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オススメ小説『スカウト・デイズ/本城雅人』

自分のなかで最も誰かに読んで欲しい小説のひとつが本城雅人著『スカウト・デイズ』です。タイトル通り、野球のスカウトマンの世界を描いたスポーツエンターテイメント作品。著者ご自身が記者出身ということもあり、野球界のリアリティとエンタメ性が良く絡み合っています。

とくにオススメしたい読者は「野球界が大好きで華やかな世界と思っている」方たち。近年、空前の高校野球ブームですし、野球自体の注目度が上昇してますから幅広い層の方が野球の面白さを感じているんでしょうが…

そんな人たち、この作品にガツンと食らわされますよ!

今作は、選手たちの裏で駆け引きを行うスカウト業界という暗部を描いていて、「ああ!選手がかわいそうな目にッ!!」、「そんなことまでする!!??」と、1ページずつ衝撃的な心理・情報戦が繰り広げられます。

では、ネタバレしないほどに。

あらすじ

毎年、ドラフトで隠し球を指名するのが『堂神マジック』だ。その怪物スカウトに見習いとしてついた純哉は、次々出される不可解な指示に翻弄される。競合球団を出し抜き、幻手を寝返らせるための想像を絶する手練手管。奪い合いと騙し合い、壮絶な駆け引きに満ちた世界を描いた白熱のエンターテインメント!

補足ですが、この堂神というのは主人公が属する球団ミクロコスモス・ギャラクシーのチーフスカウトです。僕のイメージは北野武さんです。見るからにカタギじゃない厳つい風貌で、狡猾な戦略でドラフト選手を引き入れます。そのトリッキーでショッキングな手腕が「堂神マジック」なんです。

主人公の久米純哉は元々このミクロコスモスで遊撃手を務めていましたが、シーズン途中で戦力外通告を食らいます。そこを堂神がまさに「スカウトとしてスカウト」したわけであります。堂神流のノウハウを叩き込まれながら、優秀な選手を見極める目を鍛えていきます。

しかし、ただの成長物語ではありません!
スカウトの、そして球界の闇を暴いていくサスペンスでもある
のです!

主要な登場人物

久米純哉
ミクロコスモスギャラクシーの元遊撃手。シーズン途中で戦力外通告を受け、堂神からの誘いでスカウト見習いに。堂神の元でスカウト業界で生き残る知恵と戦略を教えられ、時にはその乱暴なやり方に葛藤しながら球団に成長していく主役。
過去に自分を選手としてスカウトしてくれた奈良橋の自殺の真相が堂神と関係することを知り、中盤以降、スカウト稼業と同時にその謎を追う
堂神恭介
かつて久米を指名したベテランスカウト。隠し球の選手を指名し、他球団を圧倒するなど、常識を覆すトリッキーな戦略で有力な選手を引き入れ、業界では「堂神マジック」と呼ばれる。斜視を隠すこげ茶のサングラスとハンチング帽がトレードマーク。マル暴のような裏社会との繋がりがうかがえる風貌。本作の最重要人物。
他球団QBMホールディングスに強力な選手を横流しする間者だという疑惑が浮上する
奈良橋
ミクロコスモスギャラクシーのスカウトだった。堂神とともに久米を指名。しかし、久米が戦力外通告を受ける直前に自殺。その真相はいかに…。野球を取るか、家族を取るか、本作における最大の葛藤を描写するために必要なキャラクター。
島岡達之
スポーツ記者。興味の湧いたスクープには、上司に食ってかかってでも徹底的に追求。過去に堂神が他球団に引き抜かれるという誤報を打ち出し信用を失った。しかし、再び堂神に接近することで新たな事実を発見する。久米に堂神の寝返り疑惑の情報を伝え、堂神そして奈良橋の死の真相を調査

このほか、梅園出村新城天王寺といったスカウトの同僚が登場します。それぞれ異なる地方を担当するミクロコスモスのスカウトです。詳細は省きますが、それぞれ個性的でストーリーに関わってくる重要な人物たちです。

そして、なんといっても欠かせないのが、選手たち。ミクロコスモスが欲しい人材の選手は特に出自から注目してみてください!謎が解けますよ!

「ここが面白い!」ポイント①ストーリー構成

この話、なんと物語はブラジルのスラム街から始まります!

日本の球界が舞台の話なのに「なんで!?」って思いませんか?

久米は、ある目的でスラム街にそびえる廃墟のビルへ行くと、ガイドと共にマフィアに遭遇!いきなり銃口を向けられます!久米はある行動で、その場を切り抜けるんですが。

いやいや、俺、違う小説作品読んでんのか、と思うほどの世界観のギャップ。

野球スカウトがなぜこのような修羅場を迎えるのか!?

そこから物語は3年前に遡り、経緯を描くという流れになっているんです。徐々に「なるほど!そういうことか!」と納得していきながら読み進められるのでページをめくる手が止まりません!

「ここが面白い!」ポイント②巧みなドラフト戦術

この本読んだら、ドラフトが怖くなってしまいます。「ドラフトで指名された!やったー!」じゃないんです!

たとえば、序盤。ドラフト直前の試合観戦後に久米と堂神は他球団のスカウトと遭遇します。そこでの会話はすでに「誰を、どの順位で指名するのか?」を探る心理戦・情報戦になっているんです。そこで、堂神は

「故障持ちの疑いがある選手を上位で指名する」

と、声高に伝えるんです。久米を含め、周りは驚きを隠せません。いったい、この堂神という男はなにを考えているのか。ぜひ、お読みください!どんでん返しが始まりますよ。

そのほか、堂神はドラフトで確実にスカウトとして結果を残すために選手たちにも厳しい条件を課すんです。ほかの球団とはコンタクトを取るな!とか、自分が引き抜かれることは黙ってろ!とか。そりゃ堂神の言う事を守る方が得でしょ、とも思いますが自分を信頼してくれてる今の高校・社会人野球チームの同輩にもですよ。友情を切り捨てろ、ということです。ああ、こわ。

そして友情だけじゃありません。「家族」の縁も切るように言います。なぜか?
お確かめください!

「ここが面白い!」ポイント③犯罪スレスレなスパイ工作

球団から選手への賄賂など、かなりやりたい放題やられていたスカウト業界。

今作でも、敵対する球団の闇を暴くために主人公久米がダークヒーローと化す瞬間があります。特に、キャバクラのシーンが絶妙に面白くて、ハラハラしますよ!

また、堂神のほぼほぼ恫喝めいたスカウトの仕方がヤバいです。その結果、選手に「2度とプロ野球に入りたいなんて言いません」と言わせるくらい。他にも拉致寸前だったり、ありえないっしょ〜!とも思いますが、びっくり。堂神にはモデルがいて、わりと事実っぽいです。

注目!ストーリーに関わるナゾとカギ

奈良橋の死
久米を指名した奈良橋はいったいなぜ自殺をしたのか。奈良橋の葬儀の参列者に重要な人物が並んでいるのでチェック!

他球団QBMホールディングス
ミクロコスモスは予算も限られた弱小球団という扱い。対して、「Q」はいわばソフトバンクホークスのような莫大な資金を持つ企業がバックについています。

堂神のヘッドハンティング疑惑
堂神の行動が怪しく、島岡記者が疑うQBMからのヘッドハンティング。であれば、堂神はミクロコスモスに所属しながらQの利益になるよう動いているのか!?

堂神の風貌
堂神のサングラスは「こげ茶」ということだけを覚えていてください。

闇の交際
闇社会の人もしばしば登場します。スカウトとはどう関わるのか必見です。

最後に:続編『スカウト・バトル(スカウド・デイズ 慧眼)』も!

本作は、続編も登場しており、久米や堂神のその後を描いた短編集となっております!合わせてどうぞ!

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