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欺す衆生 | 月村 了衛

※ネタバレはないですが、物語の流れについて触れているので注意!

 機龍警察の月村了衛。今作は、悪徳商法、詐欺商法を題材にした犯罪小説。

 物語の冒頭では、昭和60年に起きた『豊田商事会長刺殺事件』をモデルにした殺人事件が起きる。時を経て会長を失った巨大詐欺組織の残党が出会い、再び人を騙すことを始める。

 原野商法、現物まがい商法などが次々に登場する。豊田商事の事件当時にはときどき聞いた詐欺の手法だ。一見線が細く、気の弱い主人公だが、かつて望まずに詐欺商法に加担させられていたことを負い目に思いながらも、かつての同僚に誘われるがままに、再び詐欺めいた仕事に手を染めることになってしまう。

 そんな流れで展開していく物語。主人公のやろうとしている仕事が詐欺まがいのことばかりだけに、読んでいて常に危なっかしい緊張感にさいなまれる。しかも、一緒に仕事をするパートナーたちは、そういう世界で生きてきた猛者ばかり。今は一緒に仕事をしていても、いつ弱肉強食の本性を表し、主人公をなにかの罠に陥れるんじゃないかといういやなプレッシャーに押しつぶされそうになる。どこかに、この危ない仕事を抜け出し、平穏な世界に戻る出口戦略はないのか。そんな淡い期待さえ抱いてしまう。しかし、そんな読者の思いとは裏腹に、主人公の置かれる境遇はますます悪徳と危険に満ち、行くも地獄戻るも地獄の様相を呈してくる。

 大方の予想通り、最後にはすべてを失い崩壊を迎える因果応報のラストと思いきや、そこがこの物語の面白いところ。ひねりを加えた、物語の結びにはあっと驚かされ、むしろ爽快感すら感じる見事な読後感を与えてくれる。が、そこはぜひ読んで確かめてほしい。

 人の欲望と、それを貫くことの危険さ、難しさ。それを成し遂げるものの凄み。そういうものが怒涛のごとく描かれた、犯罪巨編。ここには、魅力的な悪の姿が表現されている。


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