#29 短編空想怪談「奪う者 甲」

閲覧注意 本作品には児童への虐待描写や性的描写やスプラッター表現が含まれます。
お読みになる際は充分にご注意下さい。
尚、本作品はフィクションであり、虐待や犯罪行為を推奨する意図はございません。








孝夫は幸せな暮らしを送っていた。
妻と今年幼稚園に上がった娘の未来(みく)、そしてこの年の5月に産まれた息子の修(おさむ)。
家族四人で、決して裕福とは言えないが人並みには生活は送れてるし、息子が産まれたのをきっかけに、埼玉の郊外に庭付きの一軒家を購入。
少々職場には通い難くなるが、いずれ成長した息子とキャッチボールをするのを夢見ていた。

年の瀬。
妻の梨華が「今年もお疲れ様でした」と一年の疲れを労う言葉を掛けてくれた。
梨華は絶世の美女、とは言わないがそれなりにキレイな妻だ。
出会ったのは大学で、その頃彼女は演劇サークルに居て、1〜2度ヒロインに抜擢されるくらいには可愛かった。

孝夫と付き合い出したのは遅めで、大学を卒業する時に孝夫からの告白がきっかけだった。それから5年程の交際を経て現在に至る。
梨華は結婚までするとは思っていなかったが、社会人になった後も、一番一緒に居て居心地の良かった孝夫とそのまま結婚した。

「ありがとう」
孝夫も労いの言葉に素直にお礼を言った大晦日。
娘の未来はクリスマスにプレゼントしたSwitchで友達とどうぶつの森で、遊んで居たが、23時を過ぎる頃にはSwitchの電源を入れたまま、居間で眠りについてしまったので、寝室に運んだ。
修も寝室のベビーベッドで寝息を立てていた。
夫婦の時間はやがて男女の時間になった。
梨華から孝夫の顔にゆっくり近付き、唇を合わせる。
手と手を合わせ、床に倒れ込み、その拍子に手を外し孝夫の手が梨華の背中に回る。
倒れてもなお、梨華の温かい唇の柔らかな感触が孝夫の唇に伝わる。
そして梨華の背中にあるホックを外し、緩くなった下着の中に孝夫の手が入る。
「あ…」
甘い吐息が梨華の口から漏れる、孝夫はその手の中に柔らかく暖かな感触を感じながら、優しく撫でる。
「あ…、ん…。」
夢の中に居る子供たちを気遣って余り声を出さない様にする梨華が孝夫は愛おしいと思った。
そしてゆっくり、孝夫の手が下の方へ伸びて行き、…たどり着く。
胸よりも柔らかくて、暖かく、そして、溢れていた。
お互い受け入れる体制は出来ていた。
「もう一人、欲しい?」
孝夫が聞くと、赤く火照った顔で梨華が
「うん…」と、答えた。


メキ

梨華がパジャマの下を脱ごうと手を掛けた瞬間、どこから途もなく不吉な音がした。
「今何か聞こえなかった?」
梨華が孝夫に確認を取ろうと問いかけたが、孝夫は取り合おうとしない。
孝夫は起き上がり、今度は孝夫が梨華の上に覆い被さり、梨華の首筋を甘咬みしていたら、さっきまであんなに柔らかかった梨華の首が急に強張った。

そして、孝夫は意識を失った。

ギシギシ…ギシギシ…
何かが軋む音が聞こえる…。
闇が横方向に割れ、光が目に入る。
意識が戻ると、あごに痛みが走った。しかも口に何か詰め込まれている。
タオルだ、タオルがめいいっぱい口に突っ込まれていた。
たぶん無理くり突っ込んだのだろう、あごが外れて動かない。
光で眩んだ目を凝らすと梨華が机に突っ伏して倒れている。
「!!」
声にならない声を上げて梨華を呼ぶが返事がない。
すると、予想だにしない方向から返事が帰ってきた。
「あ、ちょっと待って!もうすぐイキそう!…ウ!」
梨華の背後に下半身丸出しの男が梨華を後ろからパンパンと音を立てて激しく突いている。
「あ、やば、気持ち良すぎておしっこも出そう。」
ピチョピチョピチョと梨華の股間から、行き場を失った男の小便が垂れて床に落ちる。
「タカちゃんはいいなー、こんなかわいい人と結婚できて。」
男が言った。
男は目出し帽を被っていて顔が分からない。でも少なくとも愛称で呼ぶということは知り合いなんだろう。
いや、そんなことより、
「!! !!」
もう一度声にならない声で梨華を呼ぶ。
「あ、ごめん殺しちゃった。」
男はそう言いつつスボンを履き直し、梨華の髪を掴んで孝夫の顔の前に引きずり出した。
梨華の死体は鼻血を流し、青く腫れ上がった瞼の奥の目は瞳孔が開き切っていた。
「タカちゃんは後ろから行けたから良かったけど、この人はコッチ見てたからさ、しょうがないよね。」
何を言っているんだ?
孝夫の頭の回転が追いつかない。

「一応これでも気を使ったんだよ?
だって窓ガラスをフツーに割ったら音がスゴイじゃん?」
あの音は梨華の聞き間違いじゃなかった、コイツが侵入した音だったんだ。
「だからとりあえず、タカちゃんは殴って気絶させて、奥さんは騒いだから殺して、今は保健体育の時間。」
「?!」
保健体育とは何の事か分からなかったが、男はそう言って、すっと後ろを見ると未来が手足を縛られて、孝夫と同じように口にタオルを詰め込まれていた。
恐らく何度も何度も怒鳴られたのだろう、声を殺して泣いている。
「あの娘はただのタオルじゃ可哀想だったから、ピンクのキティのタオルにしておいたよ。」
「!!!」
孝夫は娘に必死に見るなと言おうとするが、全く喋れなかった。

「こうやってチンチンを女の人のマンコ入れてチンチンから白いのが出ると赤ちゃんが出来るんだよ。
ママとパパはこうやってセックスして、君が出来たんだからママに感謝しなきゃね。
まぁ、でもママはもう殺しちゃったからおじさんの赤ちゃんはできないし、何言っても分からないと思うけど。」
男はそう笑いながら言った。
そして男は孝夫に向き直り言い放った。
「じゃ、今度は理科の実験をしよう。
今日は解剖をやるよ。懐かしいね、タカちゃん。」
「?! !!」
やめろ!娘には手を出すなと言おうとするが喋れないし、そもそも男は無視して今度は未来を机に乗せて、未来のパジャマを手近にあったハサミで切り刻み、全裸にした。
男は未発達な未来の身体を舐める様に撫で廻した。
そして、「本当はメスを使った方が良いんだろうけど、無いからこれ借りるよ。」
と文房具入れにあったカッターを手に取った。
カチカチカチと部屋にカッターの刃を出した音が響く。
プツ、薄皮にカッターの刃が入る音がすると同時に未来がタオルを口に捩じ込まれたまま叫んだ。
「うるさい。」
男がそう言って未来を思いっきりビンタした。それでも声は鳴り止まなった為、ビンタは声が止むまで続いた。
10回か、20回か、何度もビンタのバシンという音が孝夫の耳に入る。
やがて、静かになると、男は作業を始めた。
机からさっきまで生きていた未来の血が滴り落ちてきた。
孝夫の目の前、男の膝下は未来の血で真っ赤に染まった。
「人間の解剖って臭っさいな、こんな事なら止めとけば良かった」
男がそう言って立ち上がり何かを持ってきた。
「これなんだか分かる?」
男の手には細長い管のような物が乗っている。
「たぶん腸だと思うんだよね、これの中からウンチが出てきたからたぶんそう。
もう血で真っ赤で何がなんだかよく分からないな」
嘗て未来の一部だった内臓は床に捨てられ、その後も男は無理矢理、内臓を引き摺り出しては床に捨て、引き摺り出しては床に捨て、部屋は未来の血で真っ赤に染まって、何がなんだか分からなくなっていた。
「カエルの解剖ってこんなだったっけ?ま、いいか。理科の授業終わり。
じゃ、次は家庭科をしよう。」
孝夫の気力はもはや無くなっていた。
最愛の妻は、男に死姦され、娘は内臓を抜かれて、人の形を留めているのは、か細い手足と、目や口や耳から血を流し、殴られて青くなった顔だけだった。

呆然自失、孝夫は抵抗する事すら忘れていた。
男は隣りの部屋に行き、戻ってくると何かを抱えている、修だ。
修を見た瞬間我に返って男に訴えた。
だがそれも虚しく無視された。
「君はなんて名前かな?まあ、興味無いけどさ。」
そう言いながら男はゴミ袋に修を乱暴に入れた、すると修が泣き出した。
が、男はそれを無視して空気を抜きゴミ袋の口を閉める。
「俺さ家庭科って苦手だったんだよね、料理って難しいじゃん?」
そう言うと、孝夫の目の前に修の入ったゴミ袋を振り下ろした。

ゴン

床に叩き付けられたゴミ袋から、鈍い音が響き渡ると同時に修の鳴き声が止まった。
「まだ足りないと思うからもう何回か潰して柔らかくしよう。」
そう言って、孝夫の目の前にゴミ袋を3〜4回叩きつけた。
ゴミ袋は赤く染まり、ゴンという鈍い音はバチンという高い音に変わった。
男はゴミ袋の口を開け、血を抜いて、中に残った肉を取り出して、その肉を台所に持っていった。

やがて、ジューという肉を焼く音が聞こえてきた。
何分経っただろうか、孝夫には目の前の現実感の無さに時間の感覚さえ失われていた。
「できたよ。」
男は白い皿の真ん中に置かれた黒く焦げた肉の塊を差し出して、
「ハンバーグ」
と一言だけ言った。
孝夫の家族はこれで全員死んだ。
「はぁ、疲れた。」
そう言って男は未来のクリスマスプレゼントのSwitchの電源を入れて、くつろぎ出した。
孝夫はただただ、それを眺めていた。
「タカちゃん、まだ俺が誰か分からない?」
男はそう言いながらSwitchをいじっている。
「まぁ、会うのは20年ぶり位だし、俺はその程度の友達だったってことだよね。
友達だったら何をしてもいい、そう言ったのはタカちゃんだし、一番可哀想なのはタカちゃんと結婚した、この奥さんとタカちゃんの所に産まれたこの子供達だよね」
支離滅裂だ。
思考力が著しく落ちた孝夫の頭にはそれくらいの言葉しか出てこなかった。
「じゃ、タカちゃん、さようなら。」
男はSwitchを置いて、金属バットを思いっきり孝夫の頭に振り下ろした。

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