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災害やコロナ禍に屈しない畜産現場の取り組み

『なるほど!畜産現場』シリーズ第2回は少しシビアな内容に踏み込みました。表題の通り、新型コロナウイルスや豪雨被害などが畜産に与えた影響や現場から感じた不屈の精神をまとめていきましょう。

①乳用牛を扱う現場は?

はじめに、昨年にも取材させていただいた千葉県館山市の須藤牧場へ赴きました。というのも、館山をはじめ千葉県の全域にかけて2019年の夏には豪雨被害が相次いでいました。当時にもこちらで豪雨について触れた記事を執筆しました。

須藤牧場はこの大型台風によって大変な打撃を受けました。牛舎の損壊などは写真などを通してみても凄まじく、昨年、牛舎のなかにお邪魔して須藤さんたちが牛のケアを丹念に行っている様子を側から見ていた立場として心が痛みました。番組では扱いませんでしたが、去年の取材ロケ中に誕生した双子の子牛のうち、1頭がこの台風の影響で亡くなったことも知り、複雑な感情になりました。あれだけ須藤さんが急いで母牛の元に毛布を持っていき、生まれたばかりの子牛を乾かしていたので。

しかし、須藤牧場はこの被害を受けても事態に屈することなく、自分たちの現状を報道機関やFacebookなどを通じて発信をし続けました。また、牛舎が停電になった際も牧場が抱える電力の設備でなんとか復旧の糸口を見つけられたのこと。非常事態でも冷静に打開策を打ち立てられた須藤牧場の皆さまは、こうして豪雨被害にも負けない強さを発揮しました。ちなみに、現在、僕が哺乳をさせていただいた「チーバちゃん」は元気に育っていっているようです!都合上、牛舎には立ち入ることができませんでしたが1年間でずいぶん大きくなったんだろうなと感慨深い思いです。快適に牛舎で暮らしてほしいと、切に願います。

続いて、新型コロナウイルスの影響はどれほどだったのか伺いました。結論から言うと、COVID-19が乳牛に健康被害をもたらす、といったトラブルはなく、より差し迫る問題として消費者が自粛したり、乳製品を取り扱うお店が活動できなくなることによって消費行動が落ち込むという経済的な問題が挙げられるそうです。たしかに、お店が自粛要請を出されて営業を停止してしまえば、それだけ牛乳を買い取ってもらえないことになりますよね。それに、乳製品は足も速いですから一旦買われないとなると保存も難しく破棄されることになると思うので、生産側も通常の配給の仕方ができにくいかもしれない。しかし、搾乳しないと乳房炎になって母牛の健康に関わると..うーん難しい。

これを受けて須藤牧場では現在、一般消費者の牛乳の購買意欲を高めるためにあらゆる取り組みを開始しました。これまで対面で行っていた搾乳体験といったプログラムは一旦オンラインでの開催に切り替えながら(取材当時時点)、また今では実際に体験できるプログラムを再開しているようです。加えて、健太さんは酪農系のYouTuberとして新たな発信も開始されています。とにかく、牛乳の美味しさと酪農の意義深さをエンターテイニングに発信するという姿勢に頭が下がります。

②肉用牛生産の現場は?

続いては三重県でブランド牛「伊賀牛」を生産されている中林牧場の中林さんに再びリモートでお話を伺いました。こちらでは新型コロナウイルスの影響をメインに取材しました。やはり、乳用牛同様、消費の落ち込みなどが農家としては打撃となるようです。中林牧場では昨年、取材した際にちょうど伊賀牛の育て方のノウハウが世界に認められたことから中国へ肥育技術と共に輸出することを計画していたところだったのです。となると、貿易に関してなかなかハードルが高くなったために農家の活動に制約がかかってしまったと言えます。

しかし、中林さんの考え方でとても希望が持てたお話があります。それは、これからは「国産牛の消費に積極的になる時代を期待する」と言うこと。まさに、地産地消あるいは国産国消のサプライチェーンシステムが確立することで、防疫対策も兼ねて消費行動も持ち戻されるのかと思います。グローバリゼーションもとっても良い概念ですが、一方でローカリゼーションの価値観を持っても良いのかなの取材を通じて思いました。伊賀をはじめ、その土地で生まれ育ったことに価値があるのがブランド牛ですから。

③国の取り組みは?

最後は、上記のような農家さんのサポートから消費行動を高めるような取り組みについて中央畜産会の方に取材しました。

まずは豪雨被害について。やはり、自然災害が起こると問題となる点は停電被害や道路状況の悪化による物流への影響になります。したがって、電力確保であったり農家だけでなく家畜動物たちにとっての避難のガイドラインが整理されているようです。農家にお願いする部分や国が保障する部分とが分けられています。

次に、新型コロナウイルスについて。取材したところ、海外から日本に来られるインバウンドの人口が激減したことによる消費の低下も大きな問題としてあるようです。しかし、牛肉などの需要が下落して肥育農家の収入が減ってしまう一方、豚や鶏などは外出自粛を行いながらも家庭料理のために購入されるという「巣ごもり需要」によって前年よりも消費が高いこともあるそうです。つまり、食品のデフォルトの価格帯によって牛肉と豚・鶏肉で消費傾向が変わったのかな、と推察しています。このように、コロナ禍においては農林水産省の統計調査が状況把握のために重要となっています。

最後に

自然災害は周期的に、新型コロナウイルスは断続的・長期的に畜産現場へも大きな影響を与えています。しかし、畜産現場は生産者たちと国がそれぞれの役割を果たしながら打開策を見出しています。このような苦境の中、改めて畜産物に対する感謝が溢れてきました。引き続き、応援しております。

展示やイベントレポート、ブックレビューなどを通じて、アート・テクノロジーなど幅広いジャンルを扱った記事を書こうと思います。また、役者としても活動しているので劇場などでお声がけさせてください!