Kazuyoshi Hara

島根県出雲市でITエンジニアをしながら小説を書き続けています。何気ない日常を揺るがす出…

Kazuyoshi Hara

島根県出雲市でITエンジニアをしながら小説を書き続けています。何気ない日常を揺るがす出来事と対峙する人を描く短編小説が得意。東京、広島、神戸、京都と学生時代・仕事で転々としていました。たまに好きなもの(中森明菜がほとんど)への思いを発露することもあります。

マガジン

  • 小説 祭りのあと~宇部金座商店街の毎日~

    山口県宇部市旧市街地に存在する架空の商店街「金座商店街」。 ここで暮らす若い商店主兼発明家の下村恭介は、或る日出会った老人から鈍い光を放つ黒い石を渡される。 その日から、商店街の人々、街の住人、通り過ぎていく人々との間で起こる出来事に思いもよらず巻き込まれ、その人たちの未来を変えていく存在になっていく。 大事に推敲し温めてきた長編、はじまります。だいたい一週間おきに更新。

  • 俺に中森明菜を語らせろ

    全盛期から現在に至るまで、絶えず変わらず僕の「推し」であるスター「中森明菜」の楽曲を、あれもこれも全て受け入れ昇華させて語り尽くす。

  • 小説 23時14分大宮発桜木町行

    各駅停車が好き。一人も置いてきぼりにせず乗せていくから…… 乗り合わせた見知らぬ誰かの人生が、音を立ててゆっくり動き出す。 そんな風景を描いた短編小説を、JR京浜東北線のとある駅をテーマに描いた9本です。

  • 旅小説 島根から

    その街。そこに佇む人。また離れた人。 そのそれぞれに秘めた想いがある。 遠く離れた場所から、まるでそこに住んでいるかのような気分に浸ってみませんか?

最近の記事

  • 固定された記事

[小説 祭りのあと(19)]三月のこと~紫紺の帯締めと鶴の恩返し(その2)~

 「はい。反対されるのは分かっとったんで嘘をついて納得させたんです。何年か後には必ず跡を継ぐって。でも僕は、跡を継ぐ気は全くないんです」  僕は地雷を踏んでしまった。大問題勃発だ。  あのひろみさんに知れたらとんでもない騒ぎになる事実を、僕は聞いてしまった。  「そ……それって、隠したままで京都に行くん?」  彼は頷いた。若いというのはこういう勢いも確かに必要なのだ。  しかし問題は先延ばしになっただけだ。  このままでいいのか。僕はいつの間にか、他人の問題にやたらと首を突

    • [小説 祭りのあと(18)]三月のこと~紫紺の帯締めと鶴の恩返し(その1)~

       「先に寝るけぇ、電気忘れずに全部消しといてよ」  母親に気のない返事をする僕はこたつに仰向けで脇まで深く潜り込み、右手で黒い石を摘んで眺めていた。こたつ板の上には、有紀子さんから石と一緒にもらったお礼のマシュマロの小さな箱が置いてある。  訳の分からないままこの石を老紳士から受け取って、もうすぐ一年。  この石を上手く使った発明など、僕には殆どできていない。  しかしこんな鈍感な僕に、この石は目の前の出来事を好転させるチャンスを教えてくれたのは確かだ。実際に何度も事態をい

      • [小説 祭りのあと(17)]二月のこと~マシュマロと黒い手のひら(後編)~

         「昨日は本当にごめんなさい……」  幸と僕は有紀子さんに向かって頭を下げた。  幸は僕を引き摺ったことは覚えていたようだが、商店街中に響くほど叫んだことは記憶になかったようだ。  今朝になって陽治からお叱りを受けて、ようやく事の重大さに気付いたのだった。  しかしこいつ、僕には一言も謝罪の言葉がないのはどういうことだ。  お店の小さなイートインスペースに三人は座って話を始めた。  貴一さんが気遣って紅茶を差し出してくれた。  僕に向かって『頼むよ』といった風情で片目を瞑った

        • [小説 祭りのあと(16)]二月のこと~マシュマロと黒い手のひら(前編)~

           午後十一時を超えた厨房に、有紀子さんは銀色に光る作業台に向かっていた。  コンロの上の小鍋から白い液体をボウルに取り出し、栗のコンフィチュールを流し入れて混ぜ合わせた。するとそれは渦巻き状に広がり徐々に美しい黄金色へと変わっていった。  作業台の片隅には、僕が貸した黒い石がアイスクリームグラスに入れられて大事に置かれてあった。  黄金色になった液体を冷えないうちに粉砂糖の入ったバットに落とし入れ、彼女はそこに少しだけコンフィチュールを乗せた後、くるんと包んで丸くした。  「

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        [小説 祭りのあと(19)]三月のこと~紫紺の帯締めと鶴の恩返し(その2)~

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        • 小説 祭りのあと~宇部金座商店街の毎日~
          19本
        • 俺に中森明菜を語らせろ
          26本
        • 小説 23時14分大宮発桜木町行
          9本
        • 旅小説 島根から
          6本

        記事

          あれから3ヶ月以上過ぎましたね

          こんにちは。 ご無沙汰しておりました。 3ヶ月振りの投稿です。 早々に書いてしまっちゃいます。 5月に会社を退職しました。 退職理由 一番の退職理由は、県外勤務を言い渡されたことです。 地元に帰ってきて1年で、地元定住の目途が一切立たない状況になったためです。 休養開始前に取った行動が、僕の立場上非常に問題となったようです。 休養開始時に投稿した↑の記事、もしかしたら会社の上役に見られてしまったかも知れません。 それがこの事態の引き金になっていたとしたら…ん~、ホント

          あれから3ヶ月以上過ぎましたね

          [小説 祭りのあと(15)]一月のこと~フラミンゴのじいさん(終)~

           繁華街を避けながら幾つもの橋を渡ると、標識に広島港という文字が見え始めた。  その名も宇品通りという道に入ると、そこには線路沿いに歴史のありそうなお店が幾つも立ち並んでいた。古びた暖簾のお好み焼き屋もその中にはあった。  僕らは近場のコインパーキングに車を停めて歩いてそのお店に向かい、ようやく一息つくことができた。  そのお店は観光客相手ではないのだろう。おじさんとおばちゃんの二人で切り盛りをしていて、周りのお客さんの口々からは生粋の広島弁が飛び交っていた。  メニューは少

          [小説 祭りのあと(15)]一月のこと~フラミンゴのじいさん(終)~

          中森明菜「原始、女は太陽だった」

          「原始、女は太陽だった」 作詞: 及川眠子 作曲: MASAKI 編曲: 岩崎文紀 1995年6月21日発売のシングル曲。 同時期のヒット曲は、 岡本真夜「TOMORROW」、シャ乱Q「ズルい女」、 スピッツ「ロビンソン」「涙がキラリ☆」、 酒井法子「碧いうさぎ」、B'z「ねがい」「love me,I love you」等々。 上記のようなロングヒットが並ぶ中、 瞬間最大風速のみ強く、2週目以降は一気にランクを下げる、 いわゆる現在のヒットチャート上の多くの曲のようなもの

          中森明菜「原始、女は太陽だった」

          [小説 祭りのあと(14)]一月のこと~フラミンゴのじいさん(その2)~

           生憎の雨模様。駐車場の軽自動車の中で、僕はかおるが到着するのを待っていた。  日曜日はアルバイトも用事も何もないと言っていたが、さすがに朝の七時は早かったか。  八木青果店の角から水色の傘が見えてきた。何とも言えない格好で、かおるが現れた。  「何ですかその出で立ちは」  「え?この寒さにこの雨が凌げれば、何でもいいかなと思って」  「別にデートじゃないしええんじゃけど。色気も何もないねぇ、相変わらず」  喫茶店での質素ながらも清楚な姿とは大違いだ。  いくら貧乏学生とは言

          [小説 祭りのあと(14)]一月のこと~フラミンゴのじいさん(その2)~

          [小説 祭りのあと(13)]一月のこと~フラミンゴのじいさん(その1)~

           ピコピコ。ピコピコ。ガー。ガー。  「何ですか、それ?」  「えっ、見て分からん?ロボット」  「いや、それは分かりますけど…」  コーヒーカップの横で音を立ててロボットくんはゆっくりと歩いていた。  クリスマス直後にユウジからラジカセを返してもらった後に、僕はただの思い付きだけでガラクタを寄せ集めてロボットを組み立てた。  右目に黒い石を付けた、身長十五センチの小さなヤツだ。  料理上手な母のお節料理は美味しいのだが、六日間も経つとさすがに飽きる。  僕は中津瀬神社

          [小説 祭りのあと(13)]一月のこと~フラミンゴのじいさん(その1)~

          中森明菜「TANGO NOIR」

          「TANGO NOIR」 作詞:冬杜花代子 作曲:都志見隆 編曲:中村哲 1987年2月4日発売の17枚目のシングル曲。 日本歌謡大賞や記念すべき第1回日本ゴールドディスク大賞「The Artist of the Year」、 また「DESIRE-情熱-」で日本レコード大賞を受賞するなど、文句なく名実ともに圧倒的な存在感を示した1986年を経ての、年明け最初の作品。 同時期のヒット曲は、 小泉今日子「木枯らしに抱かれて」「水のルージュ」、 吉幾三「雪国」、本田美奈子「On

          中森明菜「TANGO NOIR」

          [小説 祭りのあと(12)]十二月のこと~ユウジの鳴らすAマイナー(後編)~

           「何、かおるちゃん。ようやくバイトに入れるんか?」  年末試験がようやく終わり、かおるはマスターにアルバイトのシフトの相談をしたのだった。正月三が日だけ実家の北九州に帰り、あとはアルバイトに入れると言うのだった。  「じゃあ、年末までびっちり入れさせてもらうで。忙しくなるけぇのぅ」  年末もまた、商店街が忙しくなる貴重な季節だ。  クリスマスや歳末バーゲンなどのイベントが押し寄せる。  それらのイベントに路上パフォーマンスを絡めて、更に盛り上げるのがここ最近の当商店街の恒例

          [小説 祭りのあと(12)]十二月のこと~ユウジの鳴らすAマイナー(後編)~

          中森明菜「月華」

          「月華」 作詞: 松井五郎 作曲: 梶原秀剛 編曲: 松本晃彦 1994年10月5日発売のシングル曲。 同時期のヒット曲は、 篠原涼子 with T.KOMURO「恋しさとせつなさと心強さと」、 大黒摩季「永遠の夢に向かって」、 T-BOLAN「マリア」、森高千里「素敵な誕生日」、 槇原敬之「SPY」、SMAP「がんばりましょう」、 奥田民生「愛のために」、松任谷由実「春よ、来い」等々。 ビーイング系ミュージシャンの台頭に、小室哲哉氏が狼煙を上げ始めた時期。 男女それぞれ

          中森明菜「月華」

          [小説 祭りのあと(11)]十二月のこと~ユウジの鳴らすAマイナー(前編)~

           冷たい雨が降り出した午後六時過ぎ。いつものようにパフォーマーたちがアーケードにちらほらと現れ始めた。  革製のトランクから様々なジャグリングの道具を取り出す者。  大きなケースから出した中古のウッドベースをセッティングする者。  テーブルマジックを披露する者もいれば、ヴァイオリンを構える者もいる。様々な人々が毎日のように集まってくる。  一般的にこういった路上パフォーマーは人が集まることで騒ぎにもなり易く、何処でも敬遠されがちだ。  しかし大崎代表はその「人が集まる」とい

          [小説 祭りのあと(11)]十二月のこと~ユウジの鳴らすAマイナー(前編)~

          本日から長期休養に入ります。

          おはようございます。 今日はあらゆる肩の荷が下りて、とても穏やかな気持ちです。 とある地元島根の会社にてITエンジニアをやっているのですが、昨日をもって一旦業務を終え、本日から4月いっぱい休養することにしました。 もともと心療内科に通っている10年以上のうつ病キャリアでして、通院しお薬をもらいつつ、自分に一番合っているITエンジニア業界にて仕事をしています。 今回はその病気が再発しかねないというアラートが、僕自身の「勘」で鳴ってしまったので、深刻にならないうちに休もうと決

          本日から長期休養に入ります。

          中森明菜「Tokyo Rose」

          「Tokyo Rose」 作詞:中森明菜・上澤津孝 作曲:Masaki 編曲:Brian Setzer 1995年11月1日発売の「AKINA」名義でリリースしたシングル曲。 オリコン最高位32位。 ミリオンセラーが連発していた時期において、この順位・セールスは決して上々というものではなかったが、楽曲そのものは当時の彼女にとって見事に「ハマった」作品。 ちなみにこの「Tokyo Rose(東京ローズ)」。 Wikipediaからの引用だが、日本軍が第二次世界大戦中におこな

          中森明菜「Tokyo Rose」

          [小説 祭りのあと(10)]十一月のこと~嫁入り箪笥(終)~

           初冬の分厚く暗い雲が立ち込める、手もかじかむ日曜日の朝が来た。  東口から中田君が現れた。上下鉄紺色の作業着に安全靴。素手はポケットになど入れることなく、寒さもものともせずしっかりと腕を振ってこちらへと歩いてきた。  瑠美ちゃんは三十分以上も前から、寒い外で彼の到着を待っていた。  その間に善彦さんが何を企んでいるのかを聞いてみた。  彼女はずっと善彦さんとは話ができていないらしい。鈴恵さんや真一くんにも尋ねてみたものの、誰にもその話をしなかったのだそうだ。  彼のこういう

          [小説 祭りのあと(10)]十一月のこと~嫁入り箪笥(終)~