イノベーションの機会は予想外のところにある
イノベーションの基本は予想外だといわれます。
イノベーションの機会は予想外のところにあります。
システム思考で、予想外のところにある「イノベーションの機会」を見つける方法を解説します。
イノベーションの事例
前回の記事では、ドラッカーの『イノベーションと企業家精神』に載せられているコンテナ船のイノベーション事例を分析しました。
『従来の貨物船の生産性を4倍に増やし、海運業の危機を救った』(参考文献1)といわれる「コンテナ船のイノベーション」を、システム思考で分析しました。
『イノベーションと企業家精神』の「第4章 ギャップを探す|第二の機会」(参考文献2)によると、コンテナ船以前の貨物船による海上輸送については、次のような課題があったそうです。
課題
船舶の高速化
船舶の省力化
しかし、これらは成果を期待できない課題でした。
その理由は、次のような認識ギャップにありました。
『産業内部の者が、現実について誤った認識をもつとき、その努力は間違った方向に向かう。』(参考文献2)
認識ギャップに気づいた後「海上輸送の課題」が次のように変化しました。
以前の課題
海上での船舶の移動時間を短くする
新しい課題
港での貨物の滞留時間を短くする
「海上輸送の課題」の要因(主要な原因)が、海上ではなく、港での陸上の作業にあったのです。
この認識の変化が、コンテナ船のイノベーションにつながりました。
このイノベーションで使われた技術は、トラックや貨車で使われていたコンテナを応用したものでした。
「画期的な(船舶用)エンジン」といった新しい技術ではなく「コンテナ」といった既存の技術を応用したものです。
『従来の貨物船の生産性を4倍に増やし、海運業の危機を救った』(参考文献1)イノベーションが、画期的な新技術ではなく、既存の技術から生まれたという点も興味深いですね。
※上記内容は、P.F.ドラッカー『イノベーションと企業家精神【エッセンシャル版】』の「第4章 ギャップを探す|第二の機会」を参考に作成しました。
時間・空間図での分析
「コンテナ船のイノベーション事例」をシステムの時間・空間図で分析すると、次のようになります。
上の図では、上位システムとシステムを次のように設定しています。
上位システム:海上輸送
システム:船舶
過去のシステム:貨物船
現在のシステム:コンテナ船
また過去と現在については、次のように設定しています。
過去:コンテナ船以前
現在:コンテナ船以後
上の図2による過去(コンテナ船以前)の分析は次のようになります。
過去(コンテナ船以前)の分析
過去(コンテナ船以前)の貨物船による海上輸送の課題は次の通りでした。
課題
船舶の高速化
船舶の省力化
ここでの焦点は、次の関係に向けられていました。
海(他のシステム)⇔ 貨物船(システム)⇔ エンジン(構成要素)
上の図では「他のシステム・システム・構成要素」の中で焦点になっているものを赤色で表示しています。
次は現在(コンテナ船以後)の分析です。
現在(コンテナ船以後)の分析
海上を移動する貨物船の速度を上げる、低燃費化することには限界があることがわかり、海上輸送の課題は次のように変わりました。
以前の課題
海上での船舶の移動時間を短くする
新しい課題
港での貨物の滞留時間を短くする
ここでの焦点は、次の関係に向けられています。
貨物(他のシステム)⇔ 港(他のシステム)⇔ コンテナ(構成要素)
上の図では、過去と現在で、それぞれ焦点になっているものを赤色で表示しています。
過去では、貨物船が焦点になっていましたが、現在では代わりに貨物が焦点になっています。
「課題の解決で注目すべきは、貨物船ではなく貨物である」ことに認識が変化したことがわかります。
※「過去(コンテナ船以前)の分析」「現在(コンテナ船以後)の分析」について詳しくは『システム思考で、イノベーションの機会を探る』記事をご覧ください。→ シリーズ記事(記事の最後)の前回の記事です。
システム思考で考える
システム思考では「システムの時間・空間図」をつくる前に、まず次のシステム図をつくります。
貨物船のシステム図は、次のように定義することができます。
システム思考では、次のように考えます。
重要なものは、システム(自体)ではなく、システムの主要機能である
システム(自体)という手段ではなく、システムの機能に焦点を合わせます。
貨物船の場合は、貨物船というシステム自体ではなく「貨物を輸送する」という機能とその対象物に焦点が当てられます。
「現在(コンテナ船以後)の分析」で、「課題の解決で注目すべきは、貨物船ではなく貨物である」ことに認識が変化したと述べました。
このような認識の変化をうながすうえで、システム思考は効果的といえます。
予想外のことに気づくには
「コンテナ船のイノベーション事例」の分析でわかった予想外のことは次の2つです。
「海上輸送の課題」の要因(主要な原因)が、海上ではなく、港での陸上の作業にあったこと
新しい技術(画期的なエンジン)ではなく、他分野(トラック・貨車)の既存の技術(コンテナ)を使ってイノベーションが行われた
このような予想外のことに気づくには、どうすればよいでしょうか?
上記1については、課題に対してシステム図をつくると効果的です。
主要機能と対象物に焦点を当てて考えることが、上記1の気づきにつながります。
上記2については、システムの時間・空間図をつくると効果的です。
システムだけを見るのではなく、その上位システムや下位システム(構成要素)も見ることで、さまざまなリソース(資源)を見つけることができます。
「他分野の既存の技術」をリソースにすることも効果的です。
解決したい課題がある時には、システム思考を使って「システム図」や「システムの時間・空間図」をつくってみると、さまざまな気づきを得ることができます。
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関連書籍
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参考文献
P.F.ドラッカー『イノベーションと企業家精神【エッセンシャル版】』の「第2章 イノベーションのための七つの機会」
P.F.ドラッカー『イノベーションと企業家精神【エッセンシャル版】』の「第4章 ギャップを探す|第二の機会」
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