アメリカでのトレーニング第21回 「日本から寺西先生が試合に来てくれたときの話」

 2019年12月、アメリカの国内大会に出場した。今回は、日本から寺西先生にもきてもらい、試合でのタッピングをお願いすることになった。寺西先生とは、俺が中学生の時からタッピングをしてもらっている。

 場所はテキサスのダラス。寺西先生は日本から、俺はボルチモアからなので、現地の空港で集合することになっていた。はじめから、うまくいく気がまったくしない。

 俺が練習をしていたLoyola大学関係には、障害をもった選手がほかにも何人かいる。よく登場するのがMcKenzie。身長が伸びなくて骨が折れやすい。もちろん眼は見えている。
 次に、この歳の9月に入学してきたMcClain。すこしだけ見えているようだが、盲導犬を連れている。
 もう一人は車椅子ユーザーのstephan。杖を使って歩くこともできるが、基本は車椅子移動。
 最後に俺。一応自力で歩けるが、見えていない上にしゃべれない。

 この4人と指導してくれてるBrianコーチとで大会に出場するわけなのだが、なぜか、今回コーチは最終日しかいけないので、現地までは選手だけで行ってきてくれといわれた。
 さらに一番障害の軽いMcKenzieは、「私は疲れるので前々日に一人で移動するわ」
と、先にテキサスへと向かった。という訳で、車椅子のStephan、盲導犬を連れたMcClain、言葉が不自由な木村の3人で、飛行機に乗ってテキサスへと向かうこととなった。

 午前4時半。Stephanの運転で空港へ。早朝だがボルチモア空港はなかなかににぎわっていた。大して大事になることもなく、無事に飛行機に搭乗が完了。
 機内で久しぶりにSnyderと再開した。彼はトライアスロンに取り組んでいたが、いよいよ本格的に競泳のレースにも復帰し始めるとのことだった。

 ダラス空港についたら、そこでMcKenzieとそのお母さん、そして、日本からくる寺西先生と合流、するはずだった。するはずだったということはつまり、合流、できなかった。

 おかしい。明らかに様子がおかしい。国際空港にしてはしょぼすぎる。そして、連絡を取っているのにまったく話がかみ合わない。
 俺「荷物受け取るところにいるんですけど」
 先生「荷物受け取るとこって、いっぱいあるけど」
 俺「いや、1箇所しかないらしいですよ?」

 どうやら俺たちは、別の空港にいるらしいということが分かった。調べたら、ダラス空港って、二つあった。
 これは100%きちんと調べてなかった俺が悪い。俺はしょぼーい国内線しか飛んでないダラス空港、先生はハブ空港であるダラス国際空港に到着してた。

 とりあえず、寺西先生を迎えに行かなければならない。しかし、どのくらい離れているのかは良く分からない。分かっているのは、テキサス州というのは、日本1個分ぐらいの大きさがあるということだけ。
 車を運転してくれるMcKenzieのお母さんに、恐る恐る聞いてみる。
「あのね、日本からタッパーがくるんだけど、ダラス国際空港にいて、その、彼を迎えに行きたいんだけど…」

 結果、車で20分でついた。めっちゃ近い。ややこしいから一つの空港にまとめとけ。無駄にびびらせやがって。

 どうにか合流し、プールに行って軽く泳いで、明日からのレースに備えることとなった。

 初日は100mバタフライ。寺西先生と、McKenzieのお母さんがタッピングをしてくれた。お母さんにはこれまでも何度かたたいてもらっていたので、特に問題も起きずに1日が終了した。

 2日目は100m平泳ぎ。今日もお母さんにタッピングを頼むつもりだったのだが、レースの前になっていきなり、
 「あ、私これから帰るから。あなたのタッパーは、フレッドに頼んでおいたから」
といって、まさかの帰ってしまった。
どういうことや。そういうの、もうちょっと早く言え。で、フレッドってだれや。
 現れたのはよぼよぼのおじいさん。さすがの寺西先生も、「こんなじいさんで大丈夫か?」と言っている。日本語が通じなくてよかった。
 ところが、以外にも(といったらマジで失礼だが)、そつなくこなしてくれた。跡で調べたらこのじいさん、アメリカパラ水泳のレジェンド的指導者で、多くの選手を育て上げていた。この人の名前が付けられた公式の大会まであった。

 ちなみに今大会は予選と結晶がある。結晶もフレッドにお願いしようと思って行ったら
「ごめん、午後は違う選手をタッピングしないといけないんだ。ちょっと、だれか探してくる」
またか。もう、たたいてくれるならだれでもいい。登場したのはおばあさん。
日ごろ日本の大会で、自分がどれだけよい待遇の中で試合をしているかを思い知った。

 最終日。ようやくコーチ到着。マジでおせえよ。これまでの話をしたらげらげら笑っていた。
 最後の種目は100m自由形。タッピングは寺西先生とコーチ。なんという安心感。






 なんやかんやありすぎたけど、今回も鍛えられた大会だった。
 最後はみんなでテキサス名物バーベキューを食べて帰宅した。なんかもう、疲れたわ。

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#パラリンピック #水泳 #アメリカ #トレーニング #留学

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