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DMと君と。♯6

「昨夜は素敵な時間ありがとうございます」
朝9時スマホの振動で目が覚め
半目の状態でその文字をなぞる。
バイトは10時からだからあと15分寝よう。

7分後にまなスマホが震える。
「え、気になります?!」
何のことだ?DMの画面を見ると
朦朧とした意識のなか自分を疑った

「昨夜は素敵な時間ありがとうございます」

「こちらこそ、てか今日の朝食は?」

無意識に自分が相手の朝食のメニューを
聞いている、少し恥ずかしくなった。
自分から相手の情報を手に入れようとしている。

「おはよーグルトだよー」と来た。
その文字に少し安心した僕はバイト先に向かう
昨日は少し飲み過ぎたとiPodから流れる
流行りの曲を口ずさむ。

バイト終わりに公園へ向かう
相方とのネタ合わせのためである。
相方とは養成所で出会い現在にいたる
少し毒の効いたワードが持ち味で
養成所の頃から組んでみたいと思っていた

17時集合予定、彼はまだ来ない。
いつものことである。
20分後やってきた彼はタバコと呟き
喫煙スペースへと向かう。
17:40ようやくネタ合わせ開始。

相方との仲はビジネスパートナー
とくにプライベートなことは互いに知らず
仲が悪いわけでもない。
2時間のネタ合わせを終えその場を解散するとき
ラインに連絡がくる。

普段よりお世話になってる先輩から
「新宿で飲むからおいで」とのことだ
ちょうどお腹も空いてたからラッキーと
駆け足で向かった。

その先輩は芸歴6年目
独特な雰囲気を持つ魅力的な方だ
飲みの場では先輩のお笑い論を時間一杯聞く
「まぁ俺らは人気商売だからファン付けてくのが
     結局のところ一番大切かもな」

そんな先輩に質問を投げかけた
「先輩ってファンの方と関係持ったことあります?」

先輩は鼻の穴を大きく広げて言う
「当たり前だろ、芸の肥やしだからな」
ちょっと古臭くもあるが一理ある。

「俺は普通の会社員なら確実にモテないけどな
    ありがたいことに芸人やらせてもらってるお前には
    分からないと思うけど舞台に立つ人間は5割増で
    輝いて見える、この特権を乱用してるだけや」

なんとも気持ちのいい理由だ。
確かにこの先輩の舞台上のオーラはすごい
劇場全体を巻き込む力がある。

「お前ファンと飯とか行かないの?」

…少しドキッとした
昨日からファンと飯に行った芸人である
だがこの人を前に何も隠す必要はない

「昨日、初めて行きました」

とくに驚くこともなく先輩は
冷えたレモンサワーを一口飲むと
「まぁあんまり深いとこまで行くなよ」と
助言し、またお笑い論を語りだした。

終電が近くなり居酒屋を後にした僕は
駅へと向かう、こんな時間でも東京は
人が多く、暇な人間が溢れてると思う。

新宿駅へ着き小田急線の改札へ向かう
いつまで経っても慣れない迷路のような新宿駅
【京王線 小田急線→】を見つけ足を進める

終電が近い。
少し速歩きをする。
残り5分、何とか間に合った。
Suicaの残高は…まぁ大丈夫だろう。

「おーーい、こんばんわたがしーー」

……後ろから声が聞こえる。聞き覚えがある。

終電まで残り4分。(つづく)

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