【1000字小説】電気神
ある日、未来がすべてコンピュータで予測された。
すべての歴史(それはなんじゅうまんねん後の彗星軌道上に地球の公転軌道が重なることによっておこる惑星衝突でじんるいがほろび、じんるいが宇宙をもう観測することができなくなるまで)は解析がなされ、すべての未来が全じんるいに共有データとして公開された。
未来の解析は完全なものだった。
解析結果が公開され、じんるいの知識となることも含めて、未来は解析されていた。
たとえば、現代で治療ができないある病気は、それからなんびゃくねん後に開発されるだろう新薬の成分表により、治療をすることができるようになった。
そういった歴史の先どりをすることは、もちろん未来の軌跡線をぶれさせ、狂わせたがそうしたぶれ・狂いの振幅も含めて、コンピュータは未来を解析した。数百年後に開発されるはずの新薬の成分表を現代で知ることは、厳密にいえば、それがあるべき歴史だったというだけの、ひとつの軌跡線に過ぎないのだった。
未来の解析は、新薬の一件のように、それがじんるいにもたらすいい影響と呼ばれるものがあまりにも多いと思われたために行われた。
じんるいは、生まれたときに自分の職業を知り、配偶者を知り、そして寿命を知った。
そうと決まってしまえば、じんるいはその生きかたを楽しむことができた。何もかもが決まってしまっていることは、じんるいに運命への受容と、こころの安寧を与えた。
***
そんな時代のある地下室で、未来の不確定性にあこがれを持つある兄妹が、「電気神」を開発しようとすることなど、なにも不思議ではないだろう。
「おにいちゃん、今日は量子軌道の変化に不規則性があったよ」
「そんなもの、日による湿度の変化による観測結果の誤差の範囲だろう」
兄妹は宇宙の法則の範囲の外にある電気反応を見つけようとしていた。それは、おそらく「神」と呼べるもののはずで、それは不確定な未来をつくりだすもののはずだった。
「おにいちゃん、今日の実験のことも解析されていたよ」
「ふん、わかってるよ」
兄妹のそうした試みは、しかし、すべてコンピュータの解析結果に載っていた。兄と妹は実験の方法をサイコロで規定しようとし、直観で決めようとしたが、サイコロの出目は物理法則でコンピュータに予測され、直観と呼ばれるものはニューロンの化学法則でコンピュータに予測されるらしかった。
コンピュータに予測されるような実験で、「電気神」など生まれるはずはなかった。
***
ある実験回路のなかで、第十一次元につながるミクロ・ホールが生まれて、量子がこの世界から第十一次元にひとつ、はなたれた。
量子の三次元世界からの損失は、聡明なコンピュータによって予測され、コンピュータの未来解析は絶対性を保ったままであった。
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第十一次元で、ひとつの量子が、無限とも定義できる時間を経てエネルギーを分配し、ひとつの宇宙をつくった。
読んでくださる方がまいにち増えていて、作者として、とてもしあわせです。 サポートされたお金は、書籍代に充てたいと思います。