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「正欲」を読んで、多様性について考える

出費が抑えられることも、同じ値段で多く購入ができることも、どちらも結局は【誰もが「明日、死にたくない」と感じている】と大前提に根差した歓びだ。ーー 佐々木佳道


久しぶりに小説を読みました。
今度映画化する「正欲」。
著者は朝井リョウさん。
今まで映像化させれた作品は見たことありましたが、本で読むのは初めてでした。

映像化された作品同様、色々と考えさせられる。
小説で読んだことで、こちらの想像で考えられる余白があり、『今までの自分の考えの外側から殴られた。』みたい感じです。

それは何かっていうと、
『【多様性】って言葉はプラス方向の言葉として捉えていた自分は間違っていたのか?』や、
『自分の狭い視野から人に対して意見を言ってしまったことがあったのではないか』、
『お得なものを選んで買っていた、割引されたものをお得に買えた、などを喜んでいたってことは明日死なないを前提に生きられているんだ』
など、挙げだしたらキリがありません。


普通の視点(≒凝り固まった一般論)・マジョリティ側からは検事の人を視点に繰り広げられ、
周囲の環境へ寄り添う、マイノリティ側へ寄り添う人の視点からは検事の妻や同級生を基点に、
特殊性癖・マイノリティ側からは事件の当事者やその周りの人たちから話が進められました。


登場人物の中では圧倒的に「マジョリティ側」の私。
自分の息子が不登校だったら『そりゃ、こう思うよ』だったり、水道の蛇口を盗んで水をだしっぱなしにして理由が興奮するからなんて『いやいや、そんなことで興奮するわけない、窃盗とかの犯罪の言い訳でしょ』と小説通りの所感を持っているだろうな。

そんなことで色々と考えながら読み進めていって、何かスッと入ってきた文章、それが一番最初に書いた「マイノリティ側」の佐々木佳道の考え方でした。

「結局は【誰もが「明日、死にたくない」と感じている】と大前提に根差した歓びだ。」

自分が普段やっている辛いのにランニングや筋トレとかの運動をしている時、Amazonのセールで普段より安く買い物ができた時、
自分の外を見た時に入ってくる情報、スーパーの値引シールに群がる人たち。

こうした行動は、死なないため(長く健康でいられるように、お金を別のところで使うために、明日も生きて自社の商品を買ってもらうために)のではなく、「明日、死にたくない」って考え方もあるのか。


人から生きている理由を聞かれた時に「死ぬ理由がないから」と答える私。
「明日、死にたくない」ではなく、ただ単に”死ぬ理由がない”と考えて生きてきました。
けど、この文を見てから「ああ、ちゃんと死にたくない」って思っているって考えていいのかな。


他にもこの本には色々と考えさせられる内容が盛りだくさんでした。

「多様性」っていう言葉。
自分が許容できる範囲のものについては受け入れられて当然。
本当に重要なのは、自分の許容範囲外からくる様相にどれだけ対応できるか。
ある程度予想できる範囲じゃなくて、絶対にそんな人いないでしょという場所にも人は絶対にいる。
それが今作の水に対して性癖を持っている人たちだし、「性」がわかりやすいだけで他にも色々いるんだろうし。
だけど、その「多様性」って言葉で逃げている人(都合よく多様性だからとかで丸め込んでくる奴)には要注意。
人を傷つけずに理解しあって、尊敬しあって、けどダメなことにはダメだとはっきりと言えるようになろう。

自分の理解できる範囲の”外”に結構な数の人がいる、そう思って今後生きていこうと感じる作品でした。

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