理念浸透に必要な経営者の姿勢とは
2022年版の中小企業白書に以下のデータがあります。
これは、東京商工リサーチの「中小企業の経営理念・経営戦略に関するアンケート」をもとにしたものです。
多くの企業で経営理念・ビジョンが明文化されています。実際に私が訪問するすべてのお客さまの会社で、入り口や会議室に経営理念が掲げられています。毎朝、朝礼で唱和もされています。
しかし、ありがちなのは、絵に描いた餅になっていることです。明文化はされているが、浸透していないことが多くの会社で課題になっています。
中小企業白書の調査では、経営理念・ビジョンに対する社員の受け止め方について、(1)認知(2)理解(3)共感・共鳴(4)行動への結びつきという4段階に分けて集計しています。
結果は以下の通りです。
7割以上の回答者が、理念に「共感・共鳴」が得られていると感じているようです。
どのような理念が掲げられているかも調査されています。代表的なのは「顧客満足、顧客獲得」「社員の幸福」「社会への貢献、社会的な使命」です。
これはドラッカーのいう企業の目的とも通ずるところがあります。この内容自体に反対する人はいないでしょう。
この調査の興味深いところは「共感・共鳴している」が7割である、で終わっていないところです。「行動」まで踏み込んで浸透しているかどうかを考察しています。つまり、共感・共鳴しているというだけでは、反対ではないということであって、真に腹落ちしているかどうかは行動に表れるということです。
集計によると、行動に結びついている企業は、理念を掲げている企業の半分です。そうした企業では、理念浸透の効果として「社員の自律的な働き方の実現、就業観の共有」が一番多く挙げられています。
「自律的である」ということは、掲げられた理念に共感・共鳴しつつ、社員自身が貢献すべきことを見出しているということです。つまり、ただ従っているのではないということですね。
さて、そんなことが理念を会議室に掲げたり、毎朝唱えたりするだけで可能でしょうか。
ここで考えなくてはならないのは、何のために理念を掲げるかということです。社員を理念に従わせるために掲げるのではありません。社員と共に事業を振返り、自社の事業や働くことの意味を深め合うために掲げるのです。それが、浸透を促進します。
そのポイントになるのは、対話による振返りです。みなさんの会社では、日々の仕事の中で理念に立ち返るような場面はあるでしょうか。そもそも立ち返るほど悩まず、ひたすら対処しているだけかもしれません。頑張ってはいるけど長い目で振返ってみると、行動の質は変わっていないということがあります。つまり、一歩踏み込んだ工夫がないのです。
お客さまや社会の価値観が多様になる中、共に振返り、共に自社や自分のあり方をアップデートしていく対話の場がますます求められています。それは、お客さまから学ぶ機会でもあります。
経営者に求められるのは、理念の発信だけではありません。社員と共にお客さまから学び、自社のあり方である理念を探求する姿勢です。
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