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詩集|よはく

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【不定期更新】日常の断片と抽象的なイメージと、その余白。
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記事一覧

晴れ|詩

晴れ|詩

雨が居眠りをするように
ふ と止んだ暮れ六つ

あ と零した唇に
ね と君が無邪気に笑う

白桃色をした麗らかな頬に目が眩み
一雫の雨垂れが光る向こうの夕べ

僕は言葉を余白に預けて
ただ、君の瞬きに耳を澄ませる

あすも、あさっても|詩

あすも、あさっても|詩

誰でもなくて誰でもあるような
ありふれた日常に溺れて

またねと手を振る頬に差すは
白んだ夕日と仄かな憂鬱

君の声はどんな風だったか
柔らかい癖毛のふわふわが懐かしい

変わらないものはひとつもないなんてことを
納得している人はどれだけいるのだろう

零れ落ちる虚飾に怯えて
明日もまたプラトンの美しい嘘を塗り重ねていく

明後日も、明明後日も

玉虫色の世界を
ただ、ひたすら真白に

うたた寝|詩

うたた寝|詩

いつの間にか眠ってしまっていたみたいだった

甘ったるい嘘とほろ苦い優しさの香りに
微睡みの輪郭をそっと優しく撫でられて
ふいに目が覚めた夕暮れ

ティラミスみたいで美味しそう
君の薄い紫色の声が耳の奥の方を
微かに引っ掻いている

ティラミスだったらよかったのにね
薄暮の湿度が皮膚と溶け合う

終ぞ、僕の嘘を君が知ることはなかった

君の嘘をもはや僕が知ることはないのと
ちょうど同じように

真昼へ|詩

真昼へ|詩

君が2番線ホームに飛び込んだ夏を
今年も僕は喪服で過ごす

円環するはじめましてとさようなら
回帰するアポロンとディオニュソス

どうしたい?
と聞いてみる明け六つ

よし、もう一度
と君が言った真昼

相槌|詩

相槌|詩

あと一口残った白ワイン
パイナップルと、なんとかっていうチーズ

言わなかった言葉
握れない手
視線

ただ

うん

とだけ

相槌は時々、祈りによく似ていた

改札を通って振り返る
さよならの残り香はもうない

ひとり電車にゆられて

自由|詩

自由|詩

これまでとは違う言語で話をしよう

翻訳する必要のない対話を紡いで
意味を持たない音素を繋ぐ

時間にも空間にも囚われない
彼ではなく彼女でもない人達と

湖の底にあるスーパーマーケットに陳列された
非線形(ノンリニア)な未来を横目に泳ぐ

そうして、ゆらりと沈んでいく

弱いサピア=ウォーフは
認知ではなく可能性を規定していて

その向こうには自由が在った

論理空間を嚥下して
可能性の総体とし

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きこえる音、とどかない言葉|詩

きこえる音、とどかない言葉|詩

わからない たぶん、とどいていない
きいている たぶん、きこえていない

ふたりの間にはなかったはずの
静かな川に、ひやりとする

僕は翻訳可能性に眩暈がして
へたくそに口角をあげた