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【院試首席?!】 京都大学 情報学研究科 数理工学コース 合格体験記 (2025年度 4月期入学)

先日、令和6 (2024)年8月6日、7日に実施された、京大情報学研究科数理工学コースの院試(令和7 (2025)年度4月期入学修士課程)を受け、無事合格したので、その体験記を投稿します。当日どういう流れで試験が行われたか、どう院試対策したか、実際本番で何点だったか、などなど参考にしてくだされば幸いです。

[2024.09.01 追記]
院試の成績開示の結果、なんと得点率約95%でした!!席次はわかりませんが、首席の可能性大です。


自己紹介

経済・経営系専攻の4年生。数学への興味が元々強く、数学の講義は多めに受講してきた。プログラミングや数理に興味を持ち、情報系の大学院に進学を決意。
TOEIC:940点
併願校:大阪大学大学院 情報科学研究科 情報数理学専攻 (Information and Physical Sciences, the Graduate School of Information Science and Technology of Osaka University)
※ ちなみに、併願して受験した大阪大学の方も無事合格できて、なんと首席だった。

外部から、それも文系学部から、情報系大学院への進学は珍しいかと思っていたが、同じ境遇の方のnote記事もいくつかあったので、参考までに掲載しておく。

受験した研究科の基本情報

<正式名称>
京都大学 大学院情報学研究科 数理工学コース (Applied Mathematics and Physics Course, Graduate School of Informatics, Kyoto University)

<定員・倍率>
2025年度4月期修士課程の出願者数は72名、定員は25名、倍率は約2.9倍。

<受験科目>
基礎科目が「微積分」および「線形代数」でどちらも必ず解答する。各100点で計200点満点。試験時間は2時間。
専門科目が「複素関数/フーリエ解析」、「グラフ理論」、「凸最適化」、「制御理論」、「統計力学」、「常微分方程式」の6科目から2題選択。各100点で計200点満点。試験時間は2時間。
英語は、外部試験(TOEIC, TOEFLなど)の点数を100点に換算する。
これら合計500点満点からなる。なお口頭試問は点数には含まれない。

ちなみに、入試説明会では、「微積分と線形代数がとても基本的な問題が出題されるので、基本的に皆が満点近くとってきます」といった旨のことを言っていた。なお本番(後述)

いざ当日

筆記試験当日の朝、受験会場が開くのが開始約20分前で、それまでは会場の入り口前で人が多くたむろしていた。蒸し暑い上に立ちっぱなしは辛いので、私は近くのカフェで時間を潰して待っていた。
問題冊子はA4で持ち帰ることができる。解答用紙はA3もしくはB4で、大門1つにつき紙一枚(表裏)を使える。解答用紙と同じサイズの計算用紙も1枚配布され、試験終了時回収される。解答用紙とは別々に回収していたので、下書きが採点時にみられるなどはないと考えられる。回収する目的は不明。各科目について、私の所感は次のとおり。

基礎科目

過去問題及びサンプル問題では、極めて易しかった基礎科目(微積分・線形代数)が難化した。というか、趣向が変わった。計算が全体的に少しずつ重くなったことに加え、微積分・線形代数それぞれで1門ずつ論証問題が出題された。特に微積分の(i)は難しく、出鼻を挫かれた受験生も多かったと思われる。私は即後回しにして、他の問題を全て解いたのち戻ってきた。終了10分前にこれがなんとか解けた?後、少し計算の見直しをして試験終了。計算ミスと微積分(i)の論証の穴が怖かった。個人的には例年、微積分よりも線形代数の方が計算量・難易度ともに低い傾向にあるので、先に線形代数を終わらせ、微積分に長めに時間を取ると良いと思う。家に帰って見直しをしていたら、行列式の符号が±反転していた。また、微積の(i)の議論の途中でわずかなミスも見つかった。

専門科目

「凸最適化」は必ず解き、本番の問題を見て「グラフ理論」か「常微分方程式」か「複素関数/フーリエ解析」かのどれを解くかを決めることにしていた。結果、過去問通りであったグラフ理論を選択した。

凸最適化について、難易度は標準的だと感じた。(i)は凸最適化サンプル問題Bの(ii)と同じく、複数の変数をまとめて一つの変数と見てfの凸性を考える問題。(iii), (iv)は典型のKKT条件。(ii)のgの凸性を示す問題がおそらく最難関だが、2019年OR(ii)(B)と同じく、凸性を用いて不等式評価すれば、なんとか解くことができた。
※ OR:オペレーションズ・リサーチのこと。

グラフ理論については、一般的にはやや難だと思うが、2014年度の「アルゴリズム基礎」とほとんど同じ問題だったので、解くことができた。(アルゴリズム基礎については筆記試験の対策・勉強法の項で述べる。)


ちなみに、常微分方程式はパッと見難しそうだったので手を出さなかったのだが、試験終了間際15分ごろに常微分方程式の問題文に割と重要そうな訂正が入った。結果論だが、やはり解かなくて大正解だった。重要な訂正が終了間際になされたとしても、何も救済措置がないのはひどいと思うので、もし不運にも被害に遭われた方がいれば、抗議してみるべきだと思う。

口頭試問

大抵の人は1-3分だった。受験者数72名に対し、合計で2時間しか口頭試問の時間が用意されていないので妥当と言える。流れ作業のように入室し、口頭試問を受けた。部屋に入ると、教授陣が8-10名ほどずらりと座っていた。口頭試問で聞かれたことのうち、予め決められていた質問と、(おそらく受験者の志望・得点などに応じて)各講座の先生がその場で行う自由な質問とに分かれているように感じた。また、各先生は表のようなものを持っており、それをチラチラみながら質問をしていた。私はそれを、配属希望や筆記試験の得点が書かれた表だろうと推察している。

私が実際に聞かれたこと:

  • 志望動機

  • 他の受験先、その志望順位。(どう答えようが、合否には影響しないと念を押された。)

  • 経済・経営系専攻ながら、各入試科目をどのように学習したか。独学かどうか。

  • いつから院試勉強を始めたか。

  • 博士課程進学の意思はあるか。

得点開示の結果

(再掲)
英語:99/100 (TOEIC 940点を計算式通り換算)
専門科目:185/200 (凸最適化、グラフ理論)
基礎科目:190/200 (微積分、線形代数)
合計:474/500 (94.8%)

試験直後の出来通り、ほとんど全問解けていたようで、嬉しい。基礎科目の10点は線形代数の行列式のミスと微積分の議論の不備かなと思っている。

筆記試験の対策・勉強法

3-5月

3月にTOEICの勉強を始め、4月下旬に1度だけ受験した。abceedという高額なサブスクを、2ヶ月だけ申し込んで短期集中で勉強した。一応、公式TOEIC® Listening & Reading 問題集 10も購入したが、abceedに単語帳も演習問題も含まれていたので、あまり使わなかった。なお、僕はもともと英語が得意で、3月初めのノー勉の段階でおよそ900点ほどあったので、1ヶ月ちょっとで40点伸ばしただけであることに注意してほしい。英語の基礎力があっても、TOEIC独特の語彙(ビジネス英語)があるので、そこを重点的に勉強した。TOEIC L&R TEST 出る単特急金のフレーズがいいと聞いたので、その音源をひたすら聞いて復唱しつつ、時々単語のテストをして覚えた。大学受験で英語が得意だった方は、readingの方は、ほとんど共通テストのような問題なので、そこまで苦労しないと思う。(ネットでは分量が多すぎて難しいと言われている。)一方、僕はlisteningが苦手だったので、単語とリスニングに注力した。結果940点も取れたので、満足している。

TOEICの勉強と並行して、最適化理論やグラフ理論、微分方程式論の復習に時間を充てた。また微積分・線形代数は演習書を買って、例題を解いた。復習には主に講義資料を用いつつ、適宜教科書を参照するなどした。使った参考書は、次のとおり。

  • 微積分・線形代数:

    • 海老原 円、太田 雅人「詳解と演習 大学院入試問題〈数学〉」(解説が丁寧で、問題の難易度と量もちょうど良く、とても良い練習になったのでお勧めする。大学でもよく使っている人を見たので、人気なのだと思う。他にも黄色い院試数学演習書はあるが、そっちは量が多すぎたのでこっちにした。微積分は一様連続や積分と極限の交換など、本研究科院試では求められないような内容も含んでいるので注意。演習問題Bは不要と判断して解かなかったが、今年の傾向を見るに解いても良いかもしれない。)

  • 微分方程式:

    • 笠原 晧司「微分方程式の基礎」(主に数学科が使うような教科書で、前半の初等解法+基礎定理だけ読んだ。今思えば、これより理工系向けのわかりやすい本があると思う。)

  • 凸最適化、グラフ理論:

    • 福島 雅夫「新版 数理計画入門」(広い分野をサラッと解説した本で、それぞれの科目の対策にはあんまり向かない本だったと感じる。凸最適化の対策には、矢部 博「工学基礎 最適化とその応用」が良いと今なら思う。)

また、早い時期にサンプル問題を各科目1つずつ解き、傾向とこれからの勉強の方向性を掴んだ。

4月には新学期がスタートし、興味のある講義とゼミで何だかんだ10コマほど埋まってしまい、院試勉強のペースが落ちてしまった。皆さんも注意してほしい。

6-8月

6月初めから、過去問をひたすら解いた。サンプル問題及び過去問は、公式webサイトに加え、open_inshiリポジトリやwebアーカイブなどから入手した。解いた過去問の範囲は次のとおり。各科目20年分近くやった。最後の1, 2週間は過去問を使い果たしてしまい、軽く2周目をしておいた。

  • 線形代数、微積分、凸最適化、常微分方程式:サンプル問題、2023年度

  • OR、線形計画、力学系数学:2007-2022年度の過去問全て。

  • グラフ理論:サンプル問題、2007-2023年度の過去問全て。

  • アルゴリズム基礎:2019、2017、2018、2014年度(BFSとDFSに関わるもののみ)

「アルゴリズム基礎」とは?
2021年度以前に存在した科目。出題範囲は、ソートアルゴリズムやデータ構造に加え、稀にグラフ探索(幅優先探索、深さ優先探索)について。
しかし2022年度から入試制度が変わり、アルゴリズム基礎という科目はなくなってしまった。しかし実際には、アルゴリズム基礎のグラフ探索の内容と、元々存在した「グラフ理論」の内容(最小木、最短路、最大流 etc.)とが実質的に統合して、新たに「グラフ理論」という1科目になったと私は睨んでいる。そのため過去問演習では、グラフ理論のみならず、アルゴリズム基礎の科目も演習しておいたのだが、今年はそれがまさしく活きて、無事本番で解答することができた。

「OR」、「線形計画」とは?
2021年度以前に存在した、凸最適化の前身となる科目。

「力学系数学」とは?
2021年度以前に存在した、常微分方程式の前身となる科目。若干、力学系特有の内容が含まれているが、出題範囲はほとんど同じ。

最後に

私は非情報系出身ながら、独学で京大情報の院試勉強をして、(おそらく首席で)合格することができた。ただでさえ、内部生同士では過去問とその解答が出回っていたり、ノウハウが先輩から後輩に伝えられたりしている。一方、私は孤独な上に、圧倒的に情報不足で苦しかった。そのため、研究室訪問を何度かして、コツコツ情報を集めたり、徹底的に過去問の傾向と対策を分析したりしてきた。また、出題者の意図や、選考における各科目の位置付けもメタ的に考えて、勉強してきた。その結果、過去問題には、(おそらくまだ内部生もあまり気づけていないような)確かなパターンがあることに気づくことができ、本番でも結果を残すことができた。

せっかくなので、各年度の過去問とその解答、そして「なぜそのように解答できるか」というポイントまで含めた解説記事を随時まとめて発信していくつもりだ。情報不足で悩んでいる外部生の方も、意欲的な内部生の方もぜひ利用していただけると嬉しい。

ちなみに、私が受けた今年分の解答や、サンプル問題の解答についてはいくつかすでに作成済みなので、ぜひチェックしてみてほしい。また何かあれば、Twitter(https://x.com/waniwanigator)などでも気軽にDMで相談してくれたらと思う。

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