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素材開発ベンチャーを考える③〜TBMの取り組み編〜

前記事の素材開発ベンチャーを考える①~成長の要諦~にて、素材開発ベンチャーの成長には以下を押さえているとの仮説を立てました。本日はLIMEXで有名なTBMを事例に仮説検証していきます。
Spiber編はこちら

素材開発ベンチャー成長の要諦
要諦①:量産化までの資金は、エクイティでかつ国や、業務提携先となる事業会社のマネーで調達
要諦②:早期の社会実装のため、一部技術をオープン化し窓口を広げる
要諦③:一定ボリュームの出るキラー製品を見つける
要諦④:初期段階で大量の特許数を獲得している

※リサーチは誰でも無料で見られるIRやネット記事のみから実施。あくまで公開情報からの個人的考察ということでご了承ください。

TBMの概要

「LIMEX(ライメックス)」という紙・プラスチックの代替となる世界初の新素材を開発・製造・販売するスタートアップです。新素材ライメックスは、石灰石が主な原料だそうで、LIMEXは、石灰のLIMEと無限を意味するEXから名付けられたそうです。

おおまかなイベントと資金調達の経緯を以下に簡単にまとめました。

TBMは社長の山崎さんが2008年に台湾からストーンペーパーを輸入することから始まります。輸入品の品質が改善しないため、自分で作ろうと決意し、特許登録ともに2011年TBMを設立してます。(紙の専門家でもないのにすごい行動力。。。。)

そうするとやはり2019年の本格量産までは10年くらいかかってますね。やはり新素材は開発期間が長い。。。
TBMもスパイバー同様現在ユニコーン(未上場で時価総額が1,000億円以上)とされ、注目が集まっています。

**検証①:量産化までの資金は、エクイティでかつ国や、業務提携先となる事業会社(VCは出さない)のマネーで調達

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こちら初期の資金調達は調達先がほぼ非公開がですが、山崎社長は以下のように述べています。

僕は20歳の時に起業して幾分かの蓄えがあったのでそれで開発したり会社を回したりしていたんですけど、それも底をついて。どうしようもない状況になってきたんですけど、経済産業省がイノベーション補助金と言って、僕らみたいな先端技術を実証評価するために、最大で設備の三分の二まで補助してくれる制度があって。それでギリギリのところで採択して。(出所:Plus Paravi

当初は自己資金で踏ん張り、15年の第一工場を作るための資金を補助金から獲得しているようです。その後のVCというよりは、マッチングによる個人投資家や事業会社からの出資がベースとなっております。

**検証②:早期の社会実装のため、一部技術をオープン化し窓口を広げる

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こちら外れました。早期の用途開発のため、一部技術をオープンにしているかとおもいしましたが、そのような記事は見当たりませんでした。

こちら最後の学びのところで述べますが、本仮説はあくまで産業用の材料(家電製品、車の部品、住設とか)向けの仮説でした。産業用の材料は新規材料採用のスイッチングコストが高く(不具合が出た時の損害がでかい、人命に関わる、他の材料等の相性等の関係で)、数年かけて検証した結果、不採用になるということもあるため、本仮説を立てました。

しかし、LIMEXの当初製品は紙であり、用途はPoP、名刺、メニュー表等で、産業用にくらべ高性能が求められるものではありません。
なので環境にやさしいという時代の流れにもマッチし、要求性能も高くない(価格くらい?)、また後加工等も必要ないため、技術をオープン化にしなくとも普及できたものと推察します。(この場合はマーケティング等普及のための別の戦略が必要)

検証③:一定ボリュームの出るキラー製品を見つける

社長の山崎さんは「シンボリックなクライアントや投資家を見つけていくことが大事」と述べておりますが、toC向けの「紙」という性質上、今のところ特定のどっかとガッツリ組むとはないみたいです。

現在は様々な企業にとりあえず使ってもらっており、5,200社以上に導入されているとのことです。
(企業としても、メニュー表や名刺、PoPといった使用用途であれば、導入ハードルは低く、多少価格が高くてもSDGs等のアピール費と考えれば安いものかと思う)

ただプラスチック代替製品として、住設業界・自動車業界をターゲットとしているようで、ここを突破するには一定のキラー製品を見つける必要があると考えていますので、本分野における事業提携等のニュースが出ることを期待しております。

検証④:初期段階で大量の特許数を獲得している

こちらSpiberの取り組みから得た仮説でしたが、特許戦略という軸において記事等の情報がつかめなかったため、詳細は不明です。

ただ、Spiberは技術力を可視化し、外部へのアピールや資金調達等をするために初期に大量の特許を取得しておりました。
この点、TBMも2014年30カ国で特許を取得するタイミング前後で数十億の資金調達しております。

素材ベンチャーでまだ試作品等がない場合は特許(内容、量、登録地域等)でその可能性を外部に説明し、試作品開発に向けた資金獲得というステップが必要になるのでしょう。

学び

今回の所要時間はリサーチに1.5時間、検討・執筆に2.5時間くらいです。

一番大きい学びは素材の用途により、普及のための戦略が変わってくること。
私が勝手に想像していた素材開発ベンチャーは、機能・性能を強化した新素材だったが、LIMEXは資源問題の観点から紙を置きかえるというマス戦略(一部採用でなく、すべてを置き換える)とっています。

面白いことに、TBMの開発・生産本部本部長の水野さんは以下のように述べおります。

TBMは素材メーカーですが、Appleと事業モデルに親和性があると感じています。AppleのMac製品は完全にマーケティング・ブランディングが成功し、世界中に広まりました。・・・同様にこのLIMEXという素材のコンセプトは、マーケティング次第で革新的なモデルを創ることが出来る可能性があると感じています。世の中の環境に対する情勢変化、サステナブルな対応が求められる企業、そしてプロダクト。この流れの中で、LIMEXのブランドを確立した時、世界各地、どの国の石灰石を使ってもLIMEXを創ることが出来る地産地消のモデルを構築することが出来れば、非常に面白いと思います。
(出所:TBMのHP 社員インタビュー

環境問題を解決するブランドイメージを構築することで、「LIMEX使ってる」ということが、企業としてSDGsに向けた宣伝効果にもなっているのかと思います。
今後海外にライセンシングを行い拡大を目指してくとのことで是非頑張ってほしいです。

ただ、住設や自動車業界向けの採用にはブランドイメージだけではどうしようもならない、性能と量産コストの壁があると思いますのでここをどう突破してくかは注視していきたいです。

以上



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