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「おまえなんかに会いたくない」…感染症時代の人間模様

乾ルカ「おまえなんかに会いたくない」読みました。
「スクール○―スト」を正面から扱った作品。高校卒業して10年後、3年6組同窓会のお知らせがSNSで回ってきます。SNSのやりとりのなかで、一人の女子が浮き彫りになってくる。彼女は、元クラスメイトに復讐を図ろうと10年前から画策していた。復讐は、開封されるタイムカプセルの中にしかけられている。身に覚えのある面々は震えあがり…というイヤーな感じで話が進みます。これからどうなるのとぐいぐい読ませるのは、流石。
私は、「い○め」という言葉が大嫌いです。「犯罪」領域の言動を“軽い”意味にしてしまい、加害者の罪を薄めるから。いつの頃からか(「桐島、部活やめるってよ」のヒットの頃から?)使われている、「スクール○-スト」という言葉にも抵抗を感じます。その現象…集団の中で目立つ中心的な人物とそれに群がる人、そうでない人、浮いている人という序列…は昔からあったわけだけれど、それに「カー○ト」という強烈な呼び名をつけるセンスに同調できない。それまで比較的よく使われていたと思うヒエラルキーの方が、私としては受け入れられます。
とにかくこの小説では「カー○ト」の言葉が多発。ここまでこだわる人いるか?と思いつつも、程度の差はあれど、多くの人が気付いており気にしているわけだし…。容赦のない表現に、読み手の心がざらついていきます。ひとり一人の心の動きが繊細に描かれ、読み応えあり。結末については、私としては納得できない部分もありました。好みが別れそう。
私がこの小説の一番の白眉と思うのは、コロナ下の社会のムードが正確に描かれていることです。コロナの言葉は一言も出てきませんが、自粛、ワクチン、マスクなど…どんな風に生活に浸透してきたかを、思い出す。
中国のとある都市で発生した伝染病に、まだ誰もが暢気だった頃。それから徐々に変化していく世の中。最初の緊急事態宣言で、いきなり窮地にたたされた人がいかに動揺したか。経済的余裕のある人は、“我慢”した結果としてドライブできる…一刻も早く収束しなければお金がなくなるという死活問題の人の怒り。そう、自粛自粛の号令の裏で、どれほど人によって深刻さに差があったことか。
誰もが、ウイルスと無関係には生活できなくなった時代、それは今も続いている。コロナ時代の雰囲気を小説として残したことが素晴らしい。報道やドキュメンタリーよりも、個人のリアルな心情が綴られた貴重な記録でもあると思います。
新型ウイルスについて“存外人間はしぶとくたくましい”の記述にうなずく。次の一文にも。「明確に殺意を持つことができるぶん、人間の方がウイルスより恐ろしいかもしれない。」

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