受けしたいところだが、俺なんかが行って大丈夫か?
 「問題ない。一緒に写真撮ったり、サインしてあげたりすればいいから」

 とりあえず、英語でサインをできるようにしないと。
点字でしか読み書きができない俺は、普通の文字が書けない。何とか自分の名前だけは漢字で書けるようになっているが、アルファベットは未開拓。急いで語学学校のディレクターのMBのところに行って事情を説明し、keiichiだけは書けるようになった。アルファベットって、漢字よりぜんぜん楽なのな。

 翌週。練習後にMcKenzieが「そういえば明日は学校へいく日だね。さっき先方からメール着てたから、スピーチしてほしい内容転送しとくよ」。と言い出した。
スピーチだと?聞いてないぞ。サインと写真だけじゃなかったのか。しゃべらないといけないのか。急に緊張してきた。
 内容は、視覚障害のこととか、水泳を始めたきっかけとか、当たり障りのない内容。日本でやる講演会ならむしろ物足りないぐらいだが、今の俺には荷が重い。
 とりあえず原稿を作って丸暗記して出陣。
 McKenzieの運転で学校へ向かう。
「私たちのほかにもたくさんスピーカーがいるから、まあ5分も話せばいいと思うよ。てか、日本でもよくやってるでしょ?緊張するなって!」
 無理だ。さっきから自分の原稿をずっと復習している。

 学校に到着、確かに他にもたくさん人がいる。いるにはいるのだが、思ってたのとぜんぜん違った。
 俺がイメージしてたのは、広い体育館みたいなところにみんなが集まって、順番にちょっと図津話をしていくスタイル。
 ところが実際は、「あなたは1年生に話をしてください」、「あなたは5年生の担当です」みたいな感じで役割が割り振られていて、そこそこの長時間しゃべらないといけないシステムだった。
 まあ、こっちには強い見方のMcKenzieがいる。時間が長くなったって、きっとこいつが何とかしてくれるさ。頼んだぞ。

 われわれの担当は5年生だった。こどもたちの着席が完了するなり、McKenzieの独演会が始まった。完全に教室を支配してスピーチを進めていく。こどもたちも彼女の話に真剣に聞き入っていた。
 「私は、骨が折れやすい病気です。さて、ここでクイズです。今までに、何本骨を折ったでしょうか?」
こどもたちが、10とか100とか適当な数字をいう。
 「よーしよしみんなよくできました。正解は。折りすぎて何本か覚えてませーん(笑)」
なんじゃそのブラックジョーク。日本だったらドン引きされているところだろうけど、こどもたちは大爆笑。笑ってる場合じゃないぞ。
 「今日は私の練習パートナーが、はるばる日本からきてるから紹介します!」
いよいよ俺の出番。どんな風に紹介されようと、俺は準備してきた原稿を吐き出すことしかできなかった。
 大量の汗をかきながらどうにかしゃべり終えた。
 「それではここからは、みなさんから質問をうけまーす」
何だと。何か聞かれても答えられないぞ。こどもたちってもごもご言ってて何言ってるか分からないし、文法なんてまるで無視している。頼む、俺には何も聞かないでくれ。
「あのー、眼が見えないってことはー」
やばい、俺に聞いてる。でも、その先が聞き取れない。
ここで察してくれるのが頼れるMcKenzie。こどもの話す英語を、俺の聞き取れる英語に訳してくれた。
で、答えたら、今度はこどもの反応が悪い。どうやら俺の発音が悪くて、こどもたちに伝わっていない。やばい、俺泣きそう。
ここで察してくれるのが頼れるMcKenzie。
俺の汚い発音を見事に理解して、こどもたちにも分かる英語に訳してくれた。
すると次の質問。
「あのー、日本ってー」
また俺かよ。ここでも英語から英語の通訳が入る。
 火達磨にされたけど、ほんとうに勉強になった。「こどもたちから学ぶことはたくさんある」というのはよく聞くが、こんなにも直接学ばせてもらったのは初めてだった。
 最後にMcKenzieが、リオで獲得した金メダルを披露。ちなみにリオ大会は、日本選手団全体で金メダルを取れなかったので、だれも触ったことがない。どさくさにまぎれて俺も触らせてもらった。金メダルえーなー。
 自粛期間に彼女から発信されたメッセージはこちら



#パラリンピック #水泳 #アメリカ #トレーニング #留学


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