アメリカでのトレーニング第25回 「少しずつ元気を取り戻しつつあったときの話」

 2020念1月はどん底だった。お世話になっていた人が次々といなくなり、寂しくてホームシックになっていた。

 その要因の一つであったのが、トレーナーのTonyがいなくなってしまったこと。後任として彼の後輩、Jakeが引き継いでくれることになった。Tonyとの最後のトレーニングの日に対面して、引継ぎをしてくれるとのことだったが、Jakeは現れなかった。
もちろん、こっちも期待はしていない。
 とりあえず連絡先を教えてもらい、メッセージを送って、どうにか初回のアポをとった。新しいジムに通うことになるが、Tonyがしょっちゅうジムを移籍していたおかげで、知らない場所にいくことなんてどうだっていい。どんだけ素敵なシャワーが浴びられるのか楽しみだ。

 トレーニング初日、Jakeがジムの玄関で待っていてくれた。普通だ。なんていうか、普通の若者だ。インパクト薄い。
 トレーニング開始。良くも悪くも圧倒的に普通。そこそこ丁寧にフォームの指導もしてくれるし、淡々とメニューを進めていく。一くくりにするのはよくないと思うが、日本人のトレーナーみたいだ。


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 別にテンションが低い訳ではないし、淡々とトレーニングをするのがいやな訳でもない、むしろそうやって育ってきた。でも、今はまだ、ものすごくきついトレーニングを、ものすごいハイテンションで押し切ってくるTonyが懐かしい。
 まあでも、トレーニングを継続できることになったのだから、とりあえずはいいことにしておいた。

 ところが、そううまくはいかない。ほんとうにちゃんとうまくいかない。
 Tonyのトレーニングに不満はなかったが、ドタキャンが多すぎるのは問題だった。
そして、Jakeもドタキャンが多い。あんな普通そうなのに、ドタキャン癖だけは同じらしい。

 その日も、朝のプールでの練習後に、Jakeからキャンセルの連絡がきていた。またかと思ってため息をついていると、McKenzieがどうした?と聞いてくれた。そこで、事の顛末を話してみたところ、彼女のほうもウェイトのトレーナーで問題を抱えていた。
 彼女は、Jessicaという選手とトレーニングをやっている。パラリンピックで数多くのメダルを獲得している、パラ水泳のスーパースター、あのJessica Longだ。彼女もまた、ボルチモア出身。


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 そんなJessicaは、コロラドに引っ越すことになった。そして、あろうことか、トレーナーも一緒に連れて行こうとしているらしい。そんなことになれば、McKenzieは、指導してくれるトレーナーを失ってしまう。
 ちなみにJessicaは、何度かトレーニングをさぼっていて、mcKenzieは一度もサボったことがないとのこと。これはかなり怒っている。
Jessicaというやつはなんて自分かってなんだ。きっとスーパースターでお金持ちだから、トレーナーを個人で連れて行っても養えるんだろう。なかなかストレスフルで気の毒な話だ。
 そんな訳で、jakeの問題は解決していないが、なんとなく悩みを共有できてうれしかった。

 しばらくして、Tonyから連絡が来た。「トレーニングは順調か?」と聞かれたので、「キャンセルが多くて大変だよ」と答えておいた。「必要なら他のトレーナーを紹介するよ」といってくれていた。「おまえもそうとうキャンセル多かったぞ」、とは、いわなかった。というか、連絡くれただけでめちゃめちゃうれしかった。

その後分かったことは、Jakeはいくつかのジムを掛持ちしていて、毎日職場が変わっているということ。系列店なので、ジムが変わっても俺も使える。ということで、Jakeのスケジュールにあわせて、俺も二つのジムを利用することにした。
 そのうちの一つは、Tonyと最初にトレーニングをしていた、アンダーアーマー本社にあるジム。流れ流れてここへ戻ってくることができた。久しぶりに行ってみたが、思っていたより近く感じた。
 職員はほとんど変わってしまっていたが、お客さんの中に、俺のことを覚えていてくれたおじさんがいた。こういう懐かしい再開がボルチモアでもあると、俺もけっこう長いことここにいるんだなと感じさせられる。

 2月になり、また日本からテレビの取材がきた。しかも、2回きた。1回はMcKenzieの取材。どうやらパラリンピックの記録映画に彼女がでるらしい。あのキャラクターの魅力を見抜いているとはなかなかセンスがいい。
 ディレクターは、一人で世界中を回って、映画の素材になる選手の取材を続けている。ここへ来る前はエクアドルに行っていた。で、たまたまMcKenzieの近くに日本人の俺がいたので、俺にもお土産をくれた。和柄の巾着袋みたいなやつ。外人へのお土産の残りか?まあついでなのでいいんだけど。
と思ったら、とらやの羊羹がでてきた。これは明らかに俺のために準備してくれていたとしか思えない。しかも、羊羹ってまあまあ重い。これもって世界中回ってたのか。とんでもなく失礼な誤解をしていたことを恥じた。
 そして、2回とも、通訳は、wowowのときにもきてくれた西元さん。ここでも懐かしい再会になってうれしくなった。食事に連れて行ってもらったり、最近の話を思いっきり聞いてもらった。ありがたい。
 次回は、また新しい出会いのことについて書きたいと思います。




#パラリンピック #水泳 #アメリカ #トレーニング #留学


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