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【論文紹介】採用面接で使われる「4種類の質問」と見極め効果

面接官が使う「質問」の種類を意識したことはありますか?

この記事では、実際の採用面接で使われている「質問」を4つに分類し、それぞれが入社後のパフォーマンスをどの程度占うか、を調べた論文をご紹介します。

【この記事で紹介する論文】
Hartwell, C. J., Johnson, C. D., & Posthuma, R. A. (2019). Are we asking the right questions? Predictive validity comparison of four structured interview question types. Journal of Business Research, 100, 122–129. https://doi.org/10.1016/j.jbusres.2019.03.026

面接で使われている4種類の「質問」

採用面接では、面接官が候補者に対して様々な「質問」をします。Campionという研究者は1997年のレビュー論文で、これらの質問に4種類のタイプがあることを示しました。今回紹介する論文の著者のHartwellらは、これらの質問を以下の図のように再整理しました。

Hartwell, C. J., Johnson, C. D., & Posthuma, R. A. (2019)のFigure 1を参考に、岩本が作成

図の縦軸は、「質問の焦点」で、質問の範囲の広さを表します。横軸は、「候補者からの回答の根拠」で、質問に対して候補者が自身のどのような情報を参照して回答する(のが自然)かを表しています。

それでは、ひとつひとつ見ていきましょう。

①過去の行動経験に関する質問

まずは、「過去の行動経験に関する質問」です。候補者の具体的な経験を、行動レベルに着目して質問するものです。例えば、「Q.チームで目標達成をするために、あなた自身がリーダーシップを発揮した経験について教えてください」や、「Q.(難関な資格を取得した経験に対して)具体的にどのような学習の工夫をしたのか教えてください」等のような質問です。

こうした質問が採用面接で有効と考えられるロジックは、「過去の行動は、将来の行動を予測するだろう」というものです。日本の新卒採用では、ほとんどの候補者は、入社後の仕事と全く同じ「経験」を持っていませんが、入社後の仕事場面と何らか似た特徴を持つ学生時代の経験に着目して、こうした質問が使われています。

②架空の場面を想定した質問

次に、「架空の場面を想定した質問」です。ある程度の状況設定を候補者に示した上で、その中でどのようなアクションをするのかについて問います。例えば、「Q.あなたは新しいプロジェクトのリーダーに選ばれました。しかし、早々に、チーム内で意見が分かれたとします。どのように対応しますか?」等のような質問です。

こうした質問は「意図(ある行動を起こそうとする気持ち)が行動を予測するだろう」という考え方に基づいて用いられています。必ずしも、質問で回答された行動が取られるかはわからなくても、少なくても(面接官が思う)望ましい選択肢が頭の中に浮かんでいるかを確認することは役に立ちそうです。

③経歴に関する質問

次は、「経歴に関する質問」です。例えば、「A社のインターンシップではどのような仕事をしたのですか?」のように、候補者の経験について問う質問スタイルです。①の質問タイプのように特定の状況に縛られず、応募者がこれまでに取り組んできた全体的な経験やスキルについての理解を深めていきます。

④職務知識に関する質問

最後は、「職務知識に関する質問」です。この質問タイプは、候補者が応募する職務や業界に関する基本的な知識やスキルを有しているかを確認するために用いられます。例えば、「ISO30414について、私に説明してください」や「この業界の最近の動向について、どう考えていますか?」といった質問がこれに当たります。

この研究の目的

この論文では、上記の4種類の質問スタイルがそれぞれどれくらい「見極め」に有用なのかを調べることを目的としています。

実は、これまでの研究では、上記の4つの質問タイプの役割について個別に研究がされていました。また、「経歴」「職務知識」の質問タイプについては、ほとんど研究されてきませんでした。そこで、この論文では、4つの質問タイプの効果を、一度に扱い、同じ分析の中で比較しています。

研究の方法

アメリカ南部の州政府機関に所属する職員303人の採用面接時の記録と入社後のパフォーマンスや離職との関係を分析しました。職種はさまざまで、多い順に、メンテナンス/技能職(35%)、エンジニアリング(34%)、事務職(10%)でした。

この機関の採用面接では、募集ポジションに応じて、面接での質問内容や基準が事前に決められている「構造化面接」が採用されていました。候補者の職種やレベルに合わせた見極めができるように、面接官は190個の「質問プール」の中から4〜10個を選択し、面接を展開する…という運用がなされていました。また、各質問は、難易度や深度に応じて5〜140点の得点を持っていました。

分析にあたっては、これら190個の質問を先述の4タイプの質問に分類した上で、面接毎(職員毎)に、どのタイプの質問が、それぞれどの程度の深度/難易度で使用されていたのか?を算出し使用されました。同一人物の面接で「架空の場面を想定した質問」が複数回なされていた場合には、それらをまとめて、1つのスコアになるように処理をした上で分析されました。

分析の結果

それでは、分析の結果を見てみましょう。

まず、「職務の知識に関する質問」以外の3種類の質問が、入社後のパフォーマンスと有意に関係していました。関係の強さに着目してみると、「経歴に関する質問」は、「過去の行動経験に関する質問」や「架空の場面を想定した質問」と比べると、やや入社後パフォーマンスとの関係が弱いようです。

関連の高かった2つの質問タイプは、先の図の分類では、焦点を「絞った質問」です。活躍を見立てるためには、やはり、活躍に関係する場面や経験に絞った質問が役に立つようです。

Hartwell, C. J., Johnson, C. D., & Posthuma, R. A. (2019)のTable 2を参考に、岩本が作成
「入社後のパフォーマンスの高さ」は、上司による「主体性」「協力行動」「顧客サービス」等の7観点からの多面的な評価の合計値。

また、各質問タイプが入社後のパフォーマンスに影響を与えるだけでなく、それを介して退職可能性の低さにも関連するかどうかについても検証が行われました(分析用語では、「間接効果」といいます)。

結果として、「過去の行動経験に関する質問」や「経歴に関する質問」の活用が、入社後の高いパフォーマンスと同時に、退職可能性の低さを予測することが示されました。

面接では、優秀さだけでなく、その職場にフィットしそうかも見極めることが求められますが、そうした目的では、候補者の「知識」に基づく2タイプの質問では(活躍は見立てられても)定着は見立てられず、「経験」に基づく質問の方が役にたつということが示されました。

Hartwell, C. J., Johnson, C. D., & Posthuma, R. A. (2019)の分析結果の記述を参考に、岩本が作成

まとめ

いかがでしょうか。まず、このような面接質問の分類がある、というのを知っていただくことで、人事や面接官の皆さんには、日頃の採用面接を振り返る際の手掛かりになるのではないかと思います。例えば、『自分は「経歴に関する質問」が中心で「架空の場面を想定した質問」はそんなに使ってなかったな〜』のように、どんな質問をどれくらい使っているのか、という点を考えていただくのも良いかもしれません。

また、優秀さを見極める上では「絞った質問」、定着も考慮する際には「経験」に関する質問が有効、という知見も、面接中の評価モードを切り替える際に思い出していただけると良いかもしれません。

Hartwell, C. J., Johnson, C. D., & Posthuma, R. A. (2019)のFigure 1を参考に、岩本が作成

引用文献

  • Hartwell, C. J., Johnson, C. D., & Posthuma, R. A. (2019). Are we asking the right questions? Predictive validity comparison of four structured interview question types. Journal of Business Research, 100, 122–129. https://doi.org/10.1016/j.jbusres.2019.03.026

  • Campion, M. A., Palmer, D. K., & Campion, J. E. (1997). A review of structure in the selection interview. Personnel Psychology, 50(3), 655–702. https://doi.org/10.1111/j.1744-6570.1997.tb00709.x


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