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「まちづくり学」序論。小さな町のまちづくりは、ベンチャー企業の経営戦略に通じる

日ごろ、「お仕事はなにをしてるんですか?」と聞かれて「まちづくり」と答えてしまう。なんともあいまいで適当な表現だと自覚しつつ、面倒さもあいまって、ついつい。。

別に間違ってるわけではないけど、たぶん「経営」に近いぐらい範囲の広いことばなので、総論はぼんやりイメージできるけど、各論では、「で、結局、なにしてるんですか?」に。

ぼくが(自称)「まちづくり」に関わるようになって約30年
ほとんどが不動産・建築的アプローチです。

民間企業が「まちづくり」の仕事をするには、建物の企画・設計・運営が一番、受注しやすいともいえます。
もうひとつは、総合計画や都市計画の「計画系」の案件。ワークショップとか莫大な資料作成業務でしょうか。

都農町の仕事も、最初は「保健福祉センター」や「道の駅」の企画・設計だったので「建物系」、その後は「グランドデザイン作成」で「計画系」でした。

まちづくりのイメージがぼやける原因のひとつが、対象になる「まち」の規模の違いです。

県単位もあれば、政令指定都市クラスの市から、町すれすれの小さな市、そして都農町のような1万人以下の町村まで、あらゆる規模に「まちづくり」は存在します。

基本は、そこに住む人たちが、住み続けたいと思える環境としくみをつくること、と自分なりには定義していて、規模を問わず共通しているのですが、仕事の関わり方、担当範囲に違いがあるようです。

ぼくが都農町に来てからあらためて感じた、まちづくりの仕事で求められる思考を5つにわけてまとめてみました。
これは多分、1万人規模だからより顕著に求められるんだと思ってます。

1.面的思考

ひとつの建物を考えていた時には適正だと思ってた企画が、他の複数の建物を同時に考えていくと重複してたり、シナジーがなく振り出しにもどる。そんな経験をいましているように感じます。

例えば商店街を考える際、空き家やシャッター街の有効利用やリノベーションに目がいきがち(わかりやすくて楽しいし)だけど、住民ニーズで考えると、バス停やベンチ、木陰の存在や側溝の舗装面や電柱の立ってる位置のほうが大事だったり。

建物にとわられず、面的にとらえないとニーズに即した優先順位にならなかったりします。

2.全体思考

これは1万人以下の町だとより実感します。

まちづくりでやらなきゃいけないことの質量と、まちづくりを担う人の質量バランスがことさら悪いのがこの規模の町の宿命的な課題です。

一方で、ぼくらのようにまちづくりのスキルを高めて生業にしてる人にとっては、こんなに面白い環境はありません(倍近く働く必要はあるけど、、)

ぼくの場合、これまでは、都心の建物をつくることによるまちづくりが多かったので、なおさら感じるのですが、1万人の高齢化が進む町のニーズは素敵な建物や場づくりより、医療福祉デジタル化教育一次産業事業承継のほうが顕著です。

それだけ多方面に専門知識やネットワークが求められるということ。
しかも、代替の人やサービスがほとんどないので、担当する人たちはとにかくやるのみ、責任もやたら大きくて大変。

これを人材育成手段と捉えれば、これ以上に全体思考・経営センスを磨く場はないってほど実践的です。

3.共生思考

1万人の規模だからこそ、障がい者の方々や、子育て世帯、生活困窮世帯に対して思い切った施策を実践できるように感じ始めてます。

地域共生社会は最近、どこでもスローガンにしていることばだけど、具現化するのは難しい。

共生の前提が、お互いがお互いを知っていることにあるんじゃないかなと思うから。知らない人と共に生きる、ってのはどうも現実味がわかない、個人的には。もちろん概念はわかるけど日常生活で想像しにくい、都会では。

その点で、1万人規模の地方のまちは強い。ほぼ全員が全員のことを知っているし、例外なくおせっかいで干渉しあう。

医療・介護・福祉などの地域包括ケアシステムと連動して、どんな人でも自宅で看取られる選択肢のある環境づくり、となると、かなり戦略や計画性をもってつくっていかないと一朝一夕にはできないもの。

チャレンジする価値はマックス!

4.未来思考

建物や道路などのハードにしても、福祉や教育などのソフトにしても、時間がかかるものが多いのがまちづくりの特徴。

住む人の満足度を高めていくには、プロセスから時間をかけるべきだし、意思決定も慎重になるもの。

そうなると、完成するのは、5年後とか10年後になるもの。
したがって、関わる人全員が考えたり議論する論点を、どれだけ5年後、10年後におけるのかが問われてきます。

いま、都農町で本格的に検討着手している都市計画道路どうする問題。明らかに拡幅する必要のない道路が計画上は倍近くに拡幅。聞けば、計画決定されたのは昭和30年代。。人口2万人近くいたとか。今の倍。。

5.経済思考

最後は当たり前だけど、経済あってのまちづくり。

小さな町の市場規模は人口減少・高齢化により着実に縮小。従来型の町内市場をあてこんでた企業は破綻。生き残るとすれば町外かオンラインに販路。結果、消費も町外にどんどん流出されていく。

この負のスパイラルに陥らないためにも、官民連携して、地産地消経済を維持していかなければなりません。このあたりの経済感覚も求められるのがまちづくりの難しいところですね。

カッコイイものつくるだけでもだめ、
イイことしているだけもだめ
儲かってるだけでもだめ

デザイン・社会的意義・利益の3つをバランスさせていく必要があります。

6.まとめ

日ごろ、まちづくりの仕事をしてて感じたことをとりとめなくまとめつつあるのですが、この5つの思考、実は、ベンチャー企業を経営してたときに、いつも最優先で考えていたこととほぼカブってます。

経営戦略とは、未来思考で全体的(全事業領域)、面的(多職種連携)に経済的メリットを最大化させるための資源配分の優先順位づけ、と言い換えられます。
一社だけ儲かればいいわけでなく、株主、社員、取引先、地域がともにハッピーになるような共生思考も必須でした。

場所は東京から、都農町に。
900人規模のベンチャー企業経営から、10,000人のまちづくりへ。
どうやらやってることはかなり似通っているな、と。

日々、まちづくりの難しさに直面してるだけに、これは小・中学生のうちから体系的、実践的に学んでいかないと、まちづくり人材は生まれないなと実感中。

都農中学校の1年生で3学期からはじまる15時間の総合的学習の時間を「まちづくり学」としてプログラム企画をしようと思い立ち、その序論的に頭を整理したいなと思って書いてきた次第です。不定期連載になりそうです。

中学生をはじめ、10代、20代の人たちが、自分のまちのまちづくりを担えるようなスキルを身につけていくにはどうすればよいか、オープンに議論をはじめられればと思います。



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