就活生の代わりに、就活に対する不満をつらつらと。
───さて、今年もアドベントカレンダーの季節ですね、田口さん。
田口 ね。今年で3回目です。ありがたいですよね。改めて過去分を読み直しましたが、今の就活生たちが読んでも古くないというか、明日からすぐ試せるメソッド記事もあったりして、まだまだ読んでもらう価値があるなと思っています。今年の分も含めたら、仕事とつくることの折り合いに悩んだ人たちの群像劇みたいに見えるんじゃないかなと。少なくとも一記事くらいは共感できるものが絶対あるはずです。
田口 とはいえ、「ほとんど古びてないというのもどうなんだろう」とは思っていて。
───というと?
田口 過去の記事が全然古びていないというのは、要は"就活の根本的な課題は変わらないまま、解決されていない"ということだと思うんですよね。だって「面接で10年後どんな自分でありたいかを聞かれてもどう答えていいかわかんない」なんて、自分が就活やってた15年前からみんなずっと言ってることなんですよ。それって本当に15年もみんなで悩み続けるべきことなんですかね?と、いうようなことを2年前のアドベントカレンダーには書いています。
───確かに。
田口 つまりこれって、「自分が学生の時に聞かれてもよくわからなかったこと」を、面接する側になった人たちが、無自覚に学生に問い続けてしまっているということでもあると思うんですよ。「人にされて嫌なことは、人にはしないようにしましょう」とそんなに変わらないレベルの話がずっと続いているようにも感じていて。いつまでやるんですか?と。打ち解けた後の飲みの場ならいいですけど、ジャッジの場で聞くのってなんかフェアじゃなくない?と。全然良い問いじゃないのでは?
───怒ってますね。
田口 はい。怒っています。初回から申し訳ないんですけど、今年は学生の代わりに俺が不満を言いまくる、がテーマでもいいかなと思っています。僕が上から「就活はこうすべき!」みたいな攻略法めいたものを提示するよりも、そういうのはこれから先輩執筆陣たちがそれぞれで書いてくれると思っているので。
学生も、自分を責めるだけになっているくらいなら多少は怒りや不満を口にしてもいいんですよ、と思っています。就活には、理不尽で、空虚な部分があります。もちろんまるっと否定するのも乱暴です。でも、どこが理不尽でどこが理不尽じゃないかも、もうほんとぐっちゃぐちゃになっちゃってると思うんですよね。結果全部「自分のせい」みたいになっている。ここは怒っていいところなんだなと理解することだって、就活に立ち向かうためのエネルギーになっていくと思うので。
とはいえ怒ってばっかりでも何も変わんないので、「ここらへんから変えたいよね」という所信表明記事にしたいなと。
───なるほど。となると、直近の大型合説イベントのやり方が去年とはずいぶん変わりましたよね。あの辺も怒りのパワーですか?
田口 や、ぜんぜん怒りだけではない(笑)。大きく変わったのは、昨年当日リアタイ前提だった配信が、今年はアーカイブで企業の説明会が見られるってところですね。TVer方式です。
───12/2(月)オンラインイベント実施後のアーカイブのことですね。あれすごいですよね。企業にアーカイブの許可を得るのは大変だったんじゃないですか?
田口 僕は企業の対応に関わっていないので大変ではないのですが、ReDesigner for Studentを使う企業の対応をするReDesigner for Studentの斎藤、森内、折原は相当大変だったと思います。学生向けに説明しておくと、企業合説のアーカイブって難しいんですよ。大々的にオープンにはしない情報も含めて説明会をしてくださる企業もたくさんあるので。複数社が出るイベントだと、一社でも「アーカイブはちょっと…」となってしまう時点で、不平等が生じてしまう。だからやりたくても簡単にはやれなくて。
───しかも今回厳密には説明会ではなく、”クリエイティブの裏側公開”なんですよね。
田口 ですです。説明会って普通は企業の基本情報、理念とか福利厚生とかから説明されたりすると思うんですけど、あれってよく考えたら後からでも調べられるわけですよね。説明会は、「知らない企業がこんなおもろいことしてる!」と学生が知ってくれるところを狙うのが良いと思っていて。クリエイター就活においては、やっぱつくってる裏側ですよね。他プラットフォームさんのイベントなんかもそういうものが中心になっていて、それは総合職就活市場と比較してすごく良いところだなと感じます。
今回アーカイブを前提にクリエイティブの裏側公開というコンセプトで説明会に出てくださる企業さんたちはみんな、こういう細やかな「就活の”アタリマエ”を変えたいんですよ」というところの説得に耳を傾けた上で共感してくださった企業とも言えるわけです。その辺も学生に伝わると良いなと。
───クリエイティブのプロセスが見られるのは、制作の参考にもなりそうですよね。
田口 それが狙いです。やっぱ現場のノウハウやナレッジ(知識)ってなかなか学校では学べないところもあるので。「こうすれば早く作れるんだ」とか「ここは手作業なんだ」とか色々あると思います。
アーカイブを何回も見てほしいし、当日リアタイできなかった人も後から見てほしい。恥ずかしげもなく言いますが、プチバズじゃないですけど、「あのイベントはおもしろかったから見てもいいかもしんない」みたいなことが学校の中で起きてくれるといいなと思っていて。就活大事だから見るべき、じゃなくて、おもしろかったよ、という文脈で。
───説明会以外の部分の工夫に関してはいかがですか?
田口 今年の大型イベントは、12/2(月)の配信イベントと、12/14(土)のオフラインイベントを合わせて2daysの開催になっています。こっちは来られたら来てね、くらいの温度感です。が、ちょっと一石くらいは投じたいなと思っていまして。
───一一石投じる、ですか。
田口 はい。もちろん学生と企業が直接交流できますよ、というよくある就活イベントでもあるのですが、イメージとしてはカンファレンスというか、もう少し「学生ががんばって自己PRする」「企業が学生を捕まえる」みたいなイメージではなく、大人も学生も”はたらくってなんだっけ”ということを考えられる空間になると良いなと思っていて。
書籍スペースとかちょっとした作業が出来る机とかそういう細々した「ひとりで考えられる」工夫は昨年度に引き続き用意しているのですが、個人的には「今年のトークセッションはやりたいことがひとつ叶った」という感じがあって。
───トークセッション。”はたらく”が不安な学生のための、と題された二つのゲストトークセッションですね。
田口 ひとつめは「結婚と子育て」。もうひとつは「心のケア」です。「結婚と子育て」は、大学在学中に結婚と出産・育児を経験し、育児されながら就活をされていた方がゲスト。「心のケア」は現在も精神疾患の当事者でありながら、企業で多様性・公平性・包括性、そして帰属性に関する取締役としても活躍している方がゲストです。
お二方とも数年前までReDesigner for Studentユーザーで、現役のデザイナーであり、テーマ当事者です。そしてこのアドベントカレンダーでも筆を執ってくださる予定です。ちなみに、現役学生の当事者もひとり、今回のアドベントに参加してくださいます。
───こういうテーマはずっとやりたいっておっしゃってましたもんね。
田口 はい。自分的にはこういうテーマ"だけ"のイベントを開催するのではなく、就活イベントの中にこういうテーマを持ち込むことがめちゃくちゃ大事だと思っていて。そこの境界を融かしたいんですよ。
学生は「内定までの攻略法」、企業は「効率的な採用活動」を、我々が開催する就活/採用イベントへの参加最終目的にしちゃうものだと思います。それは当たり前のことなのでそれで全然いいんですけど、やっぱりそんなストレートな話には結局ならないじゃないですか。
───特に学生は悩まざるを得ない。
田口 そうです。学生は内定もらったり入社した後も悩むんですよ。「あれ、内定もらっても別に先行きが全部明るくなるわけじゃないじゃん」みたいな。同級生がもらった内定先が自分の内定先より良く見えたり、パートナーや家族の将来のことも考えなきゃいけなくなったりして。
───よく「将来に関する悩みや不安は消えないので、どう付き合うかの方が大事」っておっしゃってますもんね。
田口 僕は36歳ですが、全然不安ですしね。結婚、育児、ローン組んで家買う、を一旦経験してみましたが、あれ、これ俺がもし仕事できなくなったりしたらこの家族はどうなるんだろう?みたいな。わけわかんなくて眠れない日全然ありますしね。
でも、決してそういう不安に対して「対策を立てておこう」「あらかじめ理解しておこう」ということを言いたいのではないんです。まず「そういうことで悩んでいいんだ」とか「考えていいんだ」と思ってもらいたいなと思って。
───「悩んでいいんだ」と言いますと?
田口 どこか就活生たちは、例えば「今一緒にいるパートナーや家族との関係性は、就職活動に持ち込んではいけないものである」と思っている人が多いように思うんですよね。内定報告をもらって、おめでとう〜!とか言っても冴えない顔をしていて。ちょっと踏み込んで問い詰めてみると、「恋人が地方を転々とする仕事に就くことになってしまった。好きだからどうしていいかわからない」と。
キャリア相談を受けていて、たまに恋愛相談のようなことにもなるんだと言ったりすると、「楽しそう」とか「そんなことまでやるんだ」とか言われたりすることがあるんですが、学生たちにとっては全くもって切実な話題だし、切り分けて考えられないことだってあるじゃないですか。
───なるほど。
田口 加えて、やはり何らかの疾患や特性を持つ学生や、いわゆる診断経験はないものの、気持ちが落ち込みがちだったりどうしても朝起きられなかったりする就活生たちがいるわけです。で、そういうのって「就活で話すわけにはいかない」とか「それは自分の心が弱いせい」とみんなアタリマエのように思っているんですよね。
一方ケアと呼ばれる領域では今、「障害の社会モデル」と言って、「障害を持つ人に、社会の都合を押し付けて良いのか?」という考え方に基づく議論や研究が盛んなんです。「エレベーターがない建物で、車椅子の人が2階に上がれないのは、車椅子の人の責任ではなく、その建物の責任だよね」という考え方です。
田口 おそらく朝起きられないことを「怠けているせい」と断じてしまう人が多いと思うのですが、「どんな人も全員9時出社で働く」「必修の授業が9時スタート」と言ったことは、「マジョリティの都合にマイノリティを付き合わせる」ことになっていないか?と立ち止まって考える潮流があります。
───まずはそういうことを知ってほしい、と。
田口 はい。もちろんそれぞれのゲスト当事者たちのストーリーに勇気や元気を持ってほしいということもあるのですが、もうひとつあるのは、これまでの「社会や就活のアタリマエ」を、これから社会に出ていく学生たちにはなんとなくでは再生産してほしくないんですよ。どんな会社でどんな仕事に就こうと、社会を形成する権利と責任があるし、就活がしんどければしんどいほど、「これはなくても良いようなアタリマエなんじゃね?」は精査できるようになるといいなと。
で、これを採用する側の企業の方々も聞きに来てくださるんですよ。
───おお。
田口 このセッションは企業も学生も同じ目線で聞いてもらえるかな、と思っていて。もちろんそれぞれが考えたり感じたりすることに違いがあるとは思うんですけどね。
でも、就活を目的にしたイベントにこういうテーマを持ち込んで、その上でお互いを理解し合うための交流を図ってもらう。これは多分に漏れずめちゃくちゃしんどい想いをしながら就活をやっていた若い頃の自分にもちゃんと自慢できる仕事なのかな、と思っています。
───報われる学生が多くいるといいですね。
田口 本当に。12/2(月)、12/14(日)、気楽に遊びに来てほしいです。アドベントカレンダーも楽しんでください。ぼちぼちいきましょう。