見出し画像

【院試】文系学部卒・外部受験で阪大と京大とNAISTの情報系大学院に合格した

関西の公立大学の経済経営系の分野を卒業後、

  • 奈良先端科学技術大学院 先端科学技術研究科 情報科学領域

  • 大阪大学大学院 情報科学研究科 マルチメディア工学専攻

  • 京都大学大学院 情報学研究科 通信情報システムコース

の3つの修士課程入試を受験し、全て第一希望の研究室に合格した。奈良先端大(NAIST)は優秀な成績で合格したとのことで寮の優先入居の申請権を頂いた。阪大は成績を開示した所、合格者33人の中で5位だった。京大は成績開示を忘れたが、多分あまり良くない。

他大学からの外部受験、大学院進学での理転ということもあって、院試についての情報が少なく、周囲に院進学する友人知人もおらず、ネット上の院試体験記の情報に助けられたり、勇気づけられたりしたので、私もこれを記そうと思う。主に自分と近い状況の人を想定読者として書いているが、そんな人が居るか分からないので、大学院に進みたい人の何かの役に立てば幸いだ。


筆者のプロフィール

略歴

2015年3月に関西の公立高校を卒業し、2016年4月に関西の公立大学の経済経営系の分野に入学。2023年3月に大学を卒業し、既卒1年目2023年に大学院の修士課程入試を受験した。

2022年は院試こそ受験していないが、夏頃から線形代数などの勉強を始め、12月頃から本格的に院試対策の勉強を始めていた。

話が逸れてしまうが、1年前に同じ歳の時に経済学部からの大学院進学で理転された上、(研究科は違うものの)同じく大阪大学の大学院に合格されたという、まず一致しそうにない部分で驚くほど共通点を持つ先駆者様がいらっしゃるのでここで紹介させて頂く。

院試勉強を始める前の水準

次に、院試勉強を始める前の、私自身の各分野に対する知識の程度などについて書いておく。後述する勉強開始時期と合わせて、必要な勉強時間を見積もる参考になれば幸いだ。

数学は高校の範囲までは一通り理解していたつもりだが、大学数学の知識は殆ど無く、学部の授業で僅かに線形代数(二次正方行列の行列式とか)を習った程度だった。実は高校の数学A・数学Ⅱ・数学B・数学Ⅲも独学なのだが、院試勉強を始めるより何年も前のことであり、高校の範囲は受験業界の人が話した方が相応しいと思うので、ここでは書かない。

英語は院試を意識する前にTOEICで965点を取得していた。これで出願したので、院試に向けた英語の勉強は全くしていない。院試勉強を始める前の話になるが、TOEIC対策については少し言及することにする。

情報系の素養は一応全くの0ではなかった。JavaScript等でプログラミングの経験はあり、試験は受けていないが基本情報技術者のテキストを一通り読んだことがあり、大学では情報系の講義を8単位ほど修得していた。

大学では落とした単位が多く、GPAは1.6だった。要領が悪く、取得した単位だけでGPAを出すと3.0ぐらいあった気がする。卒業前2年のGPAはそのぐらいあったかも知れない。

勉強した内容と期間

京都大の通信情報コースの出題範囲が広く、最悪の場合に備える為には14科目を勉強する必要があったので、基本的にこれを網羅するように勉強した。広い範囲を勉強しておくことで他の大学院を志望する場合にも対応できると思ったし、院試で活用することは無くても研究などで今後役に立つと思った。この考えは良かったと思う。

以下、時系列で勉強した分野と使った教科書などを紹介する。読む方の参考になるよう、当該分野を学習するのに習得しておくべき分野があれば言及する。いつ何を勉強したという記録を殆ど残していなかったので、不確かな記憶およびamazonと楽天の注文履歴を頼りに書いている。

TOEIC

大学入学直後は570点で、(本の注文履歴から考えると)2021年3月頃からTOEICを意識した対策を始め、2022年に2回TOEICを受け、4月に965点(L 475 R 490)を取得した。対策はリスニングを重点的に行いつつ、徐々に語彙とリーディング対策に移っていった。普段から英語の文章を読む機会が多かったので、リーディングは文法問題など少しの対策で400後半が取れるようになった。リスニングでは公式問題集のシャドーイングが最も効果的だった。2月頃に公式問題集を解いた時の点数予想範囲はリスニング300後半、リーディング400後半だったが、公式問題集のシャドーイングを繰り返したことでリスニングを100点近く伸ばすことができた。

線形代数

2022年6月にマセマのキャンパス・ゼミと演習を注文している。それぞれ演習問題を3周くらいした。あまり定着が良くなく、後から考えると、演習の方に手を付ける前にキャンパス・ゼミの方の演習問題を3周した方が良かったと思った。

数学の勉強は大抵マセマを用いており、改訂が多くて自分が用いた版を確認するのが面倒なので、以降マセマの本を用いた場合に書名などの詳細は省略する。ここに公式サイトのリンクを貼っておくので許して欲しい。キャンパス・ゼミの方が参考書で、演習の方が問題集である。

キャンパス・ゼミ
https://books.mathema.jp/categories/20?book_type=BOOK

演習
https://books.mathema.jp/categories/21?book_type=BOOK

微分積分

2022年6月にマセマのキャンパス・ゼミと演習を注文している。確か線形代数のキャンパス・ゼミを一通り読んでから7月以降に勉強を始めたと思う。こちらもそれぞれ演習問題を3周くらいした。

重積分のヤコビアンでは線形代数の知識が少し必要になる。また、理工系1~2年次相当(?)の微積分は、他の本では、解析学入門という名前の時もある。

複素関数

2022年12月に勉強を始めた。使った本はマセマのキャンパス・ゼミ。演習の方は買ったが殆ど手を付けなかった。院試では留数定理を用いる問題が頻出する気がする。

この分野を学習する前に微分積分の知識が必要。

フーリエ解析

2023年1月に勉強していたと思う。使った本はマセマのキャンパス・ゼミ。
計算に慣れなくてミスが多く、色んな関数をフーリエ変換したパターンを勉強しておいた方が良いと思い、演習の方にも多少手を付けた。

フーリエ解析を勉強するには微分積分と複素関数の知識があった方が良い。微分方程式とも関連するが、主な部分はフーリエ解析を先に勉強しても問題無いと思う。

常微分方程式

2023年1月に勉強を始めた。使った本はマセマのキャンパス・ゼミ。院試だと、受けていない所の試験も含め、非同次2階微分方程式の出題が多そうな感じだったので、終盤の方はあまりやらなかった。演習の方は結局殆ど手を付けなかった。

線形代数・微分積分・複素関数を勉強してから手を付けるべき。特に微分積分は必要。

統計学

いつ勉強したかは忘れたが、マセマのキャンパス・ゼミに少し手を付けた。院試の過去問を解くのに必要な場合に都度参照していた気がする。

一部でマクローリン展開などの知識が必要なので、微分積分を先に学習した方が良い。

私が受験した大学院だとそのまま試験科目にはなっていないが、京大の通信情報の院試で確率過程に関する問題が出題される。他のコースだと統計学が試験科目になっている所もあった。

情報理論

2023年の1月ぐらいから勉強を始めたと思う。使ったテキストは下記2冊。

今井秀樹. 情報理論. オーム社, 2019.
https://www.ohmsha.co.jp/book/9784274223259/
稲井寛. はじめての情報理論(第2版). 森北出版, 2020.
https://www.morikita.co.jp/books/mid/084912

最初は教科書としてよく採用されているらしい今井本の方を読んだが、あまり身に付かなかったので、『はじめての情報理論』を中心に勉強した。『はじめての情報理論』は要点を絞っている上に説明が詳しくて式変形を省略しないので良書だった。『はじめての情報理論』は内容を一通り理解した後、演習問題を何周かした。通信路符号化は導出なども重要だと思ったので、演習だけではなく例題も何周かした。

オートマトン

2023年の1月ぐらいから勉強を始めた。使ったのは以下の3冊。

岡留剛. 例解図説 オートマトンと形式言語入門. 森北出版, 2015.
https://www.morikita.co.jp/books/mid/085271
ジョン・E.ホップクロフトほか. オートマトン 言語理論 計算論1. サイエンス社, 2003.
https://www.saiensu.co.jp/search/?isbn=978-4-7819-1026-0&y=2003
ジョン・E.ホップクロフトほか. オートマトン 言語理論 計算論2. サイエンス社, 2003.
https://www.saiensu.co.jp/search/?isbn=978-4-7819-1027-7&y=2003

主に用いたのは『例解図説 オートマトンと形式言語入門』だった。説明がそこそこ分かりやすく、前半は練習問題も多くて良かったと思う。証明も結構詳しい。ただし、計算理論の説明は乏しい。

『オートマトン 言語理論 計算論』は、阪大の教科書として採用されているという話を教えて頂いて購入に至った。1冊目はオートマトンと文法など、2冊目は計算論の話が中心となっている。私の場合、2冊目の方はあまり手を付けている時間が無かった。翻訳本で文体に少し癖があるが、まだ読みやすい方だと思う。2冊目の計算複雑性理論の話は詳しくて良いのだが、院試対策として見ると過剰。

阪大の院試だと『オートマトン 言語理論 計算論』の1冊目の内容だけで対策できるが、京大の院試は計算量クラスの定義などについても出題されるので、2冊目の内容にも触れた方が良さそうだった。ただし、京大の院試は正規文法についても出題があるが、『オートマトン 言語理論 計算論』は正規文法と言う考え方を採用していない。正規文法については『例解図説 オートマトンと形式言語入門』の方に載っている。

論理回路

2023年の2月ぐらいに勉強を始めた気がする。使った本は以下の1冊。

高木直史. NewText電子情報系シリーズ 論理回路. オーム社, 2014.
https://www.ohmsha.co.jp/book/9784274215995/

分野の事情は分からないが、恐らく正統な教科書でかなり詳しい。通信情報コースの研究室の先生が執筆された本なのだが、院試の範囲はこの本の内容より狭く、ちょっとテクニカルな問題もあり、少し傾向が異なった。

グラフ理論

2023年の2月か3月あたりに勉強を始めたような気がする。

宮崎修一. グラフ理論入門 基本とアルゴリズム. 森北出版, 2016.
https://www.morikita.co.jp/books/mid/085281

ページ数は少ないが証明は詳しく、ネット上で見つけた講義資料より分かりやすかった。

コンピュータアーキテクチャ

2023年の3月ぐらいから勉強を始めた気がする。コンピュータアーキテクチャは、大学で教えられているらしい内容と、情報処理技術者試験(基本情報や応用情報)の出題範囲で共通部分が多い気がする。勉強に用いた本を4冊順に紹介する。

遠藤 敏夫, 基礎から学ぶコンピュータアーキテクチャ. 森北出版, 2008.
https://www.morikita.co.jp/books/mid/300991

全体的に分かりやすく、論理回路、アセンブリ言語などの関連分野についてもコンパクトにまとまっていて良かった。

電子情報通信学会, 坂井 修一. 電子情報通信レクチャーシリーズ C-9 コンピュータアーキテクチャ. コロナ社, 2004.
https://www.coronasha.co.jp/np/isbn/9784339018431/

この本は院試に頻出のパイプラインハザードの説明が詳しくて分かりやすかった。

David Patterson, John Hennessy et al. コンピュータの構成と設計 MIPS Editoin 第6版 上. 日経BP, 2021.
https://bookplus.nikkei.com/atcl/catalog/21/S70090/
David Patterson, John Hennessy et al. コンピュータの構成と設計 MIPS Editoin 第6版 下. 日経BP, 2021.
https://bookplus.nikkei.com/atcl/catalog/21/S70100/

これらはパタヘネ本と言われるらしい。よく教科書として採用されているらしい。翻訳本でやや読みにくい印象も受けたが、キャッシュメモリ関連の説明が詳しく、技術の背景や目的のような部分にも言及されていて良かった。

情報系の分野に興味はあるけど知識が無いという場合、他の科目より先にコンピュータアーキテクチャを勉強すると良いかも知れない。特に易しめの教科書を読むと比較的全体像が見えやすいように思う。

オペレーティングシステム

2023年の3月ぐらいから勉強を始めた気がする。2冊紹介する。

松尾 啓志. 情報工学レクチャーシリーズ オペレーティングシステム 第2版. 森北出版, 2018.
https://www.morikita.co.jp/books/mid/081012

こちらの本は大学で取った授業で教科書に指定されていた。やや疑問を感じる部分もあるものの、説明は分かりやすいと思う。

大久保 英嗣. オペレーティングシステムの基礎. サイエンス社, 1997.

こちらの本は、検索してもあまり出て来なかったプロセス間通信について詳しかった。ハードディスクのファイル編成なども詳しい。言葉遣いや出題範囲などを見ていると、阪大と京大の院試はこの本と内容の一致度が高かった。古い為か、この本だけ出版社のページが見当たらない。

情報通信工学

情報通信工学と言うと曖昧さが残る感じがするが、ここでは、フーリエ変換、サンプリング定理、変調方式などの内容を指すものとしよう。ラプラス変換などは含まない。2023年の3月か4月ぐらいから勉強を始めた気がする。

守倉正博ほか. OHM大学テキスト 通信方式. オーム社, 2013.
https://www.ohmsha.co.jp/book/9784274214738/

最初はこれを読んでいたが、式変形の省略が多く、物理や電気の知識があることを前提に書かれている部分があって独学には向かなかった。

相河聡. 情報通信工学. 森北出版, 2022.
https://www.morikita.co.jp/books/mid/304651

こちらは説明が丁寧で分かりやすかったが、巻末の解答など非常に誤りが多かった。正誤表に載っていない誤りも多数存在する。

この分野を学習する前にフーリエ解析、複素関数、微分積分などの数学を一通り勉強しておくと良い。全範囲を使う訳では無いので完璧に仕上げる必要は無く、これら数学の分野を一通り学習したら情報通信工学で実践・定着を促すといった感じで良いと思う。

アルゴリズムとデータ構造

2023年の4月ぐらいから勉強を始めた気がする。利用したテキストは以下。

近藤嘉雪. 定本 Cプログラマのためのアルゴリズムとデータ構造. SBクリエイティブ, 1998.
https://www.sbcr.jp/product/4797304952/

テキストは何でも良いと思うので、実際に自分でコードを書いて理解すること、時間計算量について説明できるようになることが重要だと思う。院試で最もよく出るのは多分ソートアルゴリズムなので、バブルソート、選択ソート、挿入ソート、シェルソート、クイックソート等を何も見ずに書けるようにした。他にはハッシュ法や2分探索などが院試では頻出だと思う。

C言語は殆ど触れたことが無かったが、アルゴリズムの勉強に合わせて4月からC言語の習得も始めた。C言語でアルゴリズムの勉強をしたのは、偶然持っていたこのテキストがC言語のものだったということ、阪大の院試にはC言語で書かれたプログラムを読んで答える問題があったこと、京大でも一部プログラムを書く問題が出題されることがあってC言語が選択可能だったことが理由である。振り返ってみると、C言語はポインタや構造体といった部分を自分で記述しなくてはならない分、概念を勉強するには適していると思う。

信号処理

2023年の7月頃から勉強を始めた。情報通信工学と共通する部分が多いが、変調方式についての内容が無い一方、ラプラス変換が含まれるのが信号処理という科目なんだと思っている。使ったテキストは以下。

神野健哉ほか. 基本からわかる 信号処理講義ノート. オーム社, 2014.
https://www.ohmsha.co.jp/book/9784274215315/

分かりやすく、要点を絞って書かれている一方、証明などが省略されている部分があるので、もう1冊くらい勉強しても良かったかも知れない。

情報通信工学と同様、大学数学の微積分・複素関数・フーリエ解析を勉強してから取り組むべきだと思う。信号処理と情報通信工学はどちらを先に勉強しても良いと思う。

論理学

命題論理、ラムダ計算などの勉強を始めたのは2023年の春頃で、述語論理の勉強を始めたのは2023年の7月だったと思う。特定のテキストは用いず、ネット上に公開されている大学の講義資料などを見て勉強した。他の科目を勉強する過程で身に付けた知識が多かった(例えば、全射と単射は線形代数の勉強中に知ったし、論理回路の本で二項関係を知った)ので、どうやって勉強したという説明があまりできない。集合論については下記テキストの最初の方を一応読んでいた。

内田 伏一. 集合と位相(増補新装版)(数学シリーズ). 裳華房, 2020.
http://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1412-5.htm

定番の教科書で、内容は数学書らしく難しい。情報系の院試対策として考えるなら、もっと易しい集合・位相のテキストの集合の範囲だけをやっておくと良いかも知れない。院試が終わった後に読んだのだが、下記の本は、少し説明不足に感じる所もあったものの、分かりやすくて良かった。

藤岡 敦.手を動かしてまなぶ 集合と位相. 裳華房, 2020.
https://www.shokabo.co.jp/mybooks/ISBN978-4-7853-1587-0.htm

その他

京都大の過去問は各分野の内容を一通り終わらせる毎に取り組んでいた。京都大は院試のパターン性が強かったので早くから過去問に手を付けて良かったと思う。独特な内容も多かったが、主にネット上に公開されている大学の講義資料などを参考に学習した。

2023年5月頃はNAISTの出願時に提出する小論文の執筆に時間をかけていた。研究計画のようなものを書くのは未だに苦手で、何を意識すれば上手く行くのかはよく分からない。

6月は新しく勉強を始めた分野が無くて何をしていたかあまり覚えていないが、京大の過去問を解いたり、出願の準備や研究室訪問をしていたりしたと思う。過去問の解答は貰わなくても院試に合格したが、研究室訪問は院試対策より研究や大学院での生活に関する有意義な情報が沢山得られるので、もっと早めに積極的に行っておくべきだったと思う。

2023年7月頃は大阪大学の過去問と出題範囲の勉強ばかりしていた。阪大の院試が終わるまで京都大の過去問を復習することが無かったので、京大の院試問題はこの間にかなり解き方を忘れてしまっていた。

大学範囲の電磁気・電気回路などは勉強しなかった。高校範囲の物理基礎・物理は一度独学したものの、内容を殆ど忘れてしまっていたのが理由である。しかし、様々な大学の情報系研究科の院試で使えるので、勉強しておいた方が良かったと思う。

受験した大学院

冒頭で述べたように、私は

  • 奈良先端科学技術大学院 先端科学技術研究科 情報科学領域

  • 大阪大学大学院 情報科学研究科 マルチメディア工学専攻

  • 京都大学大学院 情報学研究科 通信情報システムコース

の3つの修士課程の入試を受けた。NAISTは7月、阪大と京大は8月の院試を受験した。ちなみにこれ以外は受験していない。この3校はいずれも研究環境が素晴らしく、地理的にもある程度近いので併願しやすい。

一方で、院試の受験戦略と言う面で考えると注意も必要である。3校とも院試の出題傾向はそれぞれ異なるので、あまり併願には向かないかも知れないと願書を出す1ヶ月前ぐらいに気付いた。院試の勉強をしたり、研究テーマについて調べたりする中で興味のある分野が少し変わることもあり、受験戦略は無計画だった。

ここからは、受験した大学院の入試の方式や、当日の試験の様子などについて、NAIST→阪大→京大の順に述べる。時系列としては、NAIST受験→NAIST合格発表→阪大受験→京大受験→阪大合格発表→京大合格発表→阪大成績開示→NAIST成績開示という順であった。

奈良先端科学技術大学院大学(NAIST) 情報科学領域

入試の配点は、面接・小論文が90点、学部成績が50点、数学(口頭試問)が30点、英語(TOEIC等を提出)が30点。書類や面接の配点が高く、後述する大阪大学・京都大学とは院試の傾向が対照的だった。

入試に関するQ&Aのページに、2022年度入試日本語受験の合格者のTOEIC平均が718点ほどだと載っている(2024年4月4日確認)。
http://isw3.naist.jp/Admission/nyushiQ_A-ja.html

不確かな情報だが、学部成績はGPAだけを見ているのではなく、教養科目など一部科目を除外して取得単位の成績を見ているらしいみたいな話をどこかで聞いた。後述するが、私の結果から恐らく正しい。

英語のスコア・成績証明書・小論文は事前に提出するので、当日の試験は、数学の口頭試問および面接だけである。2023年7月入試はオンラインのみでの実施だった。面接よりもかなり前の日にWebexの接続確認が行われる。また、当日は数学の口述の前に第一志望であるかを尋ねられるが、これは第一志望ではないと答えても合格する。口頭試問では、部屋の周りを映しても大丈夫なように片付けていたのだが、周りを映すように指示されることは無かった。目線を見ていれば周りを見ていないことは分かるのかも知れない。

数学(口述)

指定されている教科書の英語のタイトルで検索してみると本文のpdfが発見できた。海外の著作権関連法制が分からないのだが、大学のドメインだったので、違法にアップロードされている訳では無さそうだと思って目を通した。図書館で日本語版と比較してみると、章末問題はどちらも一致していた。

しかし、NAISTで試験当日私が解いた問題も、過去に出題されたとネットに載っている問題も、あまりその本に準拠している訳ではなさそうだった。指定されている教科書以外で勉強しても良いと思う。

NAISTの数学の出題範囲は、マセマの本と比べてみると、線形代数はエルミート行列を除外したぐらいの範囲で、微分積分はε-N論法・ε-δ論法・二変数関数の微分(偏微分、全微分)を除外したぐらいの範囲になる。微分積分はマセマの本と一致度が低く、高校の数学Ⅲ相当の内容が半分くらい出題範囲に含まれている。

当日の試験の感触は良かった。1問目(線形代数)は見たことのある問題だったので特に詰まることなく説明でき、2問目(微分積分)は極限値を求める問題で、少し悩んだものの、面接官と一度会話した後に正答できた。まだ時間が数分残っていたので2問目の別解について問われたが、思い付かなかったので別の極限値を求める問題の話になり、その証明を示した。終わり際に「非常に分かりやすい説明ありがとうございました」と仰って頂けたことが印象に残っている。

面接・小論文

最初に取り組みたい研究テーマに対するプレゼンテーションを求められた後、提案手法に対する質問が続いた。提案手法の既存手法に対する優位性や新規性など、5,6個の質問をされたが、まともに答えられたのは内2つぐらいだけだった。面接の配点が大きいので落ちたと思った。

その後、修士課程修了後のキャリアプラン、研究以外で自己PRできる点、留学に対する興味などを聞かれた。別分野出身で入学後に研究したいテーマと卒業研究に対する関連がほぼ無かったためか、小論文の1枚目を卒業研究の内容で埋めたにも拘らず、卒業研究に対する質問は一切なかった。

面接官は3人で、中央に第一希望の研究室の教授、両隣の2人は他研究室の先生だったと思う。中央の教授が全体の進行を務めており、研究したいテーマに関する質問の他、入学後の生活に関する質問などをして来ることが多かった。他研究室の先生2人からは研究に関する質問が多かった。とても優しげな口調で、答えにくい鋭いことを聞いて来るので恐ろしかった。研究領域はこのお二人の方が近かったのかも知れない。

結果

優秀な成績で合格したと通知され、寮の優先入居の申請権を得ることができ、3月に開示された入試成績は200点満点の177点(合格最低点は144点)と、面接の感触に反して高得点だった。配属研究室の通知は後になることがあると要項か何かにあったような気がしたが、合格通知メールとほぼ同時に配属研究室の通知メールも頂いた。

面接形式は苦手でどういう基準で評価されているのか分からないが、大学院入学の段階で完璧な答えが求められている訳ではないのは確からしい。また、卒業研究の内容について問われなかったが、大きく減点されるような構成ではなかったようだ。

もし学部成績による得点がGPA/4.0×50点だとしたらそれだけで30点失点するはずなので、それ以外の方法で得点が決定されていると思われる。

大阪大学 情報科学研究科 マルチメディア工学専攻

情報科学研究科は7つの専攻に分かれているが、

  • コンピュータサイエンス専攻

  • 情報システム工学専攻

  • 情報ネットワーク学専攻

  • マルチメディア工学専攻

  • バイオ情報工学専攻(2つの研究室を除く)

の5つの専攻は試験問題と形式が共通。1日目は3時間の筆記試験、2日目は面接。

この5つの専攻の中では専攻を跨いで複数の研究室を併願できる。ただし、専攻希望順→専攻内での研究室希望順という枠組みでしか希望を書けない。マルチメディア工学専攻は最も倍率が高く、定員26人に対して、第一希望として出願した人は、受験番号の個数からすると91人だった。

試験の配点は非公表だが、面接はボーダーライン上の学生の合否判定に用いているだけで殆ど筆記試験で合否が決まるらしいとか、英語の配点は全体の2割程度らしいとかいう噂を内部生から教えて頂いた。また、私が志望していた研究室について、筆記で7割取れれば合格可能性があり、8割取れれば安定して合格するという噂も教えて頂いた。独立研究科の為か、内部進学含め推薦枠が殆ど無いようで、外部受験でも公平なチャンスがあるのは嬉しい。

筆記試験

  • アルゴリズムとプログラミング

  • 計算機システムとシステムプログラム

の2問が必答問題であり、

  • 離散構造

  • 計算理論

  • ネットワーク

  • 電子回路と論理設計

  • 数学解析と信号処理

の5問から2問を選んで、合計4問を3時間で解答するようになっている。

「アルゴリズムとプログラミング」はC言語で記述されたプログラムを読んで、処理の内容を答えたり、穴埋めをしたり、計算量を求めたりする問題である。

「計算機システムとシステムプログラム」はメモリ管理やCPU、ファイル編成など、コンピュータアーキテクチャやオペレーティングシステムに関する内容が出題される。

「離散構造」は命題論理、述語論理、グラフ理論などの離散数学が出題される。「計算理論」は有限オートマトンと文脈自由文法に関する問題が約半分ずつ出題されることが多かったように思う。「数学解析と信号処理」ではフーリエ変換、ラプラス変換、複素関数などが出題される。残りの2問は対策していないので知らない。

京都大と比べると、暗記要素は少なく、定義などは与えられていることが多く、問題は難しくない一方で、試験問題のパターン性が弱く、思考力が求められ、点数が安定しにくそうな印象だった。

当日の試験では全力を出したつもりだったが、出来に自信は無かった。プログラミングの後半の問題が分からない一方、残りの3問は一応全て解答できた。選択問題では「離散構造」「計算理論」「数学解析と信号処理」の3問を対策していたが、当日の数学解析では直近で出題されていなかった複素関数が出題されて答えられそうになかったので、「離散構造」「計算理論」を選択した。

面接

面接は試験の出来や志望動機などについて軽く話すだけだった。面接開始後、最初に英語と筆記試験の出来について先生方から肯定的なコメントを頂いた。最初は試験の感触について尋ねられるという噂だったが、若干違った。その後、プログラミング経験、志望理由、第一志望であるかなどの質問をされた。できるだけ自分が取り組んだことなどに繋げるように回答したが、こちらの回答や研究希望内容に対する掘り下げは無く終了した。

面接会場では、受験者が座る椅子の前の机に問題冊子が置かれていた。合否ラインギリギリだと間違えた部分の解き直しがあるらしいという噂を聞く。私の場合は無かった。

また、面接会場はほぼ全員がスーツだった。1日目の筆記試験は私服の人の方が多かったと思う。

結果

マルチメディア工学専攻への合格が通知されるが、この通知に配属研究室の記載は無い。しかし、専攻内では希望の研究室を1個しか書いておらず、専攻内で他の研究室への配属を希望しないと書いていたので合格した研究室は明らかだった。その後、希望していた研究室の先生とお話したいことがあったので連絡し、確かに当該研究室に合格していることも教えて頂いた。

成績を開示した所、798/950点(得点率84%)で専攻内順位は33人中5位だった。配点は不明だが、英語と筆記試験だけが得点化されており、英語の配点が2割でこれが満点という仮定をおけば、筆記の得点率はジャスト8割になる。

私が受けたマルチメディア工学専攻は、第一希望で出願した人が91人だったはずだが、受験65人はあまりにも少ない気がする。「※合格者は合格専攻」とあるが、第二希望以下の専攻に合格したらその専攻の受験者に含まれるのだろうか?

京都大学 情報学研究科 通信情報システムコース

京都大学大学院の情報学研究科は、知能情報学、社会情報学、先端数理科学、数理工学、システム科学、通信情報システム、データ科学の7つのコースに分かれている。それぞれ試験の形式が異なり、コースを跨いで併願はできない。コース内で希望できる研究室の数はコースによる。

通信情報システムコースでは面接が無く、配点は筆記試験80%、英語(TOEIC等を活用)20%で、志望理由書や学部成績も提出するが点数化されない。このコースでは全ての研究室を希望に書くことができた。私は全然興味が無かった研究室数個を除いて第10希望ぐらいまで書いた。

京大情報学研究科は、全体的に大阪大学以上に筆記試験重視の傾向が顕著に出ている。通信情報システムコース以外でも面接無し、あるいはボーダーライン上の受験生のみ面接というコースが多い。また、出願受付中の時期、よくある質問への回答として、修士課程の出願において教員に連絡を取る必要は無いと記載されていたような気がする。加えて、推薦進学の枠も少ない。

京大の情報学研究科は、私が受験した年度から定員を大幅に増やした(161?→210?)にも拘わらず、殆どのコースで倍率があまり変わらず、元から人気だった知能情報は倍率が急上昇して定員33人に157人が出願していた。通信情報コースの倍率は1.5~1.6程度で7つのコースの中では低めだが、定員も増えて試験形式も変更されたので倍率が下がると思ってたのに、例年通りで予想が外れた。

筆記試験

専門基礎Aの試験時間は3時間で、

  • 「数学(微分積分、線形代数)」

  • 「論理回路」

  • 「情報理論」

  • 「コンピューターアキテクチャ」

の4科目が必答。当日は「コンピュータアーキテクチャ」の出題形式が変わった以外は概ね例年通りだった。

専門基礎Bは以下13科目が範囲で、この中から当日ランダムに6科目が出題されるので、3科目を選択して解答する。全てのパターンに対応するには合計14科目を勉強する必要があり、試験範囲がとても広い。

  • 「数学(複素関数論、フーリエ解析、微分方程式)」

  • 「電磁気学(静電磁気)」

  • 「電気電子回路」

  • 「データ構造とアルゴリズム」

  • 「プログラミング言語」

  • 「グラフ理論」

  • 「情報通信工学(情報伝送、通信ネットワーク)」

  • 「通信基礎論」

  • 「電波工学(電磁波、アンテナ、伝搬)」

  • 「計算機システム」

  • 「オートマトンとアルゴリズム論」

  • 「プログラミング言語処理系とOS」

  • 「計算と論理」

当日は「数学(複素関数論、フーリエ解析、微分方程式)」「計算機システム」「オートマトンとアルゴリズム論」「情報通信工学(情報伝送、通信ネットワーク)」「電気電子回路」「プログラミング言語処理系とOS」が出題されたと思う。似た名前と出題内容の問題があるので、今見るとこれで合ってるか自信が無い。通信情報コースは、情報学科の出身者だけでなく、情報寄りの電気系の出身者も居るようだったので、ランダム出題と言ってもどちらの出身でも解けるような組み合わせで出題されるようだ。私が選択したのは「数学(複素関数論、フーリエ解析、微分方程式)」「計算機システム」「オートマトンとアルゴリズム論」だったはず。計算機システムでは最近見かけなかったアセンブリ言語が出題されてちょっと驚いたが、アセンブリ言語は趣味で読む機会があったので選択した記憶がある。

試験はパターン性が強く、毎年似た問題が出題される科目が多いが、難しい科目もある。プログラミング系の科目などは、パターン性が弱かったり、勉強する為の資料が少なかったりして難しく思えた。しかし、今回の専門基礎Bでは前年度に比べ1科目にかけられる時間が45分→1時間に延びた為か、すべての科目で問題の難易度が高く設定されていた。

結果

第一希望の研究室から合格を頂いたものの、成績開示は機会を逃したので不明。成績開示申請の期間が、阪大は9月から、NAISTなんて3月からだったのに対し、京大は8月までだったので忘れていた。分からない問題も多かったので多分成績はあまり良くない。

その他

電気系の科目については、同じ年度に外部受験で通信情報コースに合格された方が書かれている。

noteで確認出来る限り2023年度実施の京大通信情報の院試の合格者TOEIC平均は940点ということになる(N=2)。

おわりに

ちゃんと大学院生になってからnoteを書いて公開しようと思っていたのだが、院試のことは合格した後早めに書いた方が良いことに気付いた。学習したはずの内容を含めて記憶が不確かになる上、4月に院試の体験談を公開するのは時期的にもあまり良くない気がする。

院試は少し無茶をしたような気がするが、公表された配点に基づいて点数が取れれば大学院に合格できることが分かった。大学院進学に興味のある人は、学部と異なる分野でも諦めずにチャレンジする価値があると思う。

#受験体験記 #院試 #外部院試 #理転 #大阪大学 #京都大学 #NAIST

この記事が参加している募集

受験体験記

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?