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小菅村で食の循環を考える~多摩川の源流を訪ねて(2023年1月28日)


1月28日にフードスコーレのイベントに参加させて頂き、山梨県小菅村での食の取り組みを学ぶことで、フードロスなどの食の課題を学ぶ場へ参加させて頂きました。

現地の小菅村で多摩川源流大学を運営されている石坂さんに案内して頂きました。

生ゴミ堆肥化工場


 最初に訪れたのがおが屑(木くずや間伐材など)を利用して生ゴミから堆肥を生産している施設へ訪問、村中の家から発生する食品残渣(野菜、肉、魚など)を回収し、スギやヒノキのおが屑を半分入れて75℃で発酵、微生物の力で2週間熟成し、土壌改良剤として道の駅で販売しています。この一連の流れや作業を600人と小さい村ですが、1名の方だけで担当しているのが驚きです。

おが屑と生ごみを混合し、これから発酵


 循環システムを構築するときに規模が大きすぎると、関係者が多すぎて全体合意が得られにくく、複雑なシステムを構築して導入することとなってしまうので、これぐらいの規模でまずは実践することが導入しやすく、顔が見える範囲なので合意も得られやすいと思ってます。
 この土壌改良剤である畑の素(16kg)で500円のワンコインは販売しているのも驚き、安さで近隣から道の駅での人気商品だそうです。

小菅の道の駅で販売

この施設だけでなく、村人全体に東京の水瓶なので村を汚してはいけないとの意識が高いです。昔から東京都が源流地域の森林保全をしていた影響もあると思いますが、都民は村民たちの思いをもっと紡いでいけないのかとも思っています。

こんにゃく畑


ランチを食べてから向かったのはこんにゃく畑。小菅村には平坦な土地が少なく、川の近くの平地は住居として利用されるため、家の上の山の急斜面に畑を作っているので、道路が整備されておらず、農作業道具を運搬する必要があり、重労働で大変です。景色はとってもいいんですけどね。

斜面にこんにゃくが株が埋まっており、緑は保護作物として麦を植えています。

 昔は小菅村でかなりの量のこんにゃく芋が作られて、群馬県のこんにゃく加工工場へ卸していましたが、農作業の高齢化、後継不足、そして急斜面での重労働で、今では道の駅のような所でしたか販売してないようです。 印象的だったのは、獣害を防ぐために電気柵が畑の周りに張り巡らされていたこと。急斜面での農作業だけでもしんどいのに、鹿や猿にら食べられるのまで注意していたら、本当にやってられないですよね。 それほど畑や茅場のような動物と人との境界地がなくなってしまい、お互いの接点が増えてしまっている問題が発生しています。

ワサビ田


 次に訪れたのがワサビ田。山間の清水の脇に綺麗に石垣を作って、満遍なく水が行き渡るように作られています。この石垣がないと空気や養分が適度に通過しないのでワサビが育たないにもかかわらず、今や石垣を作れる人がいなくなってしまってます。

 

のワサビ生産地でも台風で石垣が崩れてしまうと、立て直すところが始めないといけず、復興が遅れており、品薄で値上がりしてしまっています。 昔は林業で山に入っていく傍らで、山の中腹のワサビ田の手入れを行い、副収入としていましたが、小菅村で林業は整備以外に成り立っておらず、伝統的な農業も徐々に衰退してしまっているようです。

 

小菅養殖場

 
 最後の訪問は小菅養殖場へ。ヤマメ、イワナ、ニジマスなどを養殖しており、日本で初ヤマメの養殖に成功した場所です。清流の水は冬には3~4℃となるために成長が遅く、川の水を取り入れた養殖は自然からの影響を受け、本当に水の管理は厳重です。イワナというと丸焼きの串刺しレベルのサイズをイメージしますが、ここでは3~4年成長させた刺身用としてかなり大きなサイズでビックリさせられます。

多摩川源流の清流を利用した小菅養魚場
40~60㎝の巨大なニジマスも
かなり伝統を感じます
こちらが富士の介


 ここで注目されたのは、キングサーモンとニジマスを掛け合わせた「富士の介」という山梨ブランド魚。かなりの大きさで、旨み、舌触り、脂の乗りの点でも高評価のため、時価で購入させて頂き、刺身、なまろう、鍋などの料理して、美味しく召し上がらせて頂きました。


小菅産を利用したほうとう作り


 最後には小菅村で調達した野菜、魚、現場見学したこんにゃく、富士の介も入れた「ほうとう」などの料理をみんなで作り、お腹いっぱい食べて無事終了しました。
 個人的に面白かったのが、小菅村の固有種のじゃがいもで、サイズはとても小さいにもかからず、味は濃く、保存性がよいとのことで、地元の小菅村の方々が自分たちで固有種を保存して栽培を引き継いでいるようです。
 近年も大雪が降って交通が遮断され、物流がストップした時もジャガイモを食べてしのいだようで、伝統の知恵は現代でも活用できることが証明されています。やはりその土地の伝統食は気候、地形、風土に合理的に残っていった産物なんですよね。私自身は大きなサイズの加工用のジャガイモしか見たことがなかったので、サイズが小さいからという効率性を重視し、大量生産から切り捨てられた地産地消ルートの食システムも現代に残っていることに気づかされ、伝統的食材が廃れていく前に保存していく必要を強く感じました。

最後に

 改めてフードロスとは直接関わる視察は堆肥化工場だけだったかもしれませんが、600人という小さい村コミュニティだからこそ、出来る取り組みが多々あったと思っています。普段は東京に住んでいて、都市部をイメージしたコンテクストで考えるといろいろな取り組みが破綻し、実現性は厳しいことばかりとなるので、循環システムを回していくような取り組みは小さな地域の中でまずは回していくことが解決策の糸口だと感じています。

 そして一番感じたのは、伝統的な農法や食材をどうやって受け継いでいくのか、時間軸の方向でも食を保存し、多様性を維持しながら、循環させていく必要があると思います。江戸時代の食事を現代にそのまま再現するのではなく、現代の形へアップデートする必要はありますが、「地域の固有種こそ高い価値がある」という価値の転換させていかないといけないですね。
 
 小菅村を訪ねたグループには若い人が多く、田舎=ダサい、住みたくないという一昔前の価値感が徐々に変わってきている気がしました。これからの時代は大きな取組みよりも、小さな成功例の積み重ねができる場に若く、優秀な人が集まってくるので、ボトムアップで自分で意思決定するスタートアップの生態系なんかと地域創生プロジェクトの共通性があることにも気づかされました。
 東京都民として、いつもお世話になっている水を提供してもらっているにもかかわらず、ほとんど知識がなかったことには素直に反省したいと思います。

 温泉には入れず、ジビエなどの取組みも気になるので、暖かくなった頃にまた小菅へ訪問したいと思います!