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根本回帰の原理

変わり易い動きは目に見える。
植物が芽吹き、花を咲かせ、実をつけ
やがて枯れていく様子が見て取れるように。

一方で、変わらざる摂理は目にみえない。
枯れ落ちた草花が土に還り、
土壌となって新たな命を産みだす生命循環が目に見えないように。

目に見える変化は、目に見えない循環の一部に過ぎない。
あらゆるものは、変わらざる原理に従っているだけなのかもしれない。

反は道の動。弱は道の用なり。天下の萬物有より生じ、有は無より生ず。

『老子』(去用第四十)

反(はん):循環・回帰の意
弱(じゃく):柔弱

回帰していくことこそが「道」の大切なはたらきで、それは目立つことなく微弱なはたらきだから大概の人は気がつかない。
万物は目に見えるものから生まれているが、実は、そうした目に見えるものは全て、「道」という目には見えないものから生まれているのだ。

『老子道徳教 講義』田口佳史

たった一行の短い文章の中に、老子らしさが詰まった名文である。
特に最初の一文「反は道の動。弱は道の用なり」にそれが凝縮されているのではないだろうか。

「道」というのは根本回帰の原理で動いている。
しかし、原理というものは、目に見えない微かな働きの集積であることを、多くの人が見落としている。
これを現代人に対する箴言として受け止めたい。

構造的変革の時代、と言われて久しい。バブル崩壊後三十年以上も同じことが言われ続けている。
それだけ世の中は大きく変化しているということだろう。

だが、変わらないものもある。
宇宙の物理法則も、自然の摂理も、生物進化のメカニズムも、そして人間が愚かなことも変わらない。
だから紛争・対立が絶えることはないし、貧困が解消されることはない。

私達は、目に見える変化、形あるものの壮麗さに心を奪わがちだが、そこで見落としているものに思いを寄せなければいけないと思う。


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