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今月出会えてよかった本 【2022年2月版】


理想的な出会い

今回紹介するのは澄川小歌さんの『21gのあかり』です。

このマンガとの出会いはいちマンガ好き・本好きとしてとても理想的だったと思っています

それは近所の書店で別の漫画を買おうと店内をふらついているとき、ふと新刊コーナーを見た時に『21gのあかり』に目が留まったのです。

気が付けば手に取っていました。平済みはされていたものの見本誌は置かれてなく、シュリンクもかかっていたので試し読みはできませんでした。

それ故に表紙と帯に書かれていた、魂の重さ21gと人の魂を電気にするという設定に強く心を惹かれました。当時の自分の感情もよく覚えていませんが、「あ、買おう」くらいの自然な行動だったのだと思います。

棚にさすのではなく平積みにしてくれていた書店には感謝しかないです。数日空けてもう一度見に行った時にはもうその場所にはありませんでした。売り切れたのか、棚に移動したのか分かりませんが自分のタイミングの良さもほめてあげたいです。

実店舗の書店とは、自分の買いたい本を買いに行くだけでなく予期せぬ本との出会いも起きる場所なのだとあらためて気づかされました。

「魂の重さは21g」へのアンサー

かつて、医師のダンカン・マクドゥーガルは一つの説を唱えた。「魂の重さは21g」だと。

ダンカン・マクドゥーガルという医師のことは知らなくても人間の魂の重さは21gであるという説を知っている人はそれなりにいると思います。これは、人間が死ぬときに21gほど体重が減少していることから考えられたものです。

根拠はないとされていますが、SF好きとしては大変ロマンあふれる説でもあり、実際に創作などでは「シュレディンガーの猫」くらいよく使われている文言でしょう。

『21gのあかり』はそんな説を下地にした作品で、作中で人が死ぬと未知のエネルギーが放出され、それを発電に利用することで生活に大きな発展が起こっていくというまさにエネルギー革命が起ころうとしている背景設定になっています。

SF作品には「誰にもまねできない超・独創的なモノ」「既存の技術や作品を発展させたモノ」の二種類があると勝手に思っています。前者は歴史に名を遺すほどの劇薬しかないのですが、『21gのあかり』は後者です。

既存の技術または説を発展させた作品である本作ですが、その肝は人と人とのつながりや成長といった人間としての営みまたは温かさに強い焦点が置かれていると感じました。登場人物間のやり取りはもちろん、亡くなった人たちからのメッセージや「電気」が起こす現象についても見どころです。

人の魂をエネルギーとして発見し、それを用いて発電するというのはありそうでなかった発想かもしれないと思いました。あいまいなものに一つの定義を与えるだけでなく、あいまいだからこそ起こり得る不思議でドラマチックな展開も素晴らしい作品です。

SFジュブナイルとしての楽しみ

本作の肝はやはりジュブナイルとしての冒険劇にあると思います。初めはちょっと近所の冒険気分で始まった物語が次第にいろんな人たちを巻き込んでことが大きくなり最後には、という文脈は一貫して描かれているからこそ読みやすさがあったのだと思います。

ときどき危なっかしくて元気いっぱいの「頼音らいね」と悩みを抱えている「凛李りんり」が出会い、様々な出来事に首を突っ込んだり巻き込まれたりしていく展開は、ハラハラドキドキもありますがそれ以上の爽快感がやってきます。それは親しみやすい絵柄と大ゴマや見開きが大胆で見やすいことも作用しているのでしょう。

SF設定を土台としながら冒険を経て少女たちの成長を描く。まさにSFジュブナイルとしてきれいに描かれていて読みごたえのある作品です。


「魂の重さは21g」という有名な説と、ジュブナイル・冒険活劇という古くから親しまれてきたジャンルを見事につないだ作品『21gのあかり』。一巻できれいに完結していますので是非読んでいただきたいマンガです

余談・おわりに

前回の『冷たい校舎の時は止まる』は小説でしたが、今月はマンガの『21gのあかり』を紹介させていただきました。

一か月に1回というスローペースな更新なのでどうせなら毎月違うジャンルのものを紹介したいと思っていますが、はたして来月はどのような本を紹介する事になるのでしょうか。また小説やマンガだったり実用本やエッセイを紹介するかもしれません。

結局はひと月ごとの本との出会いでしかないので何とも言えませんが、いろいろなジャンルの本や漫画に触れて様々な世界に出会いたいと思います。

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