アメリカでのトレーニング第15回 「2回目の夏、生き延びるために」

 2019年6月、渡米から1年以上が経ち、2回目の夏がやってきた。トレーニングをしながら語学学校で学ぶという生活はすっかり定着した。たくさんの人が、「すごく英語上達したね」と言ってくれるが、実際よく分からない。成長が数字としてはっきり分かる水泳って、やっぱりすばらしい。
 6月は住んでいる寮の食堂が開かない日が多々ある。去年は在住日本人のれいこさんとみほさんに甘えて生き延びたが、最近は外食したり出前を頼んだりして、自力で生き延びられるようになった。
 コロナの影響で日本人にも定着したUber Eatsは、アメリカではすでにかなり利用されている。選択肢もとんでもない数ある。俺もヘビーユーザー。
 最初のうちは日本食レストランでおすしとかラーメンを頼んでみたり、中華とか韓国料理のようなアジアのものを頼んでみたりしていたのだが、実際別にたいしておいしくない。うどんを頼んだときに、麺と同じくらいしいたけが入っていたときは、13ドル(1500円)と、まあまあ高かったけど、我慢できずに残して捨てた。
そして、そんなものを食べてるよりは、いっそ開き直って、ピザとコーラを頼んでる方がよっぽどおいしいことに気がついた。

 外食先でしょっちゅういくのが、miss shirly'sというカフェ。俺の住んでいるメリーランド州で一番のブランチのお店。アメリカ人はブランチをこよなく愛している。土日の昼前にこのお店にいくと、ブランチなのに2時間待ち。で、みんな待つ。それぐらい、おいしい。

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 われわれも土曜日の練習が終わると、みんなでよくここにきてブランチを食べる。
すばらしいことに、点字のメニューもおいてある。メニューを読んでみて分かったのだが、レストランのメニューってすごく難しい。みたこともないような単語が乱立している。シンプルに、「サンドウィッチ」、とか、「パンケーキ」、て書いてくれればいいのに、「地中海の素材をふんだんに使った、シェフが強烈にお勧めする、驚くほどおいしいサンドウィッチ」みたいな表現をしている。ようは、大半がいらない情報。おどろくほどおいしいかどうかは、俺が決めるから黙ってろ。

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 そういう訳で、みんなで食べに行ったときに、ちんたらメニューをみていても決められないので、結局いつも読んでもらっていた。
 でも、いい加減自分でメニューーも読みたくなったので、とある日曜日、一人で来店。とりあえずお変わり無料のコーヒーだけ頼んで、辞書を引きながら2時間メニューを熟読した。店員さんはお変わりをついでくれる度に、「きまった?」と聞いてくる。当たり前だがここで折れるわけにはいかないので、申し訳ないけど注文前にコーヒーを5杯飲んだ。おかげで完全にメニューをマスターした。

 一人で行けるようになると、すごく楽しくなってきて、毎週日曜日に通うようになった。お客さんとか店員さんとも仲良くなってきた。
 店員のお姉さんが、「あなた、どこからきたの?」と聞いてきた。
「日本だよ」というと、
「私の元彼も日本人だったのよ。橋本こうたっていってね、福島出身だった」
とのこと。日本人でもこんな素敵なお姉さんと付き合えるのか。

 ところで、ボルチモアの名物はシーフード。特にカニとロブスター。
 7月に日本から会社の人がきてくれたので、シーフードレストランに行った。ボルチモアにきたら一度は行っておかなければいけない、Phillipsというお店。
 注文をとりにきたお兄さんが流暢な日本語で話しかけてきた。
「日本人の方ですか?僕、橋本こうたっていって、福島からきてるんです」
おまえか。ここにいたのか。何でカフェのお姉さんと別れちゃったんだ。
とは言えなかったが、一人でかってに興奮していた。

 ボルチモアはアメリカの中でも日本人はけして多くない。何ならボルチモアの住民はだいたいどこかで繋がっている、すごく小さな世界という意味で、smalltimore(スモールチモあ)という言葉もある。そして、橋本こうた君は、ちゃんとれいこさんみほさんとも繋がっていた。

ウェイトトレーニングの指導をしてくれているTonyが、またしてもジムを移籍した。
しかたないので、俺も彼を追いかけて、トレーニングの場所を変えることになった。
トレーナーってこんなしょっちゅう職場が変わるものなのだろうか。「新しいジムのシャワーは最高だぞ」と本人は相変わらずふざけているが、そんな話じゃねえんだよ。
 で、行ってみたら、確かに施設は前よりいいものだった。一番最初のところほどではないが、敷地も広いし、借りられるタオルもふわふわだった。

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 彼が職場を変えるおかげで、アメリカのいろんなトレーニングジムとシャワーを経験できるので、これはこれでいいことにした。

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 ところが数週間して、また新しい住所が送られてきた。次はどんなジムに移動するのかと思ったら、たまたまその日はジムがメンテナンスで使えないので、公園でトレーニングをしようということだった。
 run the hill!
といわれたので、俺が知らない、ネイティブ特有の熟語かと思ったら、文字通り丘をひたすら走るというトレーニングだった。斜度がきつすぎて、感覚的には90度の崖を上っている気分だった。

 次回は、この夏、新しく増えた練習仲間との話を書こうと思います。


#パラリンピック #水泳 #アメリカ #トレーニング #留学

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