【院試首席】 大阪大学 大学院 情報科学研究科 情報数理学専攻 合格体験記 (2025年度 4月期入学)
令和6 (2024)年度7月27、28日に実施された、阪大 情報科学研究科 情報数理学専攻の院試(令和7 (2025)年度4月期入学修士課程)を受け、無事合格できたので、その体験記を投稿します。当日どういう流れで試験が行われたか、どう院試対策したか、実際本番で何点だったか、などなど参考にしてくだされば幸いです。
[2024.09.04 追記]
成績開示の結果、なんと首席でした!!
自己紹介
経済・経営系専攻の4年生。数学への興味が元々強く、数学の講義は多めに受講してきた。プログラミングや数理に興味を持ち、情報系の大学院に進学を決意。第一志望の研究室は京大情報の方にあったが、念の為、阪大も視野に入れ、研究室訪問を行ったところ、雰囲気がとてもよく、行きたいと思えたので、受験を決意した。
TOEIC:940点
併願校:京都大学 大学院情報学研究科 数理工学コース (Applied Mathematics and Physics Course, Graduate School of Informatics, Kyoto University)
※ ちなみに、併願して受験した京都大学の方も無事合格できた。なんと得点率は95%だったので、おそらくこちらも首席と思われる。
外部から、それも文系学部から、情報系大学院への進学は珍しいかと思っていたが、同じ境遇の方のnote記事もいくつかあったので、参考までに掲載しておく。
受験した研究科の基本情報
<正式名称>
大阪大学大学院 情報科学研究科 情報数理学専攻 (Information and Physical Sciences, the Graduate School of Information Science and Technology of Osaka University)
<定員・倍率>
令和7年度4月期入学修士課程の出願者数は約50名、定員は20名、倍率は約2.5倍。
<受験科目>
受験科目は以下の4分野から2分野を試験時に選択して解答する。試験時間は合計で3時間。私は数理基礎と数学解析を解くことに決めていた。
情報基礎(アルゴリズム、データ構造、計算量、グラフ・ネットワーク
数理基礎(線形計画、非線形計画、確率分布、推定・検定 等)
数学解析(複素解析、フーリエ解析、常微分方程式、ラプラス変換 等)
情報物理(静電場、電流と磁場、光の性質、光の干渉・回折 等)
<選抜方法>
とのこと。ちなみに、入試説明会では、「TOEICの点数は、最低限700点以上は欲しい。」といった旨のことを言っていた。
いざ当日
筆記試験当日の朝、受験会場に試験開始約1時間前に到着した。受験会場はすでに開いていて、ちらほら人もいた。受験会場である、阪大の吹田キャンパスはアクセスが悪く、駅からならバスを使うしかない。公共交通機関の時刻などを、きちんと事前に調べておくことをお勧めする。
問題冊子はA4で、裏面が白紙なので、そこを計算用紙として使うことができる。私はホッチキス留めされていた問題をバラバラにしてしまったが、特に何も言われなかった。解答用紙はA3もしくはB4で、大門1つにつき紙一枚(表裏)を使えるので、かなり余裕がある。どちらの用紙も、試験終了時に回収される。問題用紙と解答用紙は別々に回収していたので、下書きが採点時にみられるなどはないと考えられる。
各科目について、私の所感は次のとおり。
数理基礎
第1問:線形計画問題。基底変数の個数や、実行可能解の個数について、パットは方針が思いつかなかったので、双対問題だけ書いてスキップ。
第2問:$${\mathbb{R}^2}$$上にx, y座標が正規分布に従う点を取ったときの原点からの距離の分布に関する問題。ガウス積分や部分積分を繰り返して、完答した。こころなしか、数理基礎の確率の問題は、「円」に関する問題が多いように思う。
第3問:ラプラス分布の最尤推定量。尤度関数に絶対値が含まれていて、パラメータに関して必ずしも微分可能でない関数だったので、焦った。私は、$${ x_i < \mu }$$なるiとそうでないiについて添え字集合を定義し、絶対値を外して最尤推定量を求めたが、解答に自分の定義した変数が含まれる形になったので、自信はなかった。家に帰って調べると、中央値を用いれば綺麗に記述できるらしい。(このブログなど)
数学解析
第1問:複素関数論。冪級数展開の計算が少し大変だったが、完答。計算ミスは不安だった。
第2問:オイラー型の微分方程式。完答。最後に微分して答えが合うことも確認した。
第3問:ラプラス変換についての問題。ラプラス変換については定義を知っているのみで、全く勉強していなかった。そのため(i)の証明のみして、(ii)は方針のみ示して、解かなかった。ラプラス逆変換を用いて微分方程式を解くらしい。
問題をざっと1周して、残り時間が30分ほどだったので、解けていない問題に取り組むか迷ったものの、安牌を取って計算ミスの確認や解答の見直しに充てた。結果、特にミスも見つからず、何もせず30分が過ぎてしまった。
開示を見た上での予想点数は、
数理基礎:1. 50, 2. 100, 3. 65, 合計:215
数学解析:1. 100, 2. 100, 3. 60, 合計:260
といったところか。
口頭試問
僕を含む大抵の人は2、3分以下だったと思う。受験者数51名に対し、合計で4時間の口頭試問の時間が用意されているので妥当と言える。部屋に入ると、教授陣が8-10名ほどずらりと座っていた。口頭試問で聞かれたことのうち、予め決められていた質問と、(おそらく受験者の志望・得点などに応じて)各講座の先生がその場で行う自由な質問とに分かれているように感じた。また、筆記試験の出来などについては全く触れられなかったので、とても不安だった。
[2024.09.04追記]
試験の出来がいくら良くても、それを仄めかすようなことは何も言われないのかもしれない。ただ、試験の出来は(京大でも)聞かれなかったので、試験の出来を聞かれたら、あんまり出来が良くないということかもしれない。
私が実際に聞かれたこと:
経済・経営系出身ながら、なぜ情報系を受験したか、志望動機
(自分が興味のあるトピックとして挙げたことについて、)具体的にどういうところが面白いと感じたか、どういう本や論文を読んだか、独学か。
得点開示の結果
総点:474/600
専攻内順位:1位(受験者40名中)
筆記試験の出来はまずまずだと思っていたので、自分が首席とは思ってもみなかった。とても嬉しい。また、奇しくも京大の点数と全く同じ(京大は500点満点)だった。また、各科目の各大問100点満点で、細かく採点されているような印象がある。会場にいた受験者数自体は51名だったが、留学生枠や、他の枠の受験者も合わせての人数だったのだと思う。そのため、実質倍率40/27≒1.5倍程度とかなり低い。東大や京大の情報系は中国人留学生の影響もあって、競争率が近年跳ね上がっているが、阪大にはまだそこまで来ていないようだ。阪大も研究設備や環境、教員の方々はとても素晴らしかったので、是非入学を検討してみてほしいと思う。
筆記試験の対策・勉強法
過去問題は、open_inshiのリポジトリを利用してより古い年度のものも集めた。
3-5月
3月にTOEICの勉強を始め、4月下旬に1度だけ受験した。abceedという高額なサブスクを、2ヶ月だけ申し込んで短期集中で勉強した。一応、公式TOEIC® Listening & Reading 問題集 10も購入したが、abceedに単語帳も演習問題も含まれていたので、あまり使わなかった。なお、僕はもともと英語が得意で、3月初めのノー勉の段階でおよそ900点ほどあったので、1ヶ月ちょっとで40点伸ばしただけであることに注意してほしい。英語の基礎力があっても、TOEIC独特の語彙(ビジネス英語)があるので、そこを重点的に勉強した。TOEIC L&R TEST 出る単特急金のフレーズがいいと聞いたので、その音源をひたすら聞いて復唱しつつ、時々単語のテストをして覚えた。大学受験で英語が得意だった方は、readingの方は、ほとんど共通テストのような問題なので、そこまで苦労しないと思う。(ネットでは分量が多すぎて難しいと言われている。)一方、僕はlisteningが苦手だったので、単語とリスニングに注力した。結果940点も取れたので、満足している。
TOEICの勉強と並行して、最適化理論や微分方程式論の復習に時間を充てた。また微積分・線形代数は演習書を買って、例題を解いた。復習には主に講義資料を用いつつ、適宜教科書を参照するなどした。使った参考書は、次のとおり。
微積分、線形代数:
海老原 円、太田 雅人「詳解と演習 大学院入試問題〈数学〉」(解説が丁寧で、問題の難易度と量もちょうど良く、とても良い練習になったのでお勧めする。大学でもよく使っている人を見たので、人気なのだと思う。他にも黄色い院試数学演習書はあるが、そっちは量が多すぎたのでこっちにした。)
微分方程式:
笠原 晧司「微分方程式の基礎」(主に数学科が使うような教科書で、前半の初等解法+基礎定理だけ読んだ。今思えば、これより理工系向けのわかりやすい本があると思う。)
海老原 円、太田 雅人「詳解と演習 大学院入試問題〈数学〉」
最適化:
福島 雅夫「新版 数理計画入門」(広い分野をサラッと解説した本で、数理基礎の対策にはあんまり向かない本だったと感じる。最適化の対策には、矢部 博「工学基礎 最適化とその応用」が良いと今なら思う。)
4月には新学期がスタートし、興味のある講義とゼミで何だかんだ10コマほど埋まってしまい、院試勉強のペースが落ちてしまった。皆さんも注意してほしい。
なお、5月末に阪大の受験を決定したので、阪大の対策を始めたのは6月からであることに注意して欲しい。
6-8月
<数学解析>
6月初めから過去問を解きつつ、微分方程式・複素関数論の復習・演習をした。また、フーリエ解析については学習したことがなかったので、教科書を読みながら学習した。研究室見学をした際に、内部の人は皆、数学解析の対策には「工学系の数学解析」を使っていると聞いたので、この教科書の例題・章末問題を主に使って勉強を進めた。実際、入試問題も本書の内容に沿った内容が出題されていると感じたので、強くお勧めする。ラプラス変換については、過去あまり出題されていなかったので、時間の都合上全く勉強しないことにした。結果、本番で出題されてしまったので、後悔する羽目になった。
<数理基礎>
線形計画、非線形最適化については、京大対策で既にある程度の実力があると感じていた。なお、京大ではシンプレックス法は出題されないとのことだったので、シンプレックス法や基底解の議論の部分は演習せずに臨んだ。結果本番で、戦型計画の基底解に関する問題がガッツリ出てしまい、少し後悔する羽目になった。
また、確率統計の演習が足りないことに気づき、久保川先生の「現代数理統計学の基礎」の演習問題の一部を解いた。演習問題とその解答は、こちらから全て無料で見ることのできるので、お勧めしておく。
なお、統計の検定に関する事項も、適合度検定を除いて、全く勉強しないことにした。検定の理論は、基本的に暗記することばかりで、本質的でないことも多いため、あまり出題されないだろう、とたかを括っていたが、余裕があれば対策した方がいいと思う。
https://www.osaka-up.or.jp/book.php?isbn=978-4-87259-493-5
補足
私はもともと確率や統計学については学習したことがあり、線形計画法についても京大情報の対策をしていたので、対策を始める前からある程度解けていた。そのため、上記の対策だけでは甘いと思うので注意して欲しい。
最後に
私は非情報系出身ながら、独学で京大情報と阪大情報の院試勉強をして、無事どちらともにおそらく首席の成績で合格することができた。ただでさえ、内部生同士では過去問とその解答が出回っていたり、ノウハウが先輩から後輩に伝えられたりしている。一方、私は孤独な上に、圧倒的に情報不足で苦しかった。そのため、研究室訪問をして情報を集めたり、徹底的に過去問の傾向と対策を分析したりしてきた。せっかくなので、各年度の過去問とその解答、そして「なぜそのように解答できるか」というポイントまで含めた解説記事を随時まとめて発信していくつもりだ。実際、すでにいくつかは公開している。情報不足や過去問の解答がないことで悩んでいる外部生の方も、意欲的な内部生の方もぜひ利用していただけると嬉しい。
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