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2022年で一番感動した物語。

2022年も残すところあと1ヶ月となりましたね。
昨日の本棚の整理のついでに、今年読んだ本を振り返ってみました。数えてみると、紙の本とKindleを合わせて40冊程度でした。


今年もステキな本との出会いがたくさんありましたが、中でも一番感動したのは上橋菜穂子さんの『香君』です。

上下巻セットの長編だったのですが、続きが気になって仕方なくて実は丸1日で読み終わってしまいました。たぶん6時間くらい連続で読んでいたと思います。

ちなみに今回はKindleで購入していたので、今後本棚の大整理をしたとしても、ずっと手元に置いておけそうです。よかった。


さて、上橋菜穂子さんの代表作といえば、『精霊の守り人』シリーズや『獣の奏者』、『鹿の王』など名作ばかりです。メディア化されているものも多いので、読んだことはなくともタイトルだけ耳にしたことがある方もいるのではないでしょうか。

そんな上橋菜穂子さんが2022年に出した新作が『香君』です。

遥か昔、神郷からもたらされたという奇跡の稲、オアレ稲。ウマール人はこの稲をもちいて帝国を作り上げた。この奇跡の稲をもたらし、香りで万象を知るという活神〈香君〉の庇護のもと、帝国は発展を続けてきたが、あるとき、オアレ稲に虫害が発生してしまう。時を同じくして、ひとりの少女が帝都にやってきた。人並外れた嗅覚をもつ少女アイシャは、やがて、オアレ稲に秘められた謎と向き合っていくことになる。
Amazonの作品紹介より引用


上橋作品のすごいところは、ファンタジーでありながら、とてつもないリアリティを感じさせる点です。著者による「あとがき」にも書かれていますが、一つの作品を仕上げるために膨大な量の文献資料を参考にしています。

もちろん「ファンタジー」なので、登場する植物や人物、地名は架空のものなのですが、そこに発生する現象には裏付けがしっかりなされています。だからこそ、物語の世界に惹き込まれてしまうのかもしれませんね。今回の作品の中心にある「稲」の問題は、現代の農業にも通じる部分がたくさんあると思います。

また、「ファンタジー」と言われると、ハリーポッターや指輪物語のような西洋を基盤にした世界観が思い浮かぶかもしれませんが、上橋作品はそれらとも一線を画しています。「どこでもない国」でありながら、何となくアジアを彷彿とさせるような独特の世界です。文化人類学者でもある著者だからこそ、緻密かつ圧倒的な世界観が生み出せるのだと思います。


そして何より、登場人物がいい。
正義と悪のようなわかりやすい二項対立ではなく、それぞれが自分の信念や大切なもののために行動する様は、現実世界に近いです。そうした矛盾とか葛藤を抱えながらも、ひたむきに進もうとする主人公たちに共感を覚えます。世界観と同様で、すごく「多様性」を感じさせる作品です。


こういう作品をぜひ子どもたちに読んでもらいたいです。ちょっと時間はかかるかもしれませんが、小学校高学年くらいから十分読めるのではないでしょうか。大人も一緒に読んでみて、お互いに感想を交わすのも楽しいと思います。

上橋作品にはいつも感動させられますが、今作もその期待を裏切らない名作でした。それだけに、読後は心地よい余韻とわずかな寂しさも感じます。

「もっと読みたかった」
「この続きはどうなるのだろう」

こんなふうに思える作品に出会えるのも幸せなことですよね。まちがいなく2022年で一番感動した物語でした。


みな

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