雨、傘、ふたり

「ねえ、どこ行くの？」

「コンビニ」

「さっき行ったばかりじゃない？」

「トイレが壊れてて使えないんだ」

「私も付いて行っていい？」

「いいけど、何も買わないよ」

外に出ると雨がシトシトと降っていた。君はなんだか嬉しそう。

「傘差して行きましょ」

「コンビニはすぐそこだから、傘はいらないよ」

「音が好きなのよ」

「音？」

「傘に雨があたってポツポツって音がする。その音を聞きながら歩くのが好きなのよ」

「それって鼻歌を歌っていたら、知っているようなリズムになって嬉しくなるときに似てる？」

「あなたってたまにおもしろいこと言うわよね」

ぼくたちは一緒の傘に入って歩いた。雨の音を聞きながら。

「雨って不思議だと思わない？」

「どうして？」

「空から水滴が降ってくるのよ。それにいつも決まった量が降るわけじゃないわ」

「言われてみたら不思議だな。電車に乗っているサラリーマンも雨が降ってきても表情を変えないし」

「でも、となりの家で飼っているネコは雨が降ると悲しそうな顔をするの」

「君って大事なことによく気づくよね」

「どういう意味？」

「わからなくていいよ。それでいい」

雨はまだ止みそうにない。街全体を濡らして人々の心の中まで染み込んでいる気がした。

「明日は雨止むかな」

「となりの家のネコの表情を見ればわかるわ」

「君って不思議な人だよね」

「それって悪いこと？」

「いや、悪くない。君はそのままでいい」

「帰り道は遠回りしましょ」

君はそう言うと、傘を持つぼくの手の上に自分の手を重ねた。
君の手は冷たかった。
ぼくはもう片方の手をその上からそっと重ねて、少しだけ強くにぎった。