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文系から工学研究科に合格した【大学院理転】

大阪大学経済学部から大阪大学大学院工学研究科電気電子情報通信工学専攻情報通信工学コースに合格した。正式名称が長すぎる。

外部から、それも文系からの大学院受験となると本当に情報がなかった。
今後少しでも誰かの参考になればと思いこのnoteを書くことにした。


筆者の背景

背景を書いておいた方が参考にしやすいと思うので書いておく。

高校卒業後、関西大学法学部に進学しそのまま休学退学。
フリーターを経て23歳で大阪大学経済学部を受験し合格。
勘のいい読者は既にお気づきだろうが、異常なのである。

高校は理系だったが生物選択だったので物理は一切わからない。
旧課程なので青チャートには積分定数がついており、複素平面についての知識はなかった。



情報系への志望理由や経緯

大学一年生の冬、大学の図書館で偶然一冊の本と出会った。

西内啓『統計学が最強の学問である』ダイヤモンド社


これを読んだ私は「統計学が最強の学問なんだなぁ」と思い、統計学の勉強を始めた。人生ってこのくらいチョロくてもいいらしい。

ここからの二年間で数理統計学と壮絶な闘いを繰り広げることとなるのだがあまりにも長くなるのでここでは割愛する。数理統計関連でnoteを書く時がきたら詳細を記そうと思う。

何はともあれ、この数理統計学との闘いを通じて私は機械学習と出会い、統計理論や機械学習の研究をしたいという思いから理転を考え始めた。

経済学部では計量経済学という統計学や機械学習を用いて経済を実証分析する分野を専攻した。
大学院からの志望先と近い領域を専攻しておくことで理転後にスムーズに繋げるという作戦である。

なぜ情報科学研究科ではないのか

大阪大学についてよく知っている読者ならこう思っただろう。
私もそう思う。本当に。絶対に情報科学研究科を受験した方がいい。

というのも、大阪大学には基礎工学部情報科学科と工学部電子情報工学科情報システムコースの二つの情報系の学科があり、大学院からこの二つの学科は基礎工学研究科や工学研究科ではなく情報科学研究科に進学するのが一般的であるからだ。つまり、情報系の研究がしたいのであれば情報科学研究科に進学したほうがいい。もし情報系の研究がしたくて大阪大学の大学院を目指しているならば、必ず情報科学研究科を受験してほしい。

それでも工学研究科を選んだ理由は二つある。

ひとつは、工学研究科の方にも機械学習系の研究室はわずかに存在し、その研究室で研究をしたいと思ったからという単純なものである。研究室にこだわりがないのであれば情報科学研究科への進学を強く勧める。大切なことなので何度でも言う。

もうひとつは、普段から一緒にアニメをみたりカードゲームで遊んだりしている友人に工学部(特に電子情報工学科)が多く、それゆえに情報が得られやすいというものであり、この部分に関しては全く参考にならないと思う。友人は多い方が良い。

試験科目

以下の画像の通り。

多すぎるだろ。

基礎科目の五題は全て数学選択でいいという物理ワカラナイ人間には大変親切な仕様である。しかしこれには大きな罠(確率統計の項目で記述)があり、泣く泣く電磁気学を勉強することとなった。

専門科目は六題のうちから当日に三題選択して解く形式である。
情報理論と信号処理、そしてデータ構造アルゴリズムを勉強し、当日もその三題を選択した。


各科目の勉強方法

長々と経緯等を書き続けても仕方がないのでここからはいつ頃何をしたかという感じのことを書いていこうと思う。
が、その前に各科目の勉強に使用した教材の紹介や勉強方法に関して詳述しておく。その方が何月頃に何をしたというような話がしやすくなるからだ。

ただ、数学に関しては今までの勉強量や個人の能力差もあるので人によってはあまり参考にならない部分も多いかもしれない。

この部分に関心のない読者は飛ばしてもらっても構わない。

微積分

捨てました(出オチ)
ほぼ出ないので、時間を割くのはもったいないと感じた。
たとえ出題されたとしても微積分は数学の基本なので流石に全く歯が立たないということはないはず。
ガンマ関数ベータ関数と聞いてすぐに式が書けないようなレベルの人は何かしらの教科書で今一度復習しておいた方がいいと思う。

線形代数

長らく勉強しておらず、「ジョルダン標準形ってどうやって作るんだっけ?」程度の実力になっていたため、まずは伝家の宝刀✟マセマ✟を読み直した。
基礎の確認には最適だと思う。本当に役に立つ。
ただ、これだけでは心許ないので、線形代数に自信のない人たちは過去問等でしっかりと演習を積んでおいた方が良い。


微分方程式

メルカリで500円で売っていた教科書で復習した。
何を使ってもいいと思う。


複素関数論

ませーまいつもありがとう!
複素関数論は本当に知らなかったのでマセマで勉強した。
複素平面すら怪しかったがマセマのおかげで特に問題なく理解。
複素関数論はかなり面白い分野かもしれないという気付きを得た。


フーリエ解析

フーリエ解析は信号処理のテキストで基本を学んだ。
このテキストは阪大工学部の信号処理の講義でも使われている。
演習問題の量がとても多いので独学にもかなり向いていると思う。

ラプラス変換

マセマを一周して、完全理解。

確率統計

他の科目と比べて過去問の難易度があまりにも違いすぎるだろ……(呆れ)
内部生はほぼ誰も選ばず、去年は全受験者のうち2人しか選択しておらずその2人の出来も壊滅との噂が流れてきたため、確率統計には自信があったがリスクが大きすぎるため選択を断念した。

せっかくなので個人的に大好きな数理統計学の演習書を紹介しておこう。


数学全体の演習

それぞれの科目の基礎の確認が終了した後は『詳解と演習大学院入試問題<数学>』を周回した。
ある程度数学が完成している人は本当にこれだけでいいと思う。
院試数学に必要な要素が全て詰まっていると言っても過言ではないだろう。


電磁理論

高校は理系だったが生物選択だったので本当に何もわからないところからスタート。電位ってなんですか……?コンデンサー……?というような状態で、誇張抜きにして本当に何も知らなかった。

とりあえず大学で開講している電磁気学の講義を履修し、概念を理解しながら過去問をメインに演習を繰り返して頭に叩き込んだ。

過去問はマクスウェル方程式から何かを導出していくというような穴埋め形式が多かったので初学者でも誘導に乗ることでなんとかなった。

情報理論

今井秀樹『情報理論』(改訂2版)で勉強した。難易度は高いが分かりやすい。
初めて知る概念が多く、とても新鮮で勉強していて楽しいと感じた。
今井情報理論の演習はかなり難しく、解説もほぼなく答えだけだったため、
汐崎陽『情報・符号理論の基礎』を用いて演習した。こちらのテキストは難易度こそ低いものの演習の解説がしっかりしており演習書としてはとても有用だった。


信号処理

馬場口登, 中村和晃『新しい信号処理の教科書』を使用。
フーリエ解析で紹介した教科書である。
これ一冊をひたすら繰り返した。
工学部と基礎工学部の信号処理の講義を履修し、毎週復習できるような状況を作っていた。
サンプリング定理を理解するのに何故かかなり手こずり、本質を理解したのは院試の数日前だった。最後まで粘れ。

以下のサイトにもお世話になった。
古のインターネットのノリが好きなら絶対にこれで勉強した方がいい。


アルゴリズムとデータ構造

阪大工学部の講義で使われている教科書を使用した。そこまで難しくない。
競プロとかやってたら、ほぼノー勉でもいいと思う。


勉強開始から院試までの流れ


三月

大学の試験期間が終了し、この頃から少しずつ院試を意識し始めた。

何をやればいいのかわからなかったので、情報理論と符号理論の勉強を頑張った。

工学部で使われていた信号処理の教科書を教えてもらったので購入した。
怠惰なので購入しただけで当然読んでいない。

四月

信号処理や電磁理論などの工学部の講義を履修登録した。

研究室訪問を行い、教授との挨拶を済ませた。過去問の解答を入手。

信号処理の勉強を始めた。連続時間フーリエ解析あたりまで終わらせた。
微分方程式と線形代数の復習をした。

五月

ゴールデンウィークは休みなので当然勉強しない。ゴールデンウィークの怠惰を中旬まで引きずる。仕方ないね。

ラプラス変換の勉強をした。
信号処理は高速フーリエ変換あたりまで終わらせた。

五月末にTOEICがあった。怠惰なのでもちろん一回しか受けていない。
TOEICを受けたことはなく、五月中旬にインターネット上にあるスコア予想みたいなやつを割と舐めた感じでやったら予想スコア515と表示される。TOEIC舐めてたマジで。絶叫した。
取り急ぎ以下の二冊を全力で暗記した。

藁にもすがる思いでYouTubeで「TOEIC 2週間」みたいな検索をかけた。

ありがとうHaru English。今も見てます。
感謝の気持ちを込めて宣伝しておきます。

Haru Englishのおかげか当日のスコアはリスニング400リーディング340で合計スコア740だった。運ゲー?

TOEICのスコアはほぼ影響しないらしいけど、ちょっとでも高い方が心理的にも安心。低くても気にしすぎなくて大丈夫だと思う。ただ、スコア350とかなら流石に今後の大学院での研究に影響しそうだから気にした方がいい。

六月

複素関数論の勉強をした。
線形代数、複素関数、フーリエ解析、ラプラス変換の演習をした。
信号処理はz変換やディジタルフィルタまで勉強を終えた。復習もした。
アルゴリズムの教科書を一周した。
情報理論に関しては存在を忘却していた。
電磁理論はよくわからないままだった。

七月

上旬は数学全般と信号処理の復習をした。

ここで研究室の枠について話しておく必要がある。
第一希望の研究室の定員は計3人で、増やせても計4人までだった。
4月に現在の四年生が3人研究室に所属しており、既に激戦が予想されたが……。

この3人が学科内でもかなり成績のいい天才で3人とも推薦合格が決定(前代未聞)

こうして希望研究室の定員は残り最大一枠となってしまい、流石に不可能を感じ始める。
この事実を踏まえたうえで以下を読み進めてほしい。


中旬に過去問に手をつけた。

「全然解けへんやんけ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!(詰み)」

本当に焦った。本当に鬱になりかけた。院試の約一ヵ月前のことである。
形式等に慣れていなかったというのもあるだろうが、こんなにも解けないものなのかと涙した。

ここから過去問をひたすら解く方式にシフトした。ただひたすらに過去問をこなし、知らない概念が出てきたら教科書で勉強しなおすということを繰り返した。間違いなく大学を再受験したときよりも勉強した。

見る量こそは減ったが、アニメを見ることだけはやめなかった。
15年以上深夜アニメを見続けてきた漢の矜持である。


八月

無限に過去問の周回と教科書の復習をした。
ただひたすらにこれを行うのみで、それ以外のことはしなかった。
本当に気が狂い始めていた。


ここで専門科目選択に関して一抹の不安がよぎる。
六題のうちから三題選択だが、そもそも三科目しか勉強していない。
そのうちの一題が全く手を付けられない内容だったらどーしよ?どーする?(カスのおジャ魔女どれみ)



A. あきらめる

残り二週間ほどで追加で一教科勉強するのは不可能に近く、今勉強している科目の精度を上げた方が現実的だった。
これを読んでいる受験生には、科目選択があるのなら初めから追加で一つは勉強しておくことを強く勧める。

院試一日目(筆記試験)

基礎科目の数学は線形代数、微分方程式、フーリエ解析を選択した。
フーリエ解析は満点、線形代数は9割程度、微分方程式は5割程度の感触だった。
電磁理論が二題とも過去問で見たような問題だったため、過去問に感謝。
どちらも5割は取れていたと思う。

専門科目は予定通り情報理論と信号処理、アルゴリズムデータ構造を選択した。
情報理論は例年と比べてもかなり簡単だった。採点次第では満点な気もする。
信号処理は例年よりも難易度が増しており、分量もかなり増えていた。
ただ、しっかりと勉強して理解を深めていた内容だったため、答案作成には困らなかった。

信号処理の計算の最終確認をしているときに試験官が言った。
「残り時間10分です」

は?オイオイオイオイオイオイ
まだアルゴリズムの問題を見てすらいないが?????

時間に余裕があるからと思い時間を気にせず解いていたら大変なことになっていた。
急いで問題を見たところ、何もわからなかった。頭だけでなく答案も真っ白だった。

逆に考えるんだ。「捨てっちゃってもいいさ」と考えるんだ。

幸い情報理論と信号処理の手ごたえがかなりよかったため、なんとかなるんじゃないかとも思い、心を落ち着けた。

とはいえ白紙のまま出すわけにもいかず、書けそうな問題を探した。
するとお絵かきと算数で点が貰える箇所があったため、落書きして算数をし、全体の2割程度を埋めて終了。

全体で5割とれば受かると聞いていたので、情報理論と信号処理で大きな勘違いをしていなければ大丈夫かなという手ごたえだった。

筆記試験終了後は希望研究室に訪問し教授から面接についてのアドバイスを戴いた。

院試二日目(面接)

スーツが暑すぎて、死。

面接は五分程度だった。
どうして経済学部から志望したのかを聞かれ、素直に答えた。
修士終了後の進路について聞かれたので、できることなら博士後期課程まで進みたいと答えた。本心である。マジで。
第一希望研究室の教授に何故電磁理論を選択したのかを聞かれたので、電気電子情報通信工学専攻を受験するのに電気のことを一切知らないのは良くないから勉強したと答えた。半分は本心である。流石に数学で事故ったときの保険も兼ねているとは言えなかった。
どうやって電磁理論の勉強したのかについては、面接の会場にもいらっしゃったI先生の講義を履修して勉強したと答えた。

I先生「キミ覚えてるよぉ!期末試験の点数がずば抜けてよかった。なんで履修してるのか謎だったけど今完全に納得がいったよぉ~。」

というようなことを言ってもらえて本当に嬉しかった。

希望研究室の教授「それにしては電磁理論の点数が悪いけど」

敵⁉️
予想外のところから刺され、致命傷を負う。

最後に、情報通信工学コースは情報のほかに通信の研究をしている研究室もあるけどそっちの研究室になった場合は数学ついていけるの?みたいな感じのことを聞かれた。数学は好きなので頑張ると答えた。

「期待しています。」の一言で面接は終了。
バイトの面接なら落ちてるやつ~

こうして大学院試験は終了した。
大学院試験には合格したが、第一希望の研究室に配属されるかどうかはわからない。

2022/09/05(追記)
無事に第一希望研究室に配属確定。

まとめ

過去問は二ヶ月前からやれ。絶対に。
本当にそれだけ。
書くのに疲れたし、本当にこれ以上に言うことはない。

長々とまとまりのない文章を書き連ねてきたが、これでもかなり省略して要点のみを書いてきたつもりである。他にも書ききれないくらい色々なことがあった。
参考になったかどうかは分からないが、どこかの誰かの役に立てば幸いである。

最後に

大学院の合格がゴールではない。闘いは続く。
本当にやることが多くて辛いし、何度も心が折れそうになった。

あのままフリーターを続けてそのままどこかに就職して生きていた方が幸せだったかもしれないと思いながら、

それでも。



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