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体幹トレーニングとしてのスクワットとデッドリフト

爆発的な力発揮の向上怪我予防を目的にウェイトトレーニングを行うことはサッカー選手にとっても有効なトレーニング方法です。

例えばスクワットやデッドリフトでは大殿筋やハムストリング、大腿四頭筋といった下肢の筋を鍛えることができます。
これらの下肢の筋の筋力の向上により発揮パワーを向上させ、スプリントやアジリティ、ジャンプなどの動きをより爆発的に素早く・高く実行することを狙う、というのが基本的なトレーニング戦略です。

また下肢筋力の向上は怪我予防の効果も期待でます。
怪我の予防が直接的にパフォーマンスを向上させるわけではないですが、アスリートにとっては「怪我をせずに競技のトレーニングを積み続けることが最もパフォーマンス向上に繋がる」と考えれば、もしかするとより重要なのはこちらの効果かもしれないですね。


さてスクワットやデッドリフトといったエクササイズは一般的に上記のように下半身の強化を目的としたものと考えられますが、それと同時に体幹強化のための、いわゆる体幹トレーニングとしての意義は非常に大きなものです。


今回は体幹トレーニングとしてのスクワットとデッドリフトを考えていきます。

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■下肢筋力向上のためのスクワットとデッドリフト

スクワットもデッドリフト「立ち上がる」運動です(厳密にはスクワットは「しゃがんで立ち上がる」運動ですが)。

それぞれのエクササイズを関節トルクの視点で見てみると、その大きな違いとして、スクワットではより膝関節伸展トルクが大きくデッドリフトではより股関節伸展トルクが大きくなるということが挙げられます。フォームの違いによって膝と股関節に対するモーメントアームの長さが変化することが大きな要因となります。

トルク・モーメントに関しては過去記事参照
高校物理の知識を使ってサッカー指導者が選手の動きを見る【モーメント(トルク)】

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その結果、こちらのATHELETE BODYさんの記事で解説されているように、デッドリフトではより大殿筋やハムストリングといった股関節伸展筋の強化が期待でき、スクワットではより膝関節伸展筋である大腿四頭筋の強化がより期待できます。 

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膝関節伸展筋も股関節伸展筋も爆発的なパワー発揮には欠かせない筋です。
スクワットで強化される大腿四頭筋はいわゆる「もも前」として鍛えることを避けるべきだと考えられることが多いですが、強靭な股関節伸展筋(大殿筋やハムストリング)を持つ選手は同様に強靭な大腿四頭筋を持っているものです。

もちろん行うトレーニングがスクワットやレッグエクステンションばかりで、「もも前」ばかりを鍛えるのは避けるべきですが、重要な筋である大殿筋を強化するのに適したエクササイズであることに加え(サッカー選手にとってのスクワットは大腿四頭筋の強化よりも大殿筋の強化の側面を主目的とするべきです)、以下の紹介する体幹トレーニングとしてのメリットも踏まえると、スクワットとデッドリフトはどちらも行っていきたいウェイトトレーニングエクササイズです。


■体幹トレーニングとしてのスクワットとデッドリフト 

スクワットやデッドリフトをバーベルやダンベルを使用して行う場合、それら重量物を支えながら大きな力を発揮するため、体幹を強く安定させる必要があります。
仮に大殿筋やハムストリング、大腿四頭筋など下半身の筋が強くても、体幹に力が入らず安定させることができなければ立ち上がることはできません。

高強度のスクワットやデッドリフトでは体幹に大きな負荷をかけることができるため、これらは下半身の筋力強化という意味合いだけでなく、体幹トレーニングとしての効果を発揮します。

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スクワットとデッドリフト時に必要となる体幹の安定性に重要なこととして、

①腹圧
②体幹伸展筋力(腰部・胸部の伸展筋力)

の2つが挙げられます。

強い腹圧をかけることが要求されると同時に、体幹の伸展筋力も要求することができるのが体幹トレーニングとしてのスクワットとデッドリフトの大きなメリットと言えるでしょう。


①腹圧

体幹を安定させるときには腹圧を高めることが重要です。

人の胴体部分は大きく分けて胸腔と腹腔に分けることができます。

胸腔の中には肺や心臓などの臓器が、腹腔の中には胃、腸、肝臓、腎臓といった臓器が詰まっています。
胸腔が肋骨や胸骨など骨で覆われているのに対して、腹腔は後方に脊柱(背骨)があるものの、前方や側方には骨がありません。
腹腔が骨で覆われていない空洞であることから、腹腔の位置する腹部や腰部は構造的に安定性に乏しい状態です。

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しかしこの腹部・腰部(この部位を狭義の意味で「体幹」や「コア」と呼ぶこともあります)の安定性がある程度の強度で確保できないと、先ほど述べたようにスクワットやデッドリフトを行うことが困難ですし、全く確保できなければ立ち上がることも難しくなります。それほど重要な部位です。

骨という構造的な安定性を確保することができない部位であることから、呼吸による横隔膜の活動と、腹筋の活動で腹腔の圧力(腹圧)を高めて安定性を確保します。

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過去記事参照
サッカー選手の腹圧を高めるゴブレットスクワット


高強度のスクワットやデッドリフトを行う際には深い呼吸と強靭な腹筋の活動による腹圧の上昇が要求されるため、これらのエクササイズを行うことで腹圧を高める能力を向上させることができます。

腹圧を高め体幹を安定させるというスポーツパフォーマンスにとって重要な機能的な能力を向上させつつ、筋肉を鍛えるという筋力トレーニングとしての目的を達成できるのがスクワットやデッドリフトのメリットの1つといえるでしょう。



②体幹伸展筋力

スクワットとデッドリフトにおいて体幹を安定させるもう一つの要因に体幹伸展筋力があります。

スクワットとデッドリフトはその特性上「背中を丸めないように」行うことが必要です。高強度のスクワットとデッドリフトにおいて背中を丸める(特に腰)ことは非常に危険です。

「背中を丸めないように」するために腹圧を高めることと併せて脊柱起立筋に代表される体幹伸展筋(いわゆる背筋)が強く活動します。
その結果スクワットやデッドリフトでは体幹伸展筋を強化することができます。

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体幹伸展筋は姿勢を維持するために重要な筋です。
また下半身で大きな力を発揮するためには強靭な体幹伸展筋力が必要となります。


下半身で大きな力を生み出すために重要な筋は、先ほど述べたように大殿筋やハムストリングなどの股関節伸展筋や大腿四頭筋などの膝関節伸展筋であり、これらの筋を強化することがスクワットとデッドリフトの主目的です。

このうち股関節伸展筋である大殿筋とハムストリングは、股関節を伸展する働きと同時に骨盤を後傾させる働きがあります。
股関節が伸展することは相対的に骨盤が後傾することなので、足が地面に固定されている状態では大殿筋やハムストリングの活動は骨盤を引っ張り後傾させるように働きます。

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スクワットやデッドリフトでも大きな力を発揮する際にも大殿筋やハムストリングの活動によって股関節伸展の動きとともに骨盤を後傾させようとする力が働きます。
このままではスクワット時に骨盤が後傾してしまい、連動して背中も丸くなってしまいます。


これに対して体幹伸展筋が骨盤を前傾させようとする力を発揮します。

体幹伸展筋の活動による骨盤を前傾させる力によって、大殿筋やハムストリングの骨盤を後傾させようとする力を打ち消すことができます。
これにより骨盤・腰回りの力が釣り合い、姿勢を維持したまま大殿筋やハムストリングの力を十分に発揮することができるのです。

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また以下の研究ではスプリント中の腰仙骨部(腰〜骨盤にかけての部位)周りにかかる力を検証しています。

参考文献
Sado, N., Yoshioka, S., & Fukashiro, S. (2016). Mechanism of the maintenance of sagittal trunk posture in maximal sprint running. Japanese Journal of Biomechanics in Sports and Exercise, 20, 56–64.

その結果スプリントの接地時には骨盤を後傾させようとする力が大きくかかること、それは股関節伸展筋(大殿筋やハムストリングなど)によって生じているとしています。

同時にその力に拮抗するように体幹伸展筋によって骨盤を前傾させようとする力が生じていることも報告しています。

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これは先ほどのスクワット・デッドリフトでの話と同様です。
実際のスポーツ動作においても股関節伸展筋(大殿筋・ハムストリングなど)と拮抗する大きさの体幹伸展筋力を発揮する必要があるようです。
その結果股関節で発揮する力を高めることができます。


体幹伸展筋力を強化する上で高強度でのスクワットやデッドリフトは効果的であり、上記のようなスプリントやアジリティ、ジャンプなどのスポーツパフォーマンス時の体幹の安定性、股関節での大きな力の発揮を可能にするためにも積極的に実施していく価値はありそうです。



■まとめ

今回はスクワットとデッドリフトを体幹トレーニングという視点から見ていきました。

①腹圧
②体幹伸展筋力

どちらもスポーツパフォーマンスにおいて重要な要素であり、高強度でのスクワットやデッドリフトをはじめとしたウェイトトレーニングで強化していくことができます。

下半身の筋力を向上させるだけであれば、レッグプレスでもいいはずですが、体幹の強化というメリットが非常に重要であることから多くのアスリートがスクワットやデッドリフト、あるいはそれらの派生エクササイズを実施しています。


ウェイトトレーニングで体幹・下半身を強化することは、前回記事で紹介したようなバネを鍛えるプライオメトリクスと並行して行っていくことで、より爆発的な動きを目指していくことができます。


今年から高校生年代にも関わり始め、高校生であってもフォームの徹底や段階的な導入をしていくことで安全に効果的に高強度のスクワットやデッドリフトが実施可能であると感じています。大学生以上であれば言わずもがなです。

ぜひ基礎的なトレーニングの一つとして積極的に行ってみてください。

やってみたいがどのように進めていけばわからない!という方はご相談や指導も受け付けていますのでお気軽にご連絡ください。


今回はここまでです。

ありがとうございました!



■関連過去記事

サッカーのアクションと体幹トレーニングの考え方

サッカーのアクションと体幹トレーニングの考え方②

サッカー選手の腹圧を高めるゴブレットスクワット

高校物理の知識を使ってサッカー指導者が選手の動きを見る【モーメント(トルク)】



■参考


Sado, N., Yoshioka, S., & Fukashiro, S. (2016). Mechanism of the maintenance of sagittal trunk posture in maximal sprint running. Japanese Journal of Biomechanics in Sports and Exercise, 20, 56–64.



ライター

Keisuke Matsumoto

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