アメリカでのトレーニング第20回 「アメリカでお葬式に参列することになってしまったときの話」

 2019年10月。大切な友人が一人亡くなった。
 彼女の名前はamayah。食堂でたまたま知り合って以来、みかけるといつも向こうから声をかけてくれていた。同じ寮に住んでいて、部屋は三つほど隣。
 信じられない。交通事故だったらしい。
昼前になんとなくフェイスブックをみていたら、大学の投稿に彼女の名前があった。
だいたいSNSに名前が出るときって、何かしらの偉業を成し遂げたとき。そういえばファッションショーに出るって言ってたから、その噺家と思った。
 ところが、詳しく読んでみると、彼女の訃報を告げる投稿だった。この間も、今度部屋遊びにいくよ、みたいな会話をしたばかりだったのに。今度というのがこれほど愚かなことになるとは。
 小規模な大学とはいえ、何千人という学生がいる。その中で、俺と親しくしてくれている、というか絡んでくれたことのある学生なんて、ほんとうにごくわずか。よりによってそんな小さな確立で、そんなことが起きるのかよ。
 まだ信じられなかった。信じられなさ過ぎるからか、そこまでの関係でなかったからかはわからないけど、涙はでてこなかった。
 とりあえず語学学校の事務所に行って、このニュースが本当なのかを確認してみた。ほんとうに決まっているのだが。もしお葬式とか、お別れの何かとかあるなら連れて行ってほしいと、ディレクターのMBに伝えた。
 部屋に戻ってくるとAmayahの部屋の近くで女性が泣いていた。家族だろうか。さすがにここですこし実感がわいた。やっぱり、彼女だったんだ。同姓同名とかもあるのでは?と思っていたから。
 そういえば、すごく家族思いの子だった。かなり小さい兄弟がいたっぽくて、部屋に遊びに行ったときは、彼らのクリスマスプレゼントをたくさんおいていた。ほかの学生と比べて、バイトもいっぱいしていた。かってに、複雑な厳しい家庭環境なのかと思っていたが、いまとなっては確認できない、仮に俺の英語が進歩しても。
 19歳。若すぎる。月曜日の朝からどこへ行ってたんだよ。それもバイトだったのか?
 ところで、フェイスブックの投稿に対するコメントを読んでいて知ったのだが、お悔やみの言葉はrest in peaceっていうらしい。いや、このフレーズは聞いたことあったんだけど、お悔やみの言葉だったのかよ。McKenzieがよく練習前に rest in peaceってよく言っていた。まあ確かに日本語でも、厳しい練習の前には冗談で「ご愁傷様」とかいうから、似たようなもんなんだと思う。

 彼女が亡くなってから四日ほど経って、学内でお別れの集いのようなものがあった。これをvigilという。辞書ではお通夜と書いてあるが、日本のお通夜とはちょっと違うと思う。
 場所は彼女が通っていた校舎のエントランスホール。家族を含めて50人ほど集まっていた。思っていたより多い。ちなみに遺体はここにはない。

 まず、司会者が古人の紹介をする。続いて学長と思われる人が大学を代表して挨拶をした。
 その後、「皆さんの中で、彼女との思い出をシェアしてくれる人は挙手してください」というアナウンス。このしんみりした状況、日本ならまず手は上がらないと思う。ここでは10人ぐらいが話をした。一人3分ぐらい、時に笑いを撮りながら、基本的には号泣しながら。先生だけでなく、何人もの学生が思い出を語った。改めて、いい子だったんだと実感した。

 最後は皆で外に出て、ライトをもって輪になる。たぶん魂を送り出す儀式。そして解散。家族に一言声をかけて帰ってもいいんだよといわれたができなかった。なんか、できなかった。
 「Amayahは、俺みたいな眼の見えない外国人とも仲良くしてくれるような優しい子だったんだよ」って、ちゃんと伝えるべきだったと後悔している。

 それからまた1週間が経った。今度は彼女が卒業した高校でお葬式が行われるとの情報をMBがもってきた。この間のは、大学関係者だけのセレモニーだったが、今回のはすべての関係者が集うようだ。練習をお休みして、MBに連れて行ってもらうことにした。

 それにしても何回弔うんだ。日本だったら亡くなった二日後には火葬してるぞ。

 大学から車でおよそ20分。立派な教会のある高校だった。200人ほど参列者がいた。

 まずは聖書の朗読。大多数の人が号泣。これでもかってぐらい。
 そこからが大変。なぜか、ロックミュージシャンみたいな男性が現れて熱唱。一同拍手喝采。悲しみを無理やり吹き飛ばしていく。なんて騒々しい葬式だ。
その後はこの前と同じ感じで、関係者によるスピーチが10人ほど続いた。笑いあり、拍手あり。
 最後にAmayahのお父さんが挨拶をして終了した。

 MBによると、これはアフリカンアメリカンスタイルのお葬式らしい。翌日にコーチに「お葬式はどうだった?」と聞かれたとき、「アフリカンアメリカンスタイルだった」というと、「ああ、騒がしかったでしょ」といわれたので、かなりメジャーなんだと思う。
 他民族国家なだけあって、お葬式の種類もいろいろある。Amayahはすごく貴重な経験をさせてくれたけど、いろんな経験して勉強してるんだって、いつか話したのかもしれないけど、こんなことまでしてくれなくていいよ。

 別にあわせたつもりはなかったが、たまたま今週は彼女の命日。改めて、ご冥福をお祈りいたします。
May she rest in peace.

#パラリンピック #水泳 #アメリカ #トレーニング #留学

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