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秋の夜長の読書で、これからのリーダーシップのあり方について考えた

経営層と現場の信頼関係をどう構築するか、そんなことをここのところ考えています。いくつか書籍を読みながらあれこれ考えています。どの本も大変示唆に富んでいてお勧めです。

■説明責任と質問責任

社内の信頼関係と言うと「公明正大」という言葉が浸透しているサイボウズさんが思い浮かびます。社内の情報を徹底的にオープン化することで独特な社内文化が作られています。そのサイボウズの副社長である山田理さんの著書「最軽量のマネジメント」にはこんな一節があります。

メンバーの主体性、自立という観点からも、「あなたが今いる職場をあなたにとってより良いものにしたいのであれば、あなたには質問する権利としない権利があります。それを選択するのはあなた自身です」と伝えました。 こうしてサイボウズでは、マネジャーが持つ「説明責任」に対して、同等に、疑問や問題を放置するのはメンバーにも責任があるというメッセージを込めて、「質問責任」と呼ぶようになりました。

「ある意味、マネジャーからメンバーへの「責任転嫁」かもしれません。」とも書かれています。とはいえ、これは簡単なことではないですね。質問する側もされる側も、心理的な葛藤が生まれます。ただ、ここを曖昧なままにして、空気を読んでやり過ごす組織がほとんどなのではないでしょうか。責任という言葉が重ければ、質問による貢献というともっと前向きになるかもしれません。

■ヘルシーコンフリクト

サイボウズさんでは、「公明正大」という文化のもと言うべきことが言える状況が生まれています。いわゆる心理的安全性が高い状態です。Googleの研究で注目を浴びている心理的安全性ですが、この分野は知見が蓄積されてきています。そうした知見を分かりやすく解説しているのがこちらの本です。

印象に残っている内容の一つがこちらです。

経営学の一分野である組織論では三つの「コンフリクト(衝突)」という概念を定義しています。
1人間関係のコンフリクト
2タスクのコンフリクト
3プロセスのコンフリクト

1の人間関係はその名の通り、人の好き嫌いについてです。2のタスクは同じ問題や事象について意見が異なる、意見が衝突するということです。3のプロセスのコンフリクトとは、「それはウチの仕事ではありません」とたらい回しになってしまうような状況を言います。

なるほど、たしかに職場での衝突と一口に言っても様々な場面がありますよね。上記のように3つに整理して捉えると分かりやすいです。そしてさらに…

複数の研究を横断し解析した論文では、この三つのコンフリクトは、基本的にはパフォーマンスに悪影響を与えると結論づけています。
しかし、実は「心理的安全性が担保されている状況下では、タスクのコンフリクトだけは業績にプラスの影響がある」という研究結果があります。心理的安全性がない状況下では、意見の対立はたやすく人間関係の対立になってしまいます。人間関係を重視する場合は、意見の対立を避けるため、意見が出にくくなります。これでは学習は起こらず、パフォーマンスの改善にもつながりません。そのため、よい業績のためには、心理的安全性のある状況での「健全な対立(ヘルシー・コンフリクト)」が重要なのです。もしこれまで「衝突=悪」として、意見の対立を避けてきたのだとしたら、「健全な衝突かどうか」「健全なら促進し、不健全な衝突なら調整する」という方向へと、舵を切ってみることはチーム学習の重要なファーストステップになります。

やはり、モノが言える状況というのは大切ですね。正解のない世の中で、様々な可能性を受け入れて建設的に学び合うことがますます武器になるのだと思います。

■うちには失敗はないよ。…なぜなら、やめないから

…さて、これは本の話ではありません。
うちには失敗はないよ。…なぜなら、やめないから
これは、わたしの知合いの社長さんの名言です。もう70年近く、業界ではその技術力が評価されて成長し続けている会社さんです。お話を聞いていると何より開発担当の技術者が仕事を楽しんでいることが伝わってきます。普通の会社だと、製品開発がうまく行かないと「ものにならないならやめろ、儲からないならやめろ」となることがあります。当然と言えば当然ですね。結果、技術者からすると「失敗した」ことになってしまうわけです。そうなるとチャレンジできないですよね。心理的安全性が損なわれてしまいます。しかし、この会社では、本人がやめたいと言わない限りとことんトライさせつづけてきました。なので失敗は存在しません。ただ、この蓄積が目に見えない資産を生んでいます。お客さんから「こんなのできないかなあ、他では無理だって言われたんだけど…」と問合せがくると「できますよ」と答えられるのです。チャレンジし続けるという投資によって蓄えた見えない資産が、しっかりとキャッシュを生んでいるように思います。

エンゲージメントカンパニー

とはいえ、結果が出ないと、経営者としては不安になります。上記の様な会社にするには、経営者としての勇気が必要となります。

これからの会社は、従業員を与えられた仕事だけをこなす機械のように扱うのではなく、会社やチームの成功のために、必要なことはなんでもやり抜く経営オーナーのように扱う勇気が必要です。多くの従業員は、自分たちの仕事は重要だと考えて仕事をしたいと思っています。

そう説くのは、アンリ・ジャールさんです。といっても、架空の日系フランス人だそうです。

この本は、そのアンリ・ジャールさんの講義録という設定で描かれています。社員が安心して仕事に打ち込める状況を作ることがこれからのリーダーの仕事。そして、これができている会社のことを「エンゲージメントカンパニー」と呼んでいます。

従業員のエンゲージメントの向上が、優秀な人材を引き留める原動力となり、従業員の成長意欲の源泉となります。エンゲージメントの高い従業員は、生産的で会社が掲げる目標とその従業員の目標がほぼ一致し、勤続年数が長いという特徴があります。そうした従業員は、会社としてどういう判断をするのか、その基準を明確に理解し、それを行動に移しています。

確かに先ほど紹介した会社さんの離職率は、ほぼゼロです。また、技術者にとって仕事に打ち込める良い会社として知られており、優秀な若い人材がどんどん入社してきています。

■〈サークル・オブ・セーフティ〉を堅持する責任は、私たちひとりひとりが負っている

そして、上記のアンリ・ジャールさんが、サイモン・シネックを引用しています。ここで引用するのは、サイモン・シネックの『リーダーは最後に食べなさい!』の一節です。

リーダーシップ、それも本物のリーダーシップとは、トップの座におさまっている者の身を守る要塞ではない。リーダーシップとは、グループに所属している人間全員の責任を負うことである。高位の肩書きをもつリーダーには、より大きな規模で行使できる権限がともなうとはいえ、〈サークル・オブ・セーフティ〉を堅持する責任は、私たちひとりひとりが負っている。ささやかなことでかまわない。他者のためになることを、なにかしらおこなう。それをきょうから始めよう……一日にひとつずつ。

サークル・オブ・セーフティとは、まさに心理的安全性のことです。その大切さをオキシトシンなどの脳内物質の働きをもとに解説しています。オキシトシンは、いわば、利他の脳内物質です。利他の心は、遺伝子レベルでその存在が証明されているといえるかもしれません。

■最後に…

こうして見てくると、様々な角度から同じ問題意識が語られているものです。やはり、わたし達は、潜在的に協力し合う存在であるのだと思います。しかしながら、一方で、短期的な不安や衝動にも駆られる。そして、それを手っ取り早く解決できる手段もあったりする。ただ、それに負けてはならない、なぜなら、そうやって私たち人間は発展してきた存在だから。そして、そのための知恵を会社は生み出す場であるべきだ、ということだと思います。

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